54話 照り焼き
「ウカイさんが提供してくれた砂糖を使って、照り焼きに挑戦してみよう!」
おっし!気合い入れて作るか!
下手するとウカイさんの首が物理的に飛ぶところだからね。真面目に美味しいものを目指そう。
当のウカイさんさんは、シリュウさんが砂糖の箱を取り上げた後、崩れ落ちるように倒れたままだが。
なんで、明日のジョ○みたいに真っ白に燃え尽きたみたくなってんだろ。
まあ、ご飯完成したら起こせばいいか。
「照り焼きは、醤油と砂糖と酒を1:1:1で出来たはず。醤油の代わりは塩を使えばまあ良いとして…。問題は日本酒じゃなくビールってところなんだよな~。」
ん~、アルコール飛ばして旨味成分だけ使うなら、ビールでもいける気はするが味がまとまるかは未知だな…。
まあ、まずは照り焼きのタレだけ試作してみよう。
いつもの如く鉄板台とアンテナ鏡のセットを出して準備をする。
「これが使っていいお酒ですか?」
「ああ。属性が合わなくて、かなり蒸発したやつの残りだ。ほとんど酒の味はしないが、割りと良い味でな。時たま舐めてた。」
シリュウさんが出してきた小さめの木樽の中身はほとんどなかった。底の方にとろみのありそうな液体が少し溜まってる。
鉄で小さな柄杓を作って掬い、アームの手の甲に少量垂らして舐める。
「うわっ、なんかキツい。でも、アルコールっぽくはあんまり無いな。どっちかって言うと味醂っぽい…??」
確か…味醂もお酒から作るん…だっけ?
ん~…覚えてないけど関係はしてたはず。漢字に「酒」の偏が入ってたはずだし。でもビールから味醂が出来るかなぁ??
そもそも味醂だけの味ってどんなだ??
「いや、どのみち照り焼きなら味醂でも丁度良い。旨味っぽいのは感じるし。
シリュウさん! これ使わせて貰いますね! なるべく少しにしますので。」
「…。まあ、それなら残り全部使っても許す。好きにしろ。」
「了解! 助かります!」
では、まずはタレ作りから。
軽く熱した鉄板の上に、塩、砂糖、料理酒もどきを同量ずつ混ぜて火を通す。
お! 良い匂い! これは照り焼きっぽいんじゃない?
アームの先のコテで掬って小皿に入れる。
小匙を作って味見してみよう。
さてお味は…、濃い…。けど、いける…!!
うん。なんかコクはかなり違う感じがするけど、かなり甘辛タレっぽい!
調味料を細かく調整しなくて済む割合だったから覚えてた。
ありがとう! 照り焼きを考えた遠い祖先の誰かさん…!
砂糖を使うから割りと近代かも知れないけど、ともかく先人に感謝…!!
そのおかげで異世界で美味しいご飯が食べられます…!
食材と調味料を作った、この世界の生産者様方にも、届け! 感謝の祈り!
とまあ、私が軽くトリップ間に、シリュウさんもタレもどきの味見をしてた。
目を閉じてビシッとサムズアップしている。
ゴーサイン出ました! では焼いていくか!
薄く切り出したドラゴン肉を鉄板の上で焼きながら、混ぜておいた照り焼きタレをかけて更に熱する。
これは良い匂い…。よだれが出るやつ。
問題は肉との相性だ。肉の脂とタレが合わさってこそ最終的な味が決まる。
ドラゴンの脂とか言う単体であれだけ美味しいものに、照り焼きもどきがどこまで追い付けるか…。
角兎の肉が残ってればなぁ…実験ができたのに。全部唐揚げになっちゃったからなぁ。
…あれ? ふやかした板肉なら、実験できた…?
いや! 今はドラゴン肉に集中!集中! 忘れよう!
両面を焼いて皿に乗せる。
良い感じに焼けたのではなかろうか。
薄切り肉よりもステーキみたいな厚みで焼いた方が良かったかな?
味見してから試せばいいか。
ナイフで一口大に切り分けて、と。
「ではシリュウさん、味見、お願いします。私も確認します。」
「ああ。」
「では、いただきます。」
もぐもぐ…
おおぉ…これは美味い。
塩焼き肉の時とはまた違った美味さ。
タレは肉に対してもうちょい少なめが良さそう。ちょっと濃いかも。
でもこれは良い。やはり甘辛タレは日本の味って気がする…。錯覚かも知れないが。
「ふぅ…。シリュウさんはどうですか?」
「…。」もぐもぐこくこく…
…大丈夫そうだな。
肉の厚みとタレとの比率を考えながら、焼いていくか。
厚みは結局薄切り肉くらいの厚さのままに。
そこに少なめのタレ、少量アクアの水を加えて焼いたのが最高だと言う結論に到達した。
アクアの水が全体の味に調和をもたらすらしい。さすアク!
ある種タレを薄めて増量したので砂糖や味醂もどきの節約にもなるよ!
まあ…シリュウさんが使い切る勢いで焼き始めちゃったけど…。
多分砂糖が尽きるな…。
あ。ウカイさん起こさないと。
火の通りはシリュウさんの方が良く見えてるだろうし、私がいくか。
「ウーカーイーさーん。起きて下さーい。」
アームの先にハリセンを付けて、頭をバシバシ叩く。
「うっ…。ここは、死後の世界…? ヒィ!鬼!?」
人の顔見て「鬼」とは良い度胸してるなぁ? シリュウさんみたいに角を、鉄で生やしてやれば満足か? あん?
こちとらシリュウさんの不興を買わないように料理作ってたって言うのになぁ?
「鬼は鬼らしく、人を喰らいましょうか…?
食材・ウカイさん…?」
「ヒィギャー!?」
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「ほら、ウカイ。砂糖のお陰で完成したテリヤキだ。少し分けてやるから食え。」
「アニキが他人に飯を差し出す…!? その上、手づから料理を作ってた…!?」
「肉を焼くなら好みの火加減にできるんだ。当然だろ。」
「ア、アニキのドラゴン──の肉、って言ってたと思うんすけど?」
「ああ。ドラゴンは嫌いか?」
「好き嫌いの問題じゃないっすよ…!?」
「ウカイさん。最期の晩餐なんですから、早く食べましょう?(お昼ご飯だけど)
食べ終わったらウカイさんをバラバラに切り分けて、焼いて、土に埋めますから。ほら早く。」
「──」がくがくぶるぶる…
「…。テイラ。なんかあったのか?」
「ウカイさんが私を見るなり鬼呼ばわりしてきたので、鬼らしく苦しめてやろうかと♪」
「…。鬼?…。死んだ後の世界に居るって言う、魔族みたいな化け物だったか? 夢魔のおとぎ話に出てくるやつだな。」
あ、そうか。
なんか変だと思ったら、鬼って概念が通じてるんだ。
この世界に仏教的な概念は無い──いや、確かイラド地方にそんな感じの思想観があるって聞いた記憶あるけど、シリュウさんの地雷だ。全力スルーで。
ともかく何故か夢魔族の考え方に鬼が存在すると。
魔族みたいって言うくらいだから、角が生えてて非道いことをしてくるだろう。夢魔族なのに、変わった話だ。
『魔』って漢字──いやここでは骨文字か──は麻に鬼って書くからかな?
そもそも、「鬼」って字に、角が生えた化け物を当て嵌めたのは日本独自の考え方だったような…。
「アニキにドラゴンの肉と酒を出せと命令して、それに訳分からない変化を加えるなんて鬼以外のなんだって言うんですかぁ…!!」
「ああ。なるほど…。そう言う認識なんですね。端から見たら確かに、その言動は化け物かも。」
「…。好きにしろ。食わんなら俺が食う。」
「私も食べます。甘辛味はやっぱり美味しいですね。
今度、他のお肉でも試したいです。もっと合うお肉もあるかも。」
「そうか。調味料だから、他にも使えるのか。楽しみが増えるな…!」
「確か脂っぽいお肉にタレかけて焼くと絶品だったはず。」
「それはいいな…!」
うなぎの蒲焼きは、脂っぽくて食べづらい鰻の身を美味しく食べる為の方法だったと、なんかで聞いたような?
この世界にうなぎ居るかなぁ。食べたい…。
魚も久しぶりに食べたいなぁ…。海の魚…。
そんな感じに照り焼きを堪能した私達だった。
ウカイさんはガタガタ小さく震えたまま、結局食べなかったけど。
別に食べたからって、実際どうこうしないのにね?




