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5話 薬湯と私の想い

「これ、飲んでください。」


 私はハロルドさんに作った薬湯を差し出す。

 食堂で晩ご飯を食べて、今はハロルドさん家である。



「急に、なんだ…?」

「薬湯作りました。スティちゃんが、お父さんが最近疲れていると言っていたので、家に泊めて下さってるお礼も兼ねて。」


「君が?薬湯?」

「はい。ここ、冒険者も来ないせいか良い薬草が生えてますね。教えてもらったところから薬草摘んで、スティちゃんと相談しながら煮出しました。ちゃんと()したので、飲み易いはずです。」


 この作業村はこの土地を治める領主の指示で運営されている。領地の端にあるこの広大な山は領主の財産であり、むやみな採集・狩猟は禁じられている。


 レイさんの狩猟は作業村の運営の一部だし、作業員の娘が作業員の健康の為に個人で薬草を摘むのはセーフである。


 まあ、冒険者が来ないのは単にここの稼ぎが悪いせいだけど。魔物が居ないから護衛や拠点防衛は必要無いし、普通の薬草ならもっと近場でも見つかるはずだし。


 まあ、冒険者が居ないからこそ、私はここに来る気になった訳だが。



「…大きなお世話だ。」


 ハロルドさんは警戒しているのか、口をつけない。

 スティちゃんも拒否されるのは予想していたのかも知れない。諦めの表情である。


 まあ、私はこの態度に納得いかないから、言いたいことを言うが。



「ハロルドさん。今朝言いましたよね? スティちゃんに、家に居ろ、って。」

「お姉ちゃん…?」

「…それがなんだ。もう良いだ──」


「何をさせておく気だったんですか?」


 ハロルドさんの顔を真っ直ぐに見つめて、問いただす。



「は? どう言う意味だ?」

「調理器具は無い。裁縫とか細々した道具はあなたが使うものだけ。文字とか数字を覚える教材や勉強道具も無い。

 友達はもちろん同性の会話相手すら居ない山の中で。家に閉じ込めて。何を、させて、おきたいのか。

 を、(うかが)って、いるんです。」


「そ、…それは…、」

「それは?」

「君に説明する必要は無い──」


「──してください。この村に、娘を、連れてきた、

 ()()()?」

「──っ。」ぞくり…


 ああ、やっと私の怒りが通じたかな?

 こちらを見たハロルドさんが顔色を変えて黙った。



 私は1つ息を吐いて血が上った頭をリセットし、話を続ける。



「私はあなた達と会ったばかりです。こんなことを言う関係では無いでしょう。でも流石に酷すぎますよ。」

「…、」


「娘さんが幼く、とても大切で手元に置きたいのかも知れません。大事な一人娘に対する感情としては理解できます。

 その選択が悪いと言いたい訳じゃありません。せめて、(さん)ぞ──んん!レイさん、のところで料理をすることくらい認めてあげてください。」

「だ、だが、彼は上司でここの責任者で──」

「あの人くらいしか側に居れないからでしょう? あなた含めて全員仕事なんですし。

 それに、レイさんの方から、スティちゃんを食堂に連れ出したんですよ?」

「は?」


 ハロルドさんがスティちゃんを見る。その表情から本当のとこだと分かったはずだ。



「テイラお姉ちゃん、なんで知ってるの?」

「レイさんに直接聞いたから。ついでにハロルドさんに言ってやれ、とも言われた。」

「なんで君に。直接私に──」

「それこそ上司だからですよ。レイさんが口に出したら命令になるでしょう? 私なら部外者が騒いでるだけで済みますし。」


 山賊顔だから恫喝みたいになるもんね…。



「それに。私、セラティーさんにも一発言って欲しいと頼まれましたから。『自分を村に誘って欲しかった。』って。」

「!」

「『バカな弟と可愛い姪の為なら仕事くらいどうにでもしたのに。』って。ハロルドさんの仕事はまあ領主がらみですし、娘さんと過ごしたい気持ちも分かりますし。『なら自分が。』って。」


「…私は…。あいつの仕事も…。」

「──『せめて相談はしてよ。()()ルド。』って言ってました。」

「…、」


 泣きそうになってる父親様。

 疲れてるところに言い過ぎたかな?


 まあ、言うべきことは言った。



「って訳で! 薬湯を飲んでください!」


 2人ともびっくりした目で私を見る。



「まずは体を休めて回復してから対話しましょう! あ、()めたから薬水(やくすい)

 効能は変わらん、変わらん。はいどうぞ!」


 (ほう)けてるハロルドさんの口に鉄コップを押し付ける。


 ほれ、一気一気(いっきいっき)


 

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