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56話 呪具再確認

「では、ドーム開放します。ウカイさん、素早く慎重に触れてください。」

「はい…。」


 ウカイさんは私に対して恐れを抱いているのか、とりあえず従ってくれるようになった。

 まあ、好都合だ。このまま面倒なことを終わらせよう。


 呪具を入れてある箱の大きさを尋ねて、封印用の鉄箱も新たに作った。マジックバッグの上着から取り出せたらこれに入れて貰う予定だ。


 アームの先にハリセン付けたし、ドームから針金伸ばして離れた位置から開け閉めもできる。

 シリュウさんにも鉄ハリセンを持って貰ったし、迎撃態勢は整っただろう。


「いきます。」


 ドームに穴を開ける。やはり黒い煙が溢れてウカイさんに向かってくる。

 ウカイさんは決死の表情で煙に手を突っ込んだ。


「…。」

「何とも無い…っすね?」

「何か破壊したいとか、ムカつくアニキを殴りたいとか、女を襲いたいとか、自害したいとか、心境に変化は?」

「もう手早く終わらせたいっすね…。」ただげんなり…


「シリュウさん。呪いの気配はどうです?」

「…。ウカイの体内に僅かに吸収されてる感じ…だな。ウカイ、とりあえず箱を取り出してみろ。気をしっかり保ってな。」

「…了解っす。」


 ウカイさんがドームに近寄って、開いた穴から手を入れて中の服に触れる。

 恐らくマジックバッグを起動して、中の亜空間から物を取り出すのだろう。


「うっ…ぐぅ…。」


 少し苦悶の表情をしたウカイさんが後ろに下がる。

 手には…何か持ってる。溢れて出る黒煙がまとわりついて何も見えないが。

 私達が見守る中、封印用の鉄箱の中に物を置いて蓋を閉めた。


 ウカイさんの両手は墨汁にでも浸けたかの様に、黒く染まっている。


 パシッ! パシッ!


 シリュウさんが素早く動いて、ハリセンで両手を軽く払った。黒いのが塵の様に散って消える。

 そしてそのままウカイさんの頭も払う。


「どうだ? ウカイ。」

「大丈夫そう…っすね…。」

「ああ。俺から見ても問題無さそうだ。」

「ひぃー…。」ドサッ…


 崩れる様に座り込むウカイさん。

 私はドームに近寄って確認する。


「ウカイさんの上着は、大丈夫そうですかね? 色は黒くなってないみたいですけど。」

「…。ああ。呪いに汚染されては無さそうだ。」


 アームで上着を持ち上げて、ウカイさんに渡す。


「どうぞ。」

「どうも、っす。」




「肝心の呪具の入れ物、確認できませんでしたね。箱開けて、私のハリセンで黒煙を叩きまくってみます?」

「払えるのは払えるが、湧く量を考えると厳しいだろうな。俺の炎じゃ入れ物ごと燃やして中の呪具が出てくるだろうし。」

「ウカイさんの話だと、魔法銀の箱に魔獣革の紐で閉じられてるって言ってましたよね。魔法金属なら火魔法に耐えれるんじゃ?」

「…。〈呪怨(のろい)〉を消滅させる炎は、ちょっと特殊なんだ。普通の魔法金属程度は話にならん。…テイラの鉄なら別だがな。」

「そうですか…。あ、なら、アクアに洗い流して貰うとか?」

「良い手段だが…、出てくる気は無いって言ってる。止めとけ。」


 部外者(ウカイさん)が居るから睡眠モードか。仕方ない。



「ん~。このまま鉄箱に封印するしかないですかね?何かしら手掛かりが欲しいところだけど。

 相手は煙みたいだし、鉄の扇風機を作って吹き飛ばせないですかね?」

「…。センプウキが何かは知らんが。吹き飛ばすのは無理だろう。テイラの鉄が直接触れて呪いが弾けるんだ。…なんで弾けるのか意味分かんねぇが…。」

「まあ、意味不明ならやるだけやってみよう。」



 とりあえず、扇風機の内部構造なんて分かる訳無いから、作るなら手で回す風車(かざぐるま)だな。


 鉄の台座と、その上に風車(かざぐるま)を作る。


 羽は扇風機っぽくして…。中心軸を伸ばしてハンドル付けて直接回せば、風出るかな?

 ベアリングとか無いから回転が微妙だな…。ベアリング用の綺麗な真球を作ってみるか??

 いや、普通に油差すか…? 油が勿体(もったい)ないな。

 とりあえずハンドルをもっと巨大化させて…。軸と筒の隙間を余裕持たせてみて…。接触面がつるつるになる様に変質に集中…、



「おっし。なんとか回る! シリュウさん。これで吹き飛ばせるか試しますね!」

「…。好きにしろ…。」

「自分は空に離れてます…。」


 ハンドルの位置から針金を伸ばして封印箱に触れる。鉄操作で箱全体をパカッと開ける。


 黒い煙が溢れて出る。相当な量だ。

 アームでハンドルを掴んで、ぐるんぐるん回す。風車の羽は勢いよく回って、風は起きてはいるが…。



「効果無いな。」


「なんでよー! 煙でしょう! 風で散れぇ!」ぐるんぐるん!

「呪いなんだから物理で動く訳無いだろ。もう止めとけ。」

「こちとら呪い持ちじゃあ! なんとかしてやるぅ!」ぐるんぐるん!


 ああ、ハンドル動かすのしんどい! 鉄操作は意識するだけでできるけど、なんか頭が疲れるんだよ! あの煙をギャフンと言わせたい!


 相手は呪いの煙。こっちは呪いの鉄。

 呪いの鉄で起こした風なら呪いの属性、帯びててもいいじゃん!

 呪いの風なら吹き飛ばせる…、──呪いの、『風』?


「そうか! その手があったー!」ぐるんぐるん


 私は髪留めの()()を解き放つ、『詠唱』を思い出す。


〔世界を 巡る 強き 風 よ。〕ぐるんぐるん…


 エルド島の言葉で、起動の一節を紡ぐ。

 髪留めから緑色の光の粒子が出る。


〔暖かき 風 よ 巡れ。〕

〔冷たき 風 よ 巡れ。〕


 風エルフの詠唱を続けながら、風車を回す。


〔優しき 風 よ 我ら の (いとな)み を 守れ。〕

〔厳しき 風 よ 我ら の (さまた)げ を 貫け。〕


 エルフの詠唱って長いし、音節が独特だし、きちんと集中しないと喋れないから厄介だ。


〔我が 願い を 聞き 届け よ。〕

〔『破邪(はじゃ) の 清風(せいふう)』。〕


 髪留めから親友(レイヤ)の風属性魔力が、緑色の粒子となって(ほとばし)る。


 相変わらず綺麗な光だ。

 私にも見える濃密な魔力が粒子化したもの。G○(ジ○エヌ)粒子みたいだと思ったのも懐かしい。

 この光は私の肉体に掛かる状態異常を浄化する力がある。



 その緑の光を呪具に向かって、風車の力で押し流す。


 キラキラと緑色に輝く風が、黒い煙を吹き飛ばしていく。



「よっしゃー! 〈呪怨(のろい)〉なんざこんなもんじゃー!」ぐるんぐるん!


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