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53話 中断休憩

「では、ウカイさん。この鉄の覆いにまた穴を開けるので、この中の上着に触れてみてください。」

「本当に大丈夫っすかね…。」

「なら、まずは何もない状態でハリセン、食らいます?」


 私はアーム&ハリセンをブンブン勢い良く振り回す。


「アニキ…。」


 雨の日の捨てられた子犬のような目で──サングラスで見えないから想像だけど──シリュウさんを見るウカイさん。

 見た目30のおっさんが見た目少年に助けを求める図とか、謎シチュエーションだな…。


 そしてシリュウさんは沈黙したまま、何やら悩んでる様子。

 もしかして、私の〈呪怨(のろい)〉が発現した「場所」をまだ考えているのかな? ウカイさんが居るから喋る気は無いんだけどな。まあ、シリュウさん相手でもその時の状況を説明する気はないが。


「んー、なら一旦後回しにしてご飯にします? お2人とも朝ご飯食べてないままでしょうし、もうお昼前ですし。鉄でとりあえず封印はできてるみたいですし?」

「いや、それは呑気(のんき)過──」

「賛成だ。」

「!?」


 計画通り…!


 うだうだ余計なこと悩むよりも、まずは美味しいご飯だよね~。

 ウカイさんは軽く絶望顔になってるけど、気にしない。


 さて。しかし何にしようかな?

 鉄ドームから軽く離れた場所に3人で移動しながら考える。


「シリュウさん。ウカイさんも居ることだし、ワンタンスープを温めるだけで簡単に済ましましょうか。」

「…。ウカイは俺の黒袋のことは把握している。特に隠す必要は無い。テイラが作る予定だった料理を作ってくれ。」

「…ん? 何のことです? なんか料理作る約束してましたっけ??」

(とぼ)けるな。思い付いたから、角兎の骨を置いておいて欲しいって言ってただろう。」


 ああ。あれかぁ。


「あれは活用方法があるかも、ってだけで、あれ単品で料理になる訳じゃないんです。」

「そうなのか? ちなみにどんなのだ?」

「スープですよ。板肉から出汁を取ったみたいに、骨から出汁を取ってスープにしたいなと考えてます。」

「…。なるほど…。内臓も面白かったからな。骨のスープとやらも楽しみだ。」


「シリュウさん。残念ですけど骨から出汁を取るのは時間がかなり要るはずなので…。直ぐに出来る料理では無いです…。」

「…。」


 あら、あからさまにしょんぼりしている。


 骨から出汁を取るくらいだったら、大陸のどこかの国でならやってそうなもんなんだけどな? そんなに珍しい調理なのかなぁ?


 鶏ガラならぬ角兎ガラ。

 多分出来るはずだ。テレビでラーメン店のスープの作り方を何回か見たことがある程度とは言え、やり方は分かる。鶏ガラを8時間煮込むとか、牛骨を2日間じっくりとかは真似する気はないが。

 それでも2~3時間は煮込むべきだろう。


 呪具との戦い(?)はまだ始まったばかりだ。流石にそんな時間をかける訳にはいかない。


「まあ、骨のスープはまた今度の楽しみに置いといて。ワンタンスープをちょっとアレンジでもして食べましょう?」

「…。おい、ウカイ。なんか食材持ってないか? 寄越せ。」

「アニキまで俺を責めるんすか…。」


 ワンタンもどきはあんなに飲んでたのに好きじゃないのかな?


「いつも色々無駄なもの持ってるだろ。何かあるはずだ。」

「逃げる時に身代わりになる金品とかならありますけど、食べ物はギルドの携帯食くらいしか…。」

「最近のあれはまあまあの味だが、今俺が求めてるのは食べたことのない味だ。そう言うのを寄越せ。」

「貴女のせいでアニキが面倒なんですけどぉ!! どうにかしてくださいよ!!」

「近寄らないで下さい。ハリセンしますよ。」

「“女王様に見放された”ぁ!!」


 ん? 何この叫び?

 私のことを女王なんて言う訳無いよね?


「シリュウさん、この人何て言ってます?」

「夢魔の慣用句だ。気にするな。それよりも飯の話だ。」

「ん~…新しいもの…。思い付くのは、ワンタンを、具を入れたちゃんとしたやつにランクアップさせるくらいしか…。でもその具のタネも肉かすくらいしか候補が無いんだよなぁ…。」


 野菜がないからなぁ。タマネギもどきやニンニクもどきがあれば、かなり変わるんだけど。

 この辺探せば香草になりそうなものなら見つかるだろうけど、そんなことに時間かけるのもなぁ…。


「ウカイさん。野菜とか、せめて調味料とか持ってたりしません? 現状手詰まりなんで取っ掛かりが欲しいです。」

「野菜なんかないですよ…。薬草由来のポーションなら上級がいくつかありますけど…。調味料なんて移動中に料理なんかする訳無いんですから持ってませんよ…。塩と…砂糖なら有りますけど…。」


「それだあ!!」

「ウカイ、有るじゃねぇか。砂糖持ってんなら出せよ。」

「えっ!? いやアニキ、確か砂糖めっちゃ気に入ってギルドからの支給品にしてもらってたんじゃ?」


「…。だから。ギルドからの。支給が。無い。んだ。よ。」ズモモモ…!!

「すみませんでしたぁぁ!!」


 うおお、ガチ真顔のシリュウさん恐えぇ…!!


 これ、支給拒否したラットン支部、燃やされない?

 食べ物の怨み、しかも特級のシリュウさん相手とかギルド、終わりじゃない?


「ウカイさん! 砂糖をとりあえずシリュウさんに渡しましょう!? 多分それで落ち着いてくれますよ!」

「で、でも自分が個人的に摂取する分だけなんで、アニキを満足させられるような量では…。」

「どれくらいある?」


 ほぼ土下座体勢のウカイさんが、バッと動き出した。

 手の土をワンアクションで払い落とし、腰に付けてる木製の小さな(くだ)?を取り出す。

 そんなのに入ってるのかと思ったら、傾けた管の口から四角い木の塊が出てきた。


 管型のマジックバッグかあ、面白いな。


 出てきた塊は、広げた手のひらくらいの大きさ。

 ウカイさんが木の上部を引っ張るとパカッと開く。

 箱の中には半分くらい白い結晶の粉が入ってた。そこそこあるね。


「この程度か…。」

「あば、ばば──」

「いえ! これだけあれば色々料理に使えます! いけますいけます! 大丈夫ですよ!」


 砂糖はこの世界では高級嗜好品だ。

 それをこれだけの量を差し出したのに、本人に責任の無い事柄への怒りを受けるのは流石に可哀想。


「シリュウさん! ドラゴン肉はまだありますか!? それを砂糖で美味しく焼いてみます!」

「…。肉に砂糖…?」

「──」何言うてまんねん…???


 あれ? ウカイさんが砂糖を差し出した体勢で固まった。てか気絶してない?

 はて? シリュウさんの意識は料理に()らしたはずだが?

 まあいいや。


「はい。『照り焼き』ってやつにチャレンジしてみようかと! 軽く実験しますけど、そう失敗はしないはずです。あ、もし良かったら、シリュウさんがあんまり好きじゃない種類のお酒なんかあれば実験に使いたいです。」

「…。今度は酒か…。」

「──」だべぇ…


 シリュウさんはお酒好きそうだもんね。料理とは言え悩みはするか。


 なんか固まったままのウカイさんが、口から泡噴いてるけどどうしたんだろうね?

 砂糖の箱落としたら、多分死んじゃうけど大丈夫かな?


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