49話 特級輸送員
ピクピクと悶えてる、哀れな輸送員に近寄る。
「おい、起きろ。説明しろ。」
シリュウさんは容赦なく軽いビンタを叩き込む。
流石にビンタは可哀想。
「水を顔にかけたら効果的ですかね?」
「…。そうかもな。水精霊、こいつの精神異常を洗い流す気で水を掛けろ。」
アクアが顔を出して、水球をバシャッとウカイさんの顔に叩きつける。そして、すぐに引っ込んだ。あら、それだけ?
「うぅ…? ア、アニキ?」
おお、一発で目を覚ました。
流石はアクアの水。さすアク!
「とっとと話せ。洗いざらい全部。」
「いや、えっ…と。え?」
「まあまあ。シリュウさん、とりあえず一旦落ち着きましょう。ウカイさん、お水です。良かったらどうぞ。」
私は水筒の水をコップに入れてアームで渡す。
ウカイさんは目を白黒させて呆けている。
シリュウさんは溜め息をついている。
いいから、奇っ怪女の水を受け取れ、この野郎。
左のアームで顔を掴み、右のアームのコップを無理矢理口に押し付けて傾ける。
「ごぼっ!? ぼぼば! ごくっごくっ。げっほっ!!」
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「非魔種で? 呪い持ちで? ギルド見習い追放で? 金属を生み出す???」
「おい。なんでテイラが洗いざらい話してんだ…。」
「こっちから情報を伝えたら、今度は自分も全部喋る気になるだろうと思いまして? それに全部は話してないでしょう?」
「呪い持ちってだけで、ほぼほぼ十分だろう…。」
「この人も呪いに関係しちゃってるし、特級の方なんでしょう? なら、説明しやすい方が良いじゃないですか。」
「ギルドの上にテイラの情報が渡ったらどう判断されるか微妙だぞ…。その為にこいつに渡す情報を制限するつもりだったってのに…。」
「あー、なるほど。なら、サクっと口封じに潰します?」
アームの先を鋭い刃物に変形させる。
「!?!?」
「…。助けるつもりなかったのか…?」
「まあ、私達に害しか無いなら消して良いと思いますよ?
どうせ、奇っ怪な女ですからね! 奇っ怪な行動してやりますよ!」
「ウカイ。なんか、とりあえず謝っとけ。」
「すみませんでしたぁ!!」
「別に良いですよ。さて! 今度はウカイさんが色々喋って下さい! シリュウさんや私に有益だと判断される情報が…有れば良いです…ね?」シャキン…
「話します! 話しますからぁ! その刃物を退けてください!?」
「…。まあ、話をする気になれば結果良し。…か?」
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「へぇー、ウカイさん、情報や物品の安全輸送特化の職員さんなんですか。凄いですね!」
「ああ。こいつの逃走術や身のこなしはなかなかのもんだ。普通に空も飛べるから、戦いにおいてもかなり厄介でな。俺でも撃ち落とすのは苦労する。」
「いや、アニキ…。アニキと戦闘とか悪夢なんで止めてくだせぇ…。想像すらしたくないです──ないっすよ。」
「なるほど。空を飛べて、高魔力持ち。自身の魔眼を封じる眼鏡…。やっぱりウカイさんって夢魔族の人です?」
「ええ。まあ、そうですね──」
「道理でその顔面をぶっ潰したくなる訳ですね~。」
「は、はい??」
「いやあ、私、男が苦手で、ゲスな男は擦り潰したくなるんですよ~。夢魔の男性とか、もうゴリッ!ゴリ!に…。」
「~~っ!?」
「ウカイは確かに夢魔の血は引いてるが…。女を襲ったりはしないはずだから大目に見てやれ…。」
「ウカイさん、シリュウさんの前だから敬語止めようと変な言葉使いになってるんです?」
「そう、でっすね。アニキ、貴族嫌いだから敬語も嫌いで…。」
「ああ~、特級の職員さんなら普通偉い人と話をするから礼儀作法はしっかりしますよね。」
「なんで…貴女は…敬語を使って怒られないんです…?」
「いやぁ、ため口で接すると軽く呪いで攻撃しちゃって危険なんで…。許可をもぎ取りました!」
「なあっ!?」意味が分からない…!?
「もう言葉使いとかどうでも良いから、話進めるぞ…。」
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「おい、待て。ラットンのギルドマスターの依頼だと? あの白髭ジジイか? 新しい方か?」
「新しい…? アニキ、何を言ってるんです? あそこのギルドマスターはネーズン様でしょう?」
「いや、春に──」
ふむふむ。2人の話を総合するに。
今、私達が居る国がコウジラフ。大陸東部の大国だ。冒険者ギルドと繋がりが深いのでかなりの数のギルド支部がある。
その中で最も北部に位置するラットンと言う町のギルドのマスターが今回関わってるらしい。
ラットンより北は「北の大地」、シリュウさんの冬の拠点がある場所。つまり冬場の前と後にシリュウさんが顔出す支部がラットンと言うことになる。
その支部のギルドマスターはネーズンとか言う名前の、白い髭のお爺さんらしい。コウジラフの貴族出身なんだとか。
だが春になってシリュウさんが立ち寄ると別人がマスターに就いていた。シリュウさんは毎年食料品の補充を受けとるのに今回は完全に無視され、相当不機嫌になったそうな。
にも拘らず、夏になった今時分にウカイさんはネーズンギルドマスターからの要請で、物品輸送のクエストを受けた、と。
封印がされた箱を、ギルド本部がある大陸中央まで運ぶ、と言った内容の…。
大陸を半分横断するのに、乗り物無しの生身とか…。いや、乗り物をマジックバッグに仕舞ってる可能性もあるか?
どのみち、この人ヤバいな…。流石の特級…。
で、普段から偽装用に色々詰めたリュックや、護身用の使い切り魔導具をぶら下げて、重要な依頼品は上着の中の亜空間に仕舞っている、と。
「この国は最近大きな出来事が頻発してたから、きっと色々と行き違いがあったんすよ。」
「ウカイ。自分が極大魔法の術式核にされてた可能性を理解してるか?」
「へ??」
「普段のお前は普通に頭が回るはずだが…。ともかく運んでた呪具の効果は不明だが、呪いがお前に悪影響を与えてたのは確かだ。自覚はあるだろ?
もしも、その呪いが魔力強化の類いだった場合、ウカイの魔力量なら、暴走強化させて極大魔法並みの爆発を起こさせることができる。ギルドの本部を狙った攻撃ってことも考えられるな。」
「なっ!? で、でも、依頼主はギルドマスターですよ…!?」
「だからどうした? 人間、やる時はなんでもやるだろ。俺相手に人事詐称までしている。あのジジイは限りなく黒だ。本部付きの特級輸送員を大陸の外れの支部から態々ご指名なんだ。その上で呪いの品であることを告げずに運ばせるなんて、明らかに怪しい。」
「で、でもですね──」
「なら確認してみません? どんな呪具なのかどんな呪いなのか、どんな封印がされていたのか。それが分かれば事故なのか、故意なのか、狙いは何か。色々可能性を潰せますよ?」
シリュウさんは呆れて、ウカイさんは再び混乱の極みみたいな顔をして私を見ている。
ふっ、その顔が見たかった。
この人、からかい甲斐があるなぁ。
初めての人とは緊張しちゃってキャラがぶれる、コミュ障()な主人公。




