表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/406

57話 破邪の風

 私の風車(かざぐるま)と、髪留めの風魔力による合わせ技で、〈呪怨(のろい)〉の黒い煙を吹き飛ばせた。


「シリュウさーん! 私、動けないんで、確認お願いしますー!」ぐるんぐるん!


 髪留めの魔力放出もいつまでも続く訳じゃない。そして、ハンドルを回す、鉄アームを動かす私の精神力が多分先に尽きる。


「…。」無言の呆れ眼差し…


 シリュウさんが何言ったか分からんないけど、呪具の方へ移動してくれた。

 あともう少し! 頑張れ私!




 なんか長い。


 あれ? 確認終わりました? もうゴールしていいです?

 シリュウさんもしかして倒れてるとか無いよね??

 ここからだと、風車が邪魔で見えないんだけど。今は視界に緑のキラキラが舞ってて余計に。


「シリュウさーん! 大丈夫ですかー!? もう止めていいですかー!?」ぐるんぐるん


 とりあえず大きな声を出す。


「少し待て!」


 シリュウさんは無事なようだ。相手は〈呪怨(のろい)〉だもんね。慎重に行動してるとかだろう。

 もうちょい頑張れ私!



「もういい! 封印の箱を閉じろ!」


 シリュウさんの声が響いた。

 えーと封印の箱に繋がる針金どこだっけ? これか。


 針金に触れて箱を閉じるイメージを流し込む。

 アームを止めて、髪留めの魔力放出も止める。


「ひぃー…。疲れた…。」




 ────────────




 へたり込んだ私の側に、シリュウさんと、空に逃げてたウカイさんが寄ってくる。


「…大丈夫か?」

「ええ。まあ。鉄腕を動かし続けて疲れただけなんで…。」

「鉄動かすのも体力使うんだな…。まあいい。お陰で色々掴めた。休んでろ。」

「はいぃ…。」 



 私は水筒に入れてある水を飲みながら、2人の話を聞く。


 なんとシリュウさん、入れ物だけじゃなく、中の呪具そのものの確認までしたらしい。道理で時間かかった訳だ…。

 黒い煙を吐き続ける呪いのアイテムとか、よく直視できるね。

 流石の特級(プロ)だな。


「箱はウカイの言う通り、ギルドの標準的な保管容器だ。上級の魔法銀製で、保存の仕掛け以外は何も無い。逆に言えば、呪具を入れるには完全に不適格だ。」

「そうっすか…。」

「そして、肝心の呪具だが…。蜘蛛みたいな形をしてて、呪具特有の物質で出来てるやつに見えた。十中八九、北の海岸に漂着したやつだろうな。」


 この大陸の北側の海は、常に荒れている。

 暴風が吹き、波も常に高いので漁業もできず、人の集落は存在しない。

 この国も北の海岸まで領土があるとしているが、実際問題、人の目が及ぶ地域ではない。


 そして、その北側の海岸には時々、おかしな漂着物が流れ着くのだとか。

 変な形の生物の死骸とか、石なのか金属なのか不明な物質で出来た塊とか、そんなよく分からない物達。


 そんな漂着物の中に時折、自ら〈呪怨(のろい)〉を放つ物体──「呪具(じゅぐ)」が含まれるらしい。


 私のお腹を刺したナイフもこれだったんだろうと推測している。



「どの段階でウカイに取り憑きかけていたかは分からんが、最初は呪いを放っていなかった可能性はある。だが、あの見た目の物をあんな容器に入れてギルド本部に運ばせるのは完全に黒だな。」

「ラットンは最北に位置する関係で、呪具に関係することもそこそこ有ったはず、っすし。誤認したなんてことは無いっすもんね…。ネーズン様は長くマスター務めてらっしゃいましたし。」

「…。まあ、あの呪具が見た目を変える性質が有って、テイラの…謎風(なぞかぜ)…、で元の姿を表した可能性は無くも無いが…。そんな不確かなものをギルド本部に持って行く依頼をするのは疑念しか湧かないな。確かこの国のギルドには〈呪怨(のろい)〉に対抗できる奴らが数人居たから、本部に持って行く必要も──」

「いえ、それが──」

「精霊術の封印師は──?」

「超級パーティの──」


 ふむふむ。数年前の政変で、この国の上層部は割りと混乱した影響が残っていると。貴族との繋がりがある一部の超級冒険者は、その余波で活動を止めたり国外に出たり色々と大変だと。

 普段のクエストは数が多い下級・中級がこなせるけど、特殊な、特に呪具が絡む案件は(とどこお)っていたかも、と。


 まあ、ギルドは国を(また)いだ巨大組織とは言え、一枚岩ではないもんね。冒険者達も、生まれた土地の戦争とか災害とかで進退を左右されることはまま有ることだろう。


 ラットンのギルマスも元々この国の貴族とか言ってたし、何かしら事情が有ったのかも知れない。

 どーでもいいけど。



「…。そうなると呪具(あれ)をこの国のギルドに任せるのは不安があるな。俺がここで破壊するのがまだマシか…?」

「呪具を破壊できる人なんて早々居ないっすし、是非お願いしたいっす。」

「緊急時以外に使いたくないんだがな…。ネーズンの企みが単にあの呪具を破壊させることにあるかも知れんし…。破壊した時に変な効果を発動する場合も無くは無いからな…。」


「なら、私の鉄でかなり分厚(ぶあつ)く包んで封印しちゃいます?」

「…。」無言しかめ面…

「…、」無言怯え…



 その後、何故かやっぱり破壊すると言う話になり、準備を始めた。


 私の封印箱の中に、シリュウさんの特殊な炎を入れて破壊するらしい。

 最初は、魔法銀製の入れ物ごと破壊するつもりだったらしく、勿体ない! と分離させて貰った。


 呪具の確認の時、シリュウさんはハリセンを使って直接触れずに入れ物や呪具を観察したそうな。ハリセンなんかで雑に触れるから時間かかったんだね。

 でもまあ、お陰で入れ物と呪具が別々になっていたから、簡単に隔離して入れ物だけを取り出せたから結果オーライである。



 シリュウさんは呪具を破壊する技を見せたくないとかで、私とウカイさんは離れた所に作った、半開きの鉄小屋で待機だ。小屋は目隠し兼、念の為の盾である。


 とは言え、私には封印箱の明け閉めの仕事があったが。

 鉄の針金こんなに伸ばして大丈夫かなぁ? 操作できるかな?

 一応シリュウさんが自力で蓋できるように箱の形も変えたけど。



 緊急時の合図を確認したり、こっそりアクアを消火用に渡したりしたが、

 問題もなく呪具は消し炭すら残らず消滅した。


 シリュウさんに異常も出ることも無かった様だし、これで安心だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ