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44話 パウリ効果

「シリュウさんは普段はあまり食べないけれど、食事はこだわる。黒の革袋にはシリュウさんが認めたものならなんでも入る…。」


 私は今後の活動に重要な話を復唱する。



「あれ? シリュウさん。ごめんなさい、もう1つ疑問が。確か雨の時の灯りの魔導具を革袋に入れてましたよね? なら、調理ができる魔導具も入るんじゃ?」

「…。あれか。あの灯りのやつはわざわざ魔力を流す必要がないんだ。だから使える。」

「え? それって私の腕輪とかと同じじゃ…?」

「違う。テイラの魔導──アーティファクトか。それは中におかしな魔力源があるんだろ? あの灯りのやつは、俺の体から出てる魔力を吸って光るんだ。別物だ。」


 おかしな、とはなんだ!

 呪いの産物(理解不能)なだけだ!


 …正論だったね!


「普通は魔力回路(パス)を繋ぐところを、体から放出されてる魔力光(オーラ)で魔力を自動供給? 仕組みも凄いですけど、シリュウさんの魔力もとんでもないですね…。」

「…。変わった魔導具を作る知り合いが試作したやつでな。ほぼ俺専用かもな。」


「ちなみに…。普通の魔導具にシリュウさんが触れると…?」

「…。流れ込む魔力が許容量を軽く超えて壊れる。かなり抑えているんだがな。面倒な体だよ…。」

「なるほど…。なら調理魔導具で楽チン料理も無理か。」

「そうなるな。」


 まばらに木が生えた草原を、ゆっくりと歩いて行く。


「シリュウさんって、拠点は有ります?」

「…。あるにはあるが。それが?」

「いや、拠点にある台所でなら料理しやすいかなぁ、と。大量に作ってシリュウさんの革袋に入れれば安定供給できるかも、と。」

「…。無理だな。」


「あ、そうですよね。拠点を使わせる程信用されてませんよね。」

「違う。普通の調理ができるところじゃないんだ。台所…に使えなくもない空間はあるが…。

 テイラは北の大地で活動できるか?」 


「へ…? 北の…大地…? もしかして、極寒の白世界(しろせかい)!? 水のエルフから別れた()()エルフが住まう、人間生存不能領域!?」

「本当に変な知識だけはあるな。だが、その通りだ。」



 北の大地。この大陸の北東側に突き出た巨大な半島。

 東に突き出たイラド地域と同じ半島だが、こちらは平坦な地続きなので進入するのは容易だ。だが、あまりにも苛酷な環境の為、冒険者ギルドですらまともな交易ができていない。


 年中荒涼とした大地が広がり作物は育たず、厳しい寒波が常に襲う地域。

 地球で言うところの北極圏に近いはずだが、大気そのものに莫大な魔力が渦巻いてるとかで普通の耐寒装備は役に立たないんだとか。

 その半島の西側、つまり大陸の北側の海が、激しい海流と暴風吹き荒れる『嵐の(いか)り』と言う海域であることも影響している。一切の航行が不能なので半島と海路で繋がることもでにず、海からの暴風で常に吹雪に見舞われる世界。


「氷のエルフが何故そこに住んでいるのか興味あったので細かく調べましたから。結局謎でしたけど。(エルド)に居る時に知っていれば大長老に聞けたのになぁ…。」

「俺から見ても謎は多いが、割りに気の良い奴らだ。自分達だけでも生活はできているが、俺からも家賃代わりでもないが食糧を供給したりしてる。」


「…そもそもなんでそんなところに拠点を? むしろその拠点から離れて何故にこんな大陸側に居るんです?」

「拠点なんて居心地が良いところに作るのは普通だろ。とは言え俺が食べる食糧だけはこっちでしか集まらんからな。春から秋は適当に金を稼ぎつつ食糧を備蓄して、冬になったら北の半島でのんびり過ごす。それが1年の流れだな。」

「居心地って…。しかも、よりによって一番極寒になる冬に行くんですか…。非魔種なら数時間で凍死ですね…。」


「いや、10分も保たないだろうな。まあ、真冬のあそこなら俺の魔力を全く抑える必要がないからな。楽なんだよ。」

「…。」


 そっか。自分から溢れる魔力を気にせず過ごせるのか。 


 全く分からない感覚だけど、想像は出来る。



 例えば、ギチギチのスーツを着て仕事をしなければならない社会人が、家に帰って誰に気兼ねするでもなくジャージになれるような…。

 …意味不明な例えだな。ダメだな。止めよう。



「なるほど。ともかく私が拠点に行くのは無理ですね。身体強化の腕輪と髪留めの力を使って、大陸の冬の寒さをなんとか乗り越えれ()()私ではとてもじゃないけど近寄れません。」

「…。そうだな。俺が北に行く間テイラを預けるところも考えるべきか…。」

「パーティメンバーを預ける…。ル○ーダの酒場…!」

「なんだそれ?」

「ごめんなさい。ゲーム──物語の話です。気にしないで下さい。」

「…。」


「真面目に考えるなら、普通に宿とかで生活できるでしょう。どうとでもなりますから大丈夫ですって!」

「…。ただただ不安だな…。まあ今は考えても無駄か。」

「そうですね~…。…あ。ならどこか普通の台所を借りて料理をたくさん作らないとダメですね。拠点で食べる分も必要か…。」

「拠点でも作ろうと思えば作れるぞ。水は氷のエルフ達に供給の代わりに貰えるからな。水精霊よりは質は下がるが…なんとかなるだろ。アリガを大量に備蓄して、細かい小麦粉をかなり作りたいな。」


「ん~…。ならアリガとかを買い漁りつつ、なんなら小麦の製粉所みたいなところに依頼しに行くってのもアリな手段かもですね。」

「依頼? 何の?」

「へ? いや、粗い小麦粉を大量に細かくして貰う依頼ですよ。鉄の臼でちまちまやるより速いでしょう?」

「…。」


 あっれぇ? そんなおかしなこと言った? すんごい顔しかめてるんですけど。


「俺の食糧を良く分からん奴らに渡す気は無い。自分でやるからあの臼だけ貸してくれ。」

「いや、小麦粉って凄い量が──」

「決定事項だ。他所(よそ)には渡さん。」


 有無を言わさぬ気迫だ。

 う~ん…、なんか預けて盗られたとかトラウマでもあるのかなぁ…。


「了解です! なら、臼を渡しておきましょうか? そしたら、いつでも使えるでしょうし。」

「…。そうだな。頼もう。」

「了解です!」


 腕輪の中から鉄臼出して、と。


 シリュウさんは地面に出した臼を拾い上げて、じっと確認している。

 ん? なんか不都合あった? あ、魔力を馴染ませてるのか。


 しばらくここで待機かな。時間かかるだ──


「いけるな。」


 臼は革袋の中に消えていきました。

 はっやいなぁ…。



「早いですね…。私の鉄にどんな量の魔力流せば、短時間で馴染むのやら…。」

「使った時に馴染んでたみたいだな。まあ散々触ってたからな。」

「まあ、良いですけど。鉄の臼なんてどれくらい保つか分かんないですし、普通の石の臼を買うこと、考えた方が建設的かもですよ。」

「そうだな。」


 これは考える気が無さそう?


 普通の石だとシリュウさんの魔力に負けて壊れる…なんてことあるのか?

 否定は出来ない、か?


 あれだな。シリュウさんって、近づくだけで実験器具が壊れる「パウリ効果」のパウリさんみたいだな。


 異世界の魔力の起源とは! なんと! パウリ効果だったんだよ!

 なんだってー!?


 ズビシ!


「痛い!」

「なんかおかしなこと考えてたろ。とっとと進むぞ。」

「はぁい…。」


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