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58話 夜の会話

「本当に魔法銀の箱、私が貰っちゃって良いんですか? 証拠として押収しないんです?」

「ああ。他の容器と見分けは付かないし、呪いの影響は無いとは言え、使う気にはならん。」

「自分もっすね…。」


 ふむふむ。そう言うことなら遠慮無く貰おう。



「ふふっ。私も遂に魔法銀の道具を手に入れたかあ。感慨深い…。」


「…。そんな珍しい物でも無いだろう。気味悪いな…。」

「お言葉ですけど。

 私、これでも非魔種の最底辺冒険者、の成り損ない、なんですよ。魔法金属のアイテムとか夢のまた夢なんです。

 一人前になっても手が届かない物を所有できるんですから、少しくらい(ひた)っても(ばち)は当たらないでしょう? 特級冒険者(お2人)とは違うんです!」


「…。そーだなー…。」

「…、」



 現在はもう日が暮れて、ほとんど夜である。


 晩ご飯は、昼間の照り焼き風お肉の残りと、温めた具無しワンタンスープをいただいた。


 ウカイさんはここでも食べなかったけど。

 まあ携帯食は持ってるって言ってたし、この人なら数日食べなくても問題無いんだろう。自由にしたらいい。


 シリュウさんの灯りでぼんやり明るい中、食事を済ました。




 さて、そろそろ寝るとしよう。

 鉄テントを厚めに設置。ウカイさんがうっかり(・・・・)侵入しようとしても大丈夫な様に分厚く分厚く。お2人はそこらの石に腰掛けるだけで十分とかで、鉄小屋の素材は全て撤収しているから贅沢に使えるのだ。

 魔法銀の箱ももちろん一緒。ウカイさんがくれたただの革袋に入れて鉄テントに持ち込んでいる。


「それじゃ、お休みなさい。」

「ああ。」


 テントの入口で鉄の靴を外して、髪留めから酸素供給モードにして灯りも確保してっと。

 リクライニングシート的な丸みのある、鉄のスプリングベッドも…よしよし、慣れたものだ。


 最後に水で口を(ゆす)いで、っと。


 寝れたら寝るかぁ。


 疲れてるけど、他人(ウカイ)さんが居るし、微妙に緊張もしてるんだよなぁ。


 さてはて…。




 ──────────




「アニキ、このまま話してもいいっすか?」

「…。別に良いが、ウカイは寝ないのか? 今日はかなり精神に負荷掛かってたろ。食事はともかく睡眠は必要だろ?」

「アニキのお陰で原因は無くなりましたから。」

「半分はテイラの力だろ。それにこれからギルドにどう伝えるかの方が余程面倒だろうし。」


「まあ、ネーズン様、いえ、ネーズンの処分・追跡が必要ですからね。本部にどう伝えたものか…。」

「とりあえず俺も無関係じゃない。名前出していいぞ。本部の奴等なら俺が関わったと知れば本腰入れるだろ。」

「いや、それはそれで事態が大きくなり過ぎるような…。」

「呪いの案件だ。腹くくれ。

 ほら、これやるから。」


 シリュウは自身の黒袋から、赤い光を放つ小さな石を取り出す。



「ア、アニキの魔石ですか…!? こんな魔力を()めた物をどうしろと!?」

「俺が関わった証明だよ。魔法板に署名もできないんだから、これが一番確実だ。終わったら好きに使え。」

「いや、返しに来ますよ!? でもなんでここまで?」

「それは半分口止め料だ。今回の件にテイラが関わったことはなるべく話すな。テイラがやったことは適当に誤魔化せる範囲だろ? 上手くやってくれ。」



「…、あの子。一体何なんです?」


「…。さあな。俺にも全貌は分からん。相当過酷な人生を送ってるのは確かだろうが。」

「独特で偏った知識に、きちんと教育を受けたらしい敬語。そして、あのハシとか言う2本の棒を付けた金属腕で食事を取る姿。かなり奇っ怪、っす。

 それに、昼間の()()()。呪いの力じゃないっすよね…? 精霊の様な、とてつもない魔力でしたけど、あれは一体…?」


「…。ウカイ。俺の話を聞いて戻れなくなるのと、何も聞かずに日常に戻るの、どっちがいい?」

「ここまで来たら同じじゃ…?」

「いや、テイラがウカイに話した内容は表面上…のことだけだな。まだ深層のおかしな話はしてない。俺もいくつか聞いただけだが。」

「マジっすか…。〈呪怨(のろい)〉が表面っすか…。」


「テイラについては俺もちゃんと対応したいと思っててな。ウカイはかなり情報通だろ? 外からの情報を手に入れられるのは助かると言えば助かる。」

「アニキにも、あの子にも一応、救われた身ですし、力にはなりたいです。っす…。」

「テイラで多少慣れたから、丁寧な言葉でもいいぞ?昔みたいに様付けで呼んだらぶっ飛ばすが。」

「…。分かりました。アニキ、聞かせて下さい。」


「ちなみにウカイが知ったと伝えたら、テイラが呪ってくる可能性もあるが、大丈夫か?」

「なんでここで決意を揺らがす様なことを(おっしゃ)るんですか…。」

「まあ、その時はちゃんと俺も助けはするぞ。」

「…、聞きます。あの子、テイラ嬢のこと、話してください。」


 シリュウは言葉を選ぶ様に視線を彷徨(さまよ)わせ、やがて口を開いた。



「──ラゴネークのトスラに、セル・ココ・エルドの風エルフが複数やって来た話、知ってるか? ここ最近の話だったと思うんだが。」


「は、はい? えーと、確か…。去年の初春…頃の話ですね。

 内容は、エルド島の姫君が大陸に誘拐されたから奪還しに来たとか…。実際エルフの姫君はそこに居てエルドに帰還したはずです。当時のトスラのギルマスがかなり出鱈目な事を吹聴したらしく、本部からエルフの人員が出動して場を収めたとは聞いてますね。

 それが、どうしました?」


「…。去年か…。話は合うな。

 テイラはそれに関わってる。本人はそう言ってるな。」

「…え? どこに関わる要素が?」


「テイラとその若いエルフはエルド出身なんだ。島を出て、大陸で冒険者をやってたんだとよ。呪い持ちの非魔種と、全属性を操るエルフの子供が、()()島から2人で。」

「…。嘘でしょう?」 

「多分事実だ。」

「いや、そんなの口から出任せに決まってますよ。アニキを騙して気を引こうとしてらっしゃるんじゃ?」

「そう思いたかったんだがな…。今日、証拠が出てきて否定できなくなった…。」

「え? 証拠…ですか??」


「あの髪留めと風魔法だよ…。テイラは鉄を生み出す〈呪怨(のろい)〉だとウカイには説明してたが、本質は違う。詳細は説明しないでおくが…。

 ともかくあの髪留めは、テイラの親友のエルフから…魔力、を籠めてもらって2人で作ったと言っていた。今日、テイラが放ったあの魔力。風氏族(かぜしぞく)の魔力だとすれば全て説明が付くんだ…。呪いを浄化できる規格外の強さが、な。まさに精霊並みだ。」

「…、えぇー…。」嫌そうな顔…


「それに、あの風魔法を使った際の詠唱。テイラ自身の魔力が無いから意味は通じなかったが、風エルフが使う詠唱らしい響きだった。エルドの言葉は昔のエルフの言語を使うんだろう? 今の大陸で暮らす人間には話せないはずだ。

 …。そんな訳で。テイラはあのエルド出身で、風氏族と知り合いで、トスラの阿呆に冤罪で追放された、〈呪怨(のろい)〉持ちってことだ。

 まあ、それだけじゃ説明が付かない事もいくつかあるが、な。」


「…、本当に…“女王様に見放された”みたいですね、自分…。とんでもない案件過ぎる…。」

「むしろ、『女王』に“()を付けられた”んじゃないか? あいつ、魔王だしな。〈呪怨(のろい)〉本体からのご指名だ。」


「アニキが冗談言うなんて…。この世の終わりだぁ…。」

「ほぼ事実だろ。」何言ってんだ…?

「“女王様に見放された”ぁぁぁ…!」




 ──────────




 ん~? なんかウカイさんがうるさい気がする。分厚いテント越しだから何も聞こえないけど。勘で。


 1発頭にハリセンしたら、気持ちよく寝れるかなぁ?

 ふぁあ…。


起きて会話をこっそり聞いている主人公、なんて展開は有りませんでした~。

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