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52話 呪具確認

 前回のあらすじ。

 ウカイさんをからかうのは面白い。


 いや、そうじゃない。


 ギルドに蔓延(はびこ)る陰謀を暴くべく、我々はアマゾンの奥地へと向かった…!


「おい。この場面で何か余計なこと考えてるだろ。集中しろ。」

「いやあ、私、緊張するとパニックを起こしちゃうから、危険な場面でこそ頭を柔軟に動かすようにしてるんですよ~。」

「…。ぱにっく…?」

「ああ。混乱、って意味ですよ。頭真っ白になっちゃったら死んじゃいますからね。余計な思考でいつも通りに行動する。それが私の危機対処法です!!」

「こっちの集中は乱すなよ…。」

「だから声に出してないでしょう。非魔種だから感情が魔力に乗ることも無いし。」

「顔に出過ぎなんだよ…。」

「アニキに普通に口答えする、とか…。王族か何かですか…。」



 そんな和やかな雰囲気で、ウカイさんの上着を密封した鉄ドームに近付く。


「テイラ。確認するのは危険だ。服ごと破壊した方が良いだろう。」

「自分もそう思うっす…。」

「でも、ウカイさんの上着って商売道具でしょう? 服全体がマジックバッグとか一点物の特注品だろうし、替えが利く値段じゃないのでは?」

「それはその通りですけど、命には代えられないっすし…。」

「せめて呪具が入った箱を分離させましょう? シリュウさんも居るしなんとかなりますって。」

「箱を出すにはウカイ本人がマジックバッグを起動するしかない。だが触れれば確実に呪いの影響が出る。こいつを潰すことになる方が損害が大きい。」

「肉体的には何も問題なかったんですよね? ってことは精神に影響が出るタイプでしょう。〈呪怨(のろい)〉による精神異常なら多分なんとかなります!」


 私は鉄を出して武器を形成する。



「て~つ~ハ~リ~セ~ン~!」ド○えもん風に…


「…、」色々目が点…

「…。それは…あのガキが持ってた、邪視解除の道具か。確かにそれなら…。」

「はい! 私の鉄で頭か背中を叩いたら邪眼の効果を止めれたんですよね~。鉄のままだと固くて痛いですけど、このハリセンの形なら痛みはそこそこマシです!

 これで呪われたウカイさんの顔面を、ぶっ飛ばしますよ~!」素振り~!


 アームの先に固定して鉄ハリセンをブンブン振り回す。ハリセンはだいぶ軽めに作ったからアームの力でも動かせるね~。


「ア、アニキ…。この子、大丈夫っすかね?」


「…。テイラ。もしかしてウカイを殴りたいだけか…?」

「!?」

「ザッツライト! その通り!」

「!?!?」

「夢魔は死すべし! 慈悲は無い! ついでに高そうな魔導具を合法的に寄越せ! そしてギルドの悪人を捕まえる犠牲となれ! そんな感じ!」ブン!ブン!


「自分…ここで終わりっすかね…。」

「…。大丈夫だ。多分テイラは冗談で言ってる。多分…。」

「殴りたい気持ちは本心ですけど、シリュウさんのお知り合いですからね。そこまで酷いことはしませんよ~。私に攻撃されたくなければ頑張って呪いに打ち勝って下さい!」

「…、(そんな無茶な…。)」

「…。」



 まあ、ここまで色々ぶっちゃければウカイさんも何もして来ないだろう。

 ちょーっと思考が荒れ過ぎてるけど、素性の分からない夢魔が近くに居る状態にもなんとか慣れてきた。

 そろそろまともに動くか。


「さて。お互いに打ち解けたところで、呪具に挑みますか。鉄の覆い、外しますね?」

「精神的に参っただけっすよ…。」

「まずは覗き窓を開けるんで、シリュウさん、中の確認、お願いします。」

「ああ。」

「自分は無視されるんすか…。」


「いきます。」


 ドームの鉄に穴を開ける。すると途端に黒い煙が溢れて、ウカイさんの方に伸びる。

 ウカイさんはバッと空に飛び上がって距離をとった。

 シリュウさんはじっとドームの中を見つめてる。


 ふむ。警報は反応してるな。でも大したものじゃない。


「一旦閉めます!」


 穴を閉じると、伸びてた黒煙は途端に霧散した。



「魔力とか呪いの気配は残存してます?」

「いや、完全に消えたな。」

「ふむ。私の鉄で完全に遮断できてるか。今のところは。私やシリュウさんの方には煙、来なかったですね。ウカイさんだけを狙ってるんでしょうか?」

「…。適応しようとしてるのかもな。」

「なるほど。呪具の宿主に定められかけてる訳か…。」

「直接触れてはいないからそこまでじゃないだろう。箱の中身に触れたら終わるだろうがな。」


「なら、やっぱり入れ物の箱、確認しておきたいですね。」

「ああ。それで意図が読めるしな。」

「んじゃ、次はウカイさんがあの煙に触れてどうなるか、異常が出たら私のハリセンがちゃんと効くかどうか。確認したいですね。」

「あの邪視に効果あるならこれくらいは余裕だとは思うが。」


「──アニキはともかく。なんで素人っぽい貴女がそんな冷静なんですか…。」


 ウカイさんが空から恐る恐る戻ってきた。



「まあ〈呪怨(のろい)〉持ちですし? 私も呪具で〈呪怨(のろい)〉が発現したクチだから、他人事ではないですしねぇ。」

「生まれた時から使ってたと思える習熟具合なんですが…。」

「そんなの産まれて直ぐに処分されてますよ~。私、人間の非魔種ですよ?

 3年前に、激痛をもたらすナイフ型の呪具で刺されましてね。その時に初めて〈呪怨(のろい)〉が発現しました。」

「…。冒険者になった時か。」

「いえ? 刺されたのは、冒険者になる前ですね。呪いの使い方を掴みながら、見習いのクエストをこなしてましたから習熟したのはその頃ですが。苦労しましたけど、魔法が使えない私には初めて使える不思議能力だったから、それなりに便利でしたね。」

「それは…、また何と言うか…。」

「…。待て。冒険者になる前って──」


 おっと、シリュウさん。それは不用意な質問ですよ、っと。


「ってな訳で! 呪具はきっちり対処しましょう! 確認実験再開です!」


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