42話 冒険者追放
私が行きたい場所、か。
私はこれからどうしたいのかなぁ…。
「ぶっちゃけノープラン、何も考えてませんね。」
「西に…大陸中央に行きたいとか言ってなかったか?」
「あれはまあ、なんとなくと言うか…。親友の親戚的な…人達がもしかしたら居るかも知れないみたいな?」
「…。曖昧過ぎるだろ…。」
「単にまあ、あの辺りに興味を持ったきっかけですかね。それで、あそこに魔導連合国が存在して、国外から色々な事情の人達が集まってるって聞いたので…。変な金属魔法を使う女として上手く市民権と言うか住民証を貰って生活の場を確保できないかな、と。」
「…。適当過ぎるだろ…。」
「ハハハ…。まあ故郷も家族も無く、この大陸でなんとか始めた冒険者も追放されて、何も頼るものがなかったので…。とりあえずの目標に設定してみただけでして…。」
「…。そう言えばどこかの呪いたいギルドマスターに追放されたとか、賞金をかけられたとか言ってたな。」
「あれ? 話しましたっけ?」
「話が面白くもないって言って話題変えただろ。まあ特段気にすることでもない。」
シリュウさんはそう言って、朝ご飯の準備を始めた。
と言っても作っておいたものを軽く温めるだけだが。
私もワンタンスープもどきをいただいた。
うん。朝はこれくらいの方が良いね。
「美味しいですね。塩加減が抜群です。」
「かなり調整のコツは掴んだな。上に色々乗せれば変化も付けれる万能料理だ。あの素材どもからこんなもんが出来るとは驚きだ。」
「シリュウさん。私が冒険者ギルドを追放された時の話、詳しく説明しても良いです?」
「話す気なかったんじゃなかったか? 別に必要ないぞ。」
「いやまあ、特級冒険者のパーティー候補になった訳ですから、事情は説明しておくべきかな?って。」
「まあ好きにしろ。どうとでも揉み消せるから関係無いが。」
シリュウさんの権力って凄いんだろうな…。
でも、私の方も割りと重大案件になってるかもだしな~。主に親友のせいで。
「私が冒険者になったのは3年前の夏の終わり頃でした。当時13歳だった私と同じ歳の親友の2人で、ラゴネーク国の、トスラって名前の町のギルドに加入したんです。」
「トスラ? また変わったところから始めたんだな。ここ最近だと相当寂れてるんじゃないか?」
「ああ、ギルドロードの昔の終端だとかで有名なんでしたっけ。イラ──ううん! 北に! 貿易用の! 大きな港町が新設されて人があまり来なくなったんですよね!?」
あっぶねぇ、シリュウさんの地雷『イラド地方』って言いかけた…!
「ともかく! 私と親友の2人は見た目が子供な上に住民証もなかったので、見習い冒険者からスタートしたんです。」
「…。生まれがそこじゃなかったんだな。良くある話だ。」
「ええ、まあ。
ぶっちゃけると、私と親友は、セル・ココ・エルドって言う島の生まれでして。知ってます?」
「…。何を馬鹿なことを言ってんだ?」
「冗談でもなくマジな話ですよ? ついでに言うと、その親友、風の氏族のエルフだから話しておかないとな~、って。」
「待て。一旦待て。話を止めろ。」
「あ、はい。どうぞ。」
あー、やっぱり重大な案件になっちゃうか。
世間一般じゃ名前も知られてない感じだけど、高ランク冒険者だもんね。当然知ってるよね。
でも私の追放理由の説明に絡むから、省いて話すのも無理だしな~。
「確か…、少し前にエルドの風エルフどもが集団で大陸に来たとか騒ぎになったと聞いたが…。」
「多分私のギルド追放事件に繋がってる話ですね~。」
「…。どんな人生送ってんだよ…。まだ20年も生きて無いだろ…。」
「波乱万丈ですよね~。前世でよっぽど悪いことしたんでしょうね、私。」
自殺するとか、親より先に死ぬとか、ね。
「そもそも。あの島からどうやって来たんだよ。人間が移動出来る距離じゃないし、エルドの魔導船でしか航行できないって聞いたが?」
「よくご存知ですね。この大陸の遥か南の島ですからね。
えーと…方法は…。親友の風魔法で飛んで来ました。」
「頭大丈夫か?」
「親友に言って下さい。私は拉致されただけなんで。」
「…。」
心底嫌そうな顔してますね。まあ、脳が認識を拒否したくなる話だから致し方無いね。
「最初の島の話からかいつまんで話しましょうか?」
「あの島は特級案件ではあるが俺は詳しく知らん。あまり突っ込みたくも無い。冒険者になる下りに必要なところだけ話せ。」
「そうですね…。
私達、冒険者として登録した名前でテイラとレイヤ、はセル・ココ・エルドで生まれました。私は非魔種の人間、レイヤは風のエルフです。
えーとっ…なんやかんやあって私が13歳の時、実家を勘当軟禁処分になったんです。そしたらバカ親友が『大陸に行って冒険者になりましょう!』って実家に物理的に突撃してきて、無抵抗の私を抱えて島を飛び出したんです。言葉通り。途中、海に落ちて水魔法の泡の中で生活?しながら、最終的にこの大陸の南東の海岸にたどり着きました。そこからトスラの町に向かった流れです。ここまでは大丈夫です?」
「…。大丈夫じゃない。が、良い。続けてくれ。」
「了解です。私がこの大陸の言葉を読み書きできたので登録手続きをして、晴れてトスラ支部の冒険者見習いに成れました。私がクエストを選んでレイヤが魔法で解決する。魔法も使えず体力も無い私は知識でサポート、レイヤは町中の荷物運びさえ楽しむレベルのお気楽さで冒険者やってました。レイヤの魔法がかなり優秀だったので宿と食事をなんとか維持できる稼ぎがありました。」
「…。」
「生活が安定してからは、私が使えるようになった血を鉄にする能力の検証をしたり、レイヤに目を付けたトスラのクソギルマスと上手く距離を取ったりしながら2年近く冒険者やってました。
で、まあ最終的にレイヤが下級冒険者に昇格した時、ギルマスがエルドのエルフ達をどうやってか呼び寄せましてね。レイヤが島に帰ることになって、私達の冒険は、終了しました。」
「…。」
「レイヤは初めから光魔法と水魔法を組み合わせて、自分のエメラルドブロンドの髪を偽装してたんですけど、ギルマスの奴には看破されてたみたいで。私達が自分の思う通りにならなかったから嫌がらせしたかったんでしょうね。『風エルフの姫君は、青髪の女に騙されている!2人のギルドカードは失効だ!』とかなんとか言って攻撃してきて。私はレイヤの風魔法で遠くに飛ばされました。
──レイヤの友達だったアクアと、2人で作ったアーティファクトを託された私は、そこからなんとか1年西に進み続けてここまで来た──って感じです。」
シリュウさんは無言で目を閉じて動かない。
私はとりあえず水を飲む。ふむ、今日もおいし。
「よく、真っ当に生きてるな。」
なんか万感の想いを込めたような重い声だな。
「かなりひねくれて生きてると思いますけど?」
「〈呪怨〉の力をぶちまけて破壊の限り暴れてもおかしくない境遇だろ。」
「まあ、でも。レイヤとの思い出は大切に守りたいですから。氏族の下に帰ったあの子がもうできない冒険を、せめて私が代わりにしてみようかな、って。
困っている人を助けて、お腹いっぱい好きな物を食べて、未知の世界を切り開く。そんなおとぎ話みたいな冒険を…。」
この世界のエルフの体は外見上、人間と大差ありません。耳も尖っておりません。
特徴として、魔力適性のある属性と同じ色に輝く髪を持ってます。




