50話 シリュウ視点 前編
なんと50話に到達しました。私も、これを読んでる皆様も暇人ですね?
暇は人生の敵なので適当に潰していきましょう。
とりあえず記念に主人公以外の視点で振り返り回です。
長くなったので上下の2つに分割しました。
ああ、うざってぇ…。
なんでこうも面倒なことばかり続くんだ。
今年は相当に駄目な年かも知れんな。
…考えてみれば。今年は、この体になって70年くらいか?
最悪期な訳だ…。7で、0だもんな。
この呪い女の始末を付けたら拠点に戻るのも考えるべきか…。
──────────
冬の休養が終わってこっち、鬱陶しいことが起こり続けている。
春の連絡員は何故か来ないし、春に立ち寄る支部はギルドマスターが何故か交代していて、話が通じない。
別のギルド支部に行けば、下っ端職員がやれ子供だのやれ偽物のギルド証だの、要領の悪い会話ばかり。
ギルドが俺に支給する、魔獣肉や砂糖の補充もできない。
ドラゴンの肉は残り1頭半。暴れ竜討伐のクエストも無い。
気分を変えようと個人の依頼を受けてみれば、連携もできてねぇ馬鹿がどちらが強いだの絡んで来るし、ぶちのめしてやれば、依頼主までごちゃごちゃ頭の悪い文句を並べ立てやがる。
更に南下したが、それも裏目に出た。
疫病の対処に、戦闘特化の俺を当てるとか、このギルドマスター頭沸いてるのか?
領主の奴は俺の魔力を感じ取って大人しかったが、周りの奴等が煩わしい。家族や部下に異常が出て心配なのは分からんでもないが、別の欲望が見えてる奴は溜め息しか出ない。
「──、特級冒険者殿、ご機嫌麗しく──、何卒協力いただけることを──。(こんなクソガキ✕✕□□、私の出世△◇◇◇!)」
「───領主様!───あいつが3日前に怪しい動きを──。(◇◇家を守る! ○○に責任を被せて──!)」
「疫病はきっと治まりますとも、ええ──。(怖怖◇泣無□△嫌嫌嫌嫌✕✕)」
魔力に感情が乗りすぎてる。俺みたいに感受性が高くなくてこれとか、貴族同士のお前ら大丈夫か?
しかも、ポーションで精神安定を図るだと? 馬鹿か?
面倒臭い。好きにしろ。料金を払うなら特級でもくれてやる。
無駄に不安定な奴等ばかりだ。これも疫病の影響か?
疫病じゃない。〈呪怨〉だ。
いや、なんでこんな所に突然現れる?
周りの町や支部から騒ぎや異常発生の知らせは無かったはず。気配もなく知らせる暇も無く全滅したのか? ここで出現したと考えるのが妥当だ。
しかし、この気配は──複数の〈呪怨〉が重なっている…?
この町の中に呪い持ちが何体も居たってのか? 異常だろう。その上…1つに融合した…?
馬鹿供の感情を読むに、違法な奴隷の売買が頻繁に行われていたり、異常なアイテムのコレクターが居たようだが…。
それでここまで?
まあいい。町中で暴れ出したようだがこの距離なら確実に捕捉できる。
とっとと──
あ? この館の防御? 馬鹿供の護衛?
原因を滅するのが先──
…。うっぜぇ。もう、いい。
寝てろ。
魔力抑圧、解除。
──────────
思いの外、足が速いな。俺の全力威圧から逃げたんだろうが、見誤ったか…。
〈呪怨〉が発する気配は続いてる。空間転移・跳躍での移動じゃない。
道なりに被害にあった一般人を応急措置をし、狂乱した魔獣は手早く狩る。
捕捉した。あの山に居る。
脚足強化の段階を更に上げる。
〈呪怨〉の気配が更に増えた!?
しかも滅茶苦茶に暴れてやがる! 何が起こった! くそ!
見つけた!
赤黒い肉と黒い髪。と、金属?
町で報告された姿と異なるが、あの異形全てから呪いの気配が溢れてやがる。奴は邪眼も所有しているはず。
ここで、跡形も残さず、焼く。
──〈黒炎〉、
掌からドス黒い炎が溢れ出し、地面を流れるように異形へと到達する。
──〈火砕流〉。
両手から勢いを増した黒の炎を、叩きつける。
肉や髪は炭化して消滅した。
しかし金属部分が半分くらい消えない。なんだあれは?
(──攻撃を止めてくれ。あの娘が死んでしまう。)
念話!? まだ生きてるのか!
残った金属の周りを覆うように、水魔法の障壁が張られた。
俺の黒炎を防ぐだと…!?
飛び退いて距離を取る。
魔法の発動はあの塊からじゃない?
魔力の流れを辿ってみる…、なんだ?
金属の筒?の中に、
…精霊!?
(私にもあの娘にも、敵対の意志は無い。)
青い半透明な体の水精霊が、俺に意志を伝えてくる。
受肉した?精霊が、おかしな金属を背負って?〈呪怨〉を庇う?
なんだこの状況は…。
「精霊が何故呪いの塊を守る…?」
(あの娘は私の──。む、誓約に触れるか。説明は諦めてくれ。)
水精霊は金属の塊の側に移動して、その金属を動かし始めた。
炎を弾いた、呪いの塊を操作できるのか…? この精霊から呪いの気配はしないが──いや、背負ってる筒から微かに気配がある…? 訳が分からん…。
身構えたまま観察していると、塊の中から人の姿が見えた。
水色の長い髪の──少女?
まだ10代後半くらいの歳に見える。
魔力はほとんど感じない。死んでる、いや、息をしてる…? 魔力が枯渇してるか、元から低魔力か。
体中に呪いの金属が刺さってるな。いや? これは、内側から生えている…??
両腕が金属だらけだ。肉は抉れていてる。腕が金属に変化したのか…?
再生は無理だな。
水精霊が自身の触腕を膨張させて、少女の抉れた腕に巻き付けていく。
回復でもするつもりか?
(おかしな気配の君、回復を手伝ってくれないか。)
「…。お前が言うな。こんな意味不明な奴の話なんざ、乗る訳無いだろ。」
(この娘が死ねば、私は怒りでこの山を水没させるよ?)
「…。あんたにわそこまでの魔力は無いな。脅しは無駄だ。」
(…これでも、かな?)ズルン…
水精霊が金属の筒からその体を全て引き出した。
途端に異常な魔力が溢れ出す。
この、魔力波長は…!?
「お前…!? 激流蛇の分霊か!?」
(おや、懐かしい魔響だ。私の本体を知っているようだね。なら話が早い。私の全力の魔力暴走、君は無事で済むかな?)
なんだってこんなところに、天災と同義の精霊が居る!?
どうやって気配を抑えてた!? いや、今はいい!
「…。分かった…! 協力する!
だが、回復魔法なんて行儀の良いことなんざできんぞ。」
(ふむ、君の属性では私の足しにはならんか。回復薬の類いは持ってないかい?)
「…。特級ポーションなら少しある。」
(それを全て寄越したまえ。近くに、この娘が世話になった集落がある。そこで治療を行う。そこまで運んでくれ。)
水精霊は金属の筒を再び被って、命令してきた。
「…。分かった。」




