47話 ホルモン
なんで料理パートは長くなるのか?自分で書いてて分からない…。
この内臓の処理方法も、魔力が見える目や乾燥殺菌機能の魔導具等の、特殊な条件でのみ成り立つお話です。
くどいようですが、現実では真似しないで下さい。
内臓の話なので、お食事中の方はブラウザバックを。
「さて、まずは…。シリュウさん。小麦粉と塩、結構な量を無駄にしますけど、了承してくれます?」
「──なんだと?」
わあい、だいぶキレてる~…。
「内臓を美味しい食材にする為の犠牲です。この世か──ううん、冒険者時代に一度やってるんで効果はあります。角兎の内臓でもいけるはずです。」
「…。何をどうするのか具体的に説明しろ。」
「えー…、水洗いした内臓系、胃とか腸とかを小麦粉で洗う…揉み込んで臭みのある水分を抜く、って感じです。」
「…。粉で洗う、ねぇ…。揚げ物よりも遥かに非常識な話だな…。」
「動物は獲物の内臓も食べてるでしょう? だから、食べれる物なんですよ。それを人間にも食べれる形にするだけです。」
「…。理屈ではそうだが…。よく食べようと思ったな…。」
「まあ、知識は有ったのもありますが、単純に必要に迫られただけですよ。お金無くてお肉買えなくて、猪の解体で捨てられる内臓を貰って代わりにしようとしたんですよ。」
「…。魔法が使えるエルフの仲間なら狩れるだろ?」
「能力的には可能でしょう。でも、お忘れかも知れませんが、彼女もエルド出身なんで動物を狩った経験がないんです。2人とも見習いだから町の外に出るのも難しかったし。」
「…。なるほど…。」
「まあ、小麦粉を大量に使うので結局コストが高くなりましたけど、ね…。親友の奴も肉を食べるのに抵抗があって、2度とやることはなかったです…。」
「…。なら無理にしなくて良いんじゃないか?」
「まあ、そうかもですね。シリュウさんがもの足りなそうだったし、肉が美味しい角兎なら内臓もなかなか美味かもって思っただけな感じです。」
「美味いのか…?」
「多分。今回はたっぷり小麦粉も塩もあるし、良い線いくと思うんですけどね~。内臓は噛み切りにくかったり脂っぽいのも有りますけど大抵美味しいですよ? 各部位ごとに色々味あるので好みに合わないのはあると思いますが。…酒飲みにはむしろホルモン焼き──処理した内臓を焼いたやつが好まれると、聞いたような?」
「…。内臓を…ツマミに、か…。ふむ…。」
これは食い付いた顔だな。
「分かった。とりあえず許可する。やってくれ。」
まずは内臓を水洗いである。
角兎は雑食性。胃の内容物は大体アウトな感じになっていることが多い。そして腸。言うまでもなく見せられないよ!なものが詰まっている。
これらを、かなり勿体ないがアクアの水で、丁寧に洗っていく。口に入れるものだし万全を期したい。
アームの先をロボット的3本指から細かい操作が可能な5本指に変形させる。そして、一応鉄マスクで口鼻を覆う。
流した水は臭いを隔離する為、極薄の鉄袋に入れて蓋をする。後でまとめて穴に捨てよう。
丁寧に…じっくり…何度も…。
「血は駄目で、汚物は良いのか?」
汚物言うな。
「良くは無いですよ。なんなら内蔵のぐちょぐちょも嫌いです。」
「…。」
「解体はして貰ったし、私にできることはやるだけですよ。」
さて、とりあえず胃と腸1匹分は水洗い完了。
アームの手の部分、表面を薄~く剥がして…ぽいっ。
水気きって、胃を小麦粉の海に沈める。そして、小麦粉を練り込むように揉み揉み…。一旦皿に置いて、腸も念入りに揉み揉み…。
粉と馴染んだら水で洗い流す。丁寧に丁寧に…。
水気きって、再度小麦粉の海にダイブ。粉を練り込む、練り込む…。
もう1回水で洗い流す。
んー…こんなもんか? もう1回やるか?
シリュウさんが視界の端で嫌そうな顔してんだよな~。
だが、相手は角兎だ、油断は死に直結する。食中毒的な意味で。
良し。もう1回~、もう1回っ!
最後に塩をたっぷりまぶして放置。
「胃と腸の下準備、完了です!」
「…。」
「水気が良い感じに抜けたら、様子見しながら焼きます!」
「…。」
「さて、他の内臓はどうしようかな。心臓は同じように出来るはずだけど血が出るから後回しで良いか。肝臓は…。シリュウさん、肝は生で食べたりします?」
「…。肝こそ一番食べたら駄目なところだろ…。生とか毒で死ぬぞ…。」
「普通の動物の内臓はダメでしょうけど、魔獣なら障気耐性が高いから生でいけると聞いたような…。いや、魔力持った寄生虫的なやつも居るんだっけか??
ちなみに、シリュウさんの革袋の中でも無毒化できないんです?」
「…。…どうだろうな…?」
「角兎丸ごと入ってるなら、肝も勿論影響下にあるから食べるのかと思ってました。」
「確かに入っているが…。いけるのか? いや? ん???」
シリュウ は こんらん している !
放置で。
塩は叩き落として、一応サッと洗っておこう。よく水気を切って、と。
包丁でかなり小さめに切っていく。流石に、腸はぐにぐにで、切りにくい…。力要るけどアームじゃギリギリ…。刃をより薄く鋭く変形…。あとは根気で。
さて、太陽熱鉄板で焼いていくか。まずは少量から。
ジュウジュウジュウ!
ふむ。良い感じだな。
タレは欲しいけど、醤油は無し。代わりに塩、あと砂糖、酒があればなんとか作れる。でも砂糖は残り少ないって言ってたし、お酒好きそうだから許可出ないだろうな。
それに酒は酒でも日本酒じゃなくてビールっぽかったから、どのみちタレは無理か。
そもそもなんでこっちでもビールはビールって名前なんだろう。
しかも常温で飲む黒?ビールとか、どこの中世ヨーロッパだ。
っとまあ余計なこと考えながら、しっかり炒めていく。
「おっし! 完成です! 塩が多分染みてるので、まずはこのまま食べてみましょう!」
「…。」
シリュウさんが手を出してこない。かなり警戒してるな。
「もしかして病気…障気とか湧いてます?」
「…。いや、それはないが…。」
「なら、私から貰いますね。…いただきます。」
もぐもぐ…
ふむ…。胃は、こんなもんか? 肉の旨みはあるけど水っぽい? 水洗いが余計だったか? 水気ちゃんと切れてなかったかも? でもキッチンペーパーとか無いしなぁ。
単純に小麦粉で揉み洗いし過ぎたかも、だな。
腸は…なかなか良い脂。これぞホルモンって感じ。ちょっと火を通し過ぎたけど、食中毒になるよりはマシマシ!
鉄の蓋を被せてサッと蒸し焼きっぽくすれば、ベターかな。
「改良の余地があるので色々焼き方変えてみますね。上手く焼けたら味見してみて下さい。」
「…。」
胃の下処理は今更どうしようも無いから、まぶした塩を付けたまま焼いてみた。さっきよりは良い感じ。
腸の方はじっくり弱火ゾーンで熱を通してみたらちょうど良さそう。
この2種類を皿に盛って、シリュウさんの前に出す。
「塩味だけにしては美味しく焼けました。良かったら試食お願いします。」
「…。」
胃と腸の焼き肉をじっと見るシリュウさん。
まあ、食べる習慣が無いものを口にするのは勇気要るよね。
軽く片付けしながら様子見かな。
私がなんとか穴を掘って廃水とかを入れた鉄を埋めていると、おもむろに添えてあったフォークを手にして、口にした。
「…。」もぐ…もぐ…
ふむ…。感想は…?
…。
ホルモンだもんね。噛みにくいからいつものより時間かかるよね。
「案外…いけるな…。むしろ、新しい風味が面白い…まであるな…。」もぐもぐ…
良し。とりあえず成功だな。
砂糖と料理酒があればタレも作れるけど今回はいいか。
「とりあえず解体で出た残りの胃と腸も同様に処理しますか? それとも小麦粉節約に廃棄します?」
「…。悩みどころだが…。解体した分程度なら、いいか。同じ様にやってくれ。」
「了解です。胃の方は小麦粉揉み込み1回でいける気がするのでさっきより消費は抑えられます。」
「やり方は見たし、俺も手伝う。」
その後、色々と調整しながら内臓処理を2人で済ました。
腸は小麦粉洗い2回でいけるようだ。水気を切ってじっくり焼いてから塩をかけるのがちょうど良いらしい。
胃は小麦粉を揉み込まず、塩だけたっぷり付けてで大丈夫みたい。
心臓はシリュウさんが水洗いしてくれた。私は血が見たくなくてアドバイスだけした。味はなかなか美味い。脂身のない歯応えのある赤身肉。個人的には、胃や腸より上かも知れない。
肝臓は薄くスライスして、シリュウさんの目で毒とか病原菌的なものをじっくり確認して貰った。多分いけるらしい。物理的にも寄生虫が居ないか確認してから下処理の実験を始めた。
しかし小麦粉洗いしても、塩を揉み込んでも、水に曝してみても、焼いたら強烈な苦味が出てしまった。
食べれなくはないけど、これ単品はちょっと…。レバーだよね? なんでここまで苦いんだ??
生のピーマンとか水に浸けてないゴーヤの数倍くらいの苦さなんだけど…。
シリュウさんは「これはこれで良い。」とか言って塩水に浸けたやつを焼いてひょいひょい食べてた。そしてビールをぐいーっと…。まあ毒にならないなら、良いか?
他の内臓は小さかったり良く分からなかったりだったので廃棄した。
あ、骨だけは使い道が思い付いたので確保した。
そんなこんなで、今日も終わりである。
最近、料理しかしてないな…。




