41話 現状再確認
クッキーもどきとワンタンスープを作って、幾星霜。
人類は新たなるステージへとたどり着いて…
いないな。
むしろ、退化してるな。うん。
とりあえず、日が暮れました☆
…丸1日料理してるのは流石におかしくない?
食材の多さは今更だからいいとして。
あんたらいつまで食べる気だ…。
アクア。私の鉄は1ヶ月に1回くらいしか食べてなかったじゃん。他の食料は必要としてこなかったから、それしか食べれない子なんだと思ってたのに…。
クッキーもどき、どれだけ食べるの…。
つーか、そんな大量に水出せたんだね…。
そしてシリュウさん。流石に異常過ぎるでしょう。
ワンタンスープだけでも寸胴で10杯以上飲んでますよね。
もしかして星の戦士でピンクな悪魔の同族ですか?食べた敵の能力コピーできるんですか??
あまりにもずっと料理して延々食べてるから、私はアンテナ鏡の調整だけしつつ、
木陰で休んだり、軽く昼寝したり、開き直ってアクアの水を沸かして体を拭いたりしてたけど、まさか日が沈むまで続くとは…。
って、シリュウさん、薪を取り出した…。
もういいや。とりあえずレシピ書いて寝るか。
ん? シリュウさんが料理の合間に、鉄箱カツの確認してる。
そう言えばそんなのあったね。目の前のインパクトで記憶飛んでたよ。
「シリュウさん。カツの具合はどんな感じです?」
「そうだな…、外で放置してた方と大差無い乾き具合だな。でもって外の方は若干障気が湧いてるが、こっちには無い。」
「なるほど。なら私の鉄の箱は、乾燥は普通程度に防ぎつつ雑菌…障気の抑制効果は及ぶ。みたいですね。」
「ああ。かなり有用かも知れないな。」
「あとは6日後のやつ次第ですね。」
「今確認終わったカツはもういいよな?」
「…食べる気ですか?」
「ああ。両方とも普通に乾いただけだろ? 中はドラゴン肉だ。問題無い。」
「放置してた方は障気湧いてるって言ってませんでした?」
「この程度余裕だろ。貰うぞ。」
「まあ、ご自由に…。どうせなら、ワンタンスープの具にしたら美味しくいただけるかもですねー。ちょっと品が無いけど。」
「!?!?」
乾燥したガチガチ唐揚げをうどんの汁に浸けて食べてた高校時代を思い出して、適当な助言をしたのだが相当衝撃だったらしい。
しばらくフリーズしてたシリュウさんだったが、急に動き出して出来たばかりのスープに萎びたカツを入れて食べ始めた。
「なんで…。美味いんだ…!?」
干からびた食材をスープと共に食べるのはここでも一般的では?
何を驚いているのやら?
あ、革袋に入れてた普通のカツをスープに入れて食べ始めた。
これは残りのカツ全部いくかもね。もう好きに食べるといいよ。
アクアに水筒の水を追加して貰って、私は薄くなった鉄テントを設置した。
「寝ます。」と入り口にメッセージを書いて、寝た。
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「テイラ。この水精霊は凄いぞ…! クッキーもスープも俺の黒袋に入れて水分が蒸発してない…!」
翌朝、起き抜けにシリュウさんが興奮して言ってきた。
夜通し…料理してたんだ…。かまどの灰、めっちゃある…。そっちの方が余程凄いよ…。
アクアはアクアでぽよぽよ跳び跳ねて元気だった。
そんなに気に入ったんだね、クッキーもどき。
まあ、良いんじゃないかな? うん。
「そろそろ移動しません? 流石に長居し過ぎだと思うんですけど。数時間歩けばあの作業村にまだ戻れる距離ですよ?」
「…。テイラが休んで回復するのが先決だろ。」
「私、回復力無いですから、気にしちゃダメですよ。下手しなくても1ヶ月はこのままの可能性ありますし。」
「…? なんて言った?」
「何が──あっ!えっと…『1半双回』の間、です。」
この世界の暦、日本と割りと違うんだった危ない危ない。
何せこの世界、月は無いし、太陽は2つある。
月が無いから30日=1ヶ月って概念が伝わらない。
太陽は恐らく連星系ってやつだ。共通重心の周りを2つの恒星が回ってるタイプ。
その2つの太陽の周りを公転しているのが、このガイネス大陸がある、この星なんだろう。
この星とか、この世界とか言ってるけど、名前無いのかな?
そもそも地球を、地球って呼び始めたのはいつなんだろう?
英語のアースが先だよね…。
ギリシャ神話で言えばガイアか。あれは女神の名前で…。その女神の体の上に住んだから、ガイア=大地になって…、あれ? 大地と惑星そのものは共通か??
分からん…。
脱線しまくってるな。話を戻すか。
まあでも、地上から見える姿は、地球で見るのとは大して変わらない。時々微妙に横に伸びた形になってる?程度の違いしかない。こちらでも一般的には1つのお日様である。
んで、この世界の知識人によれば、この2つの太陽が互いに回って一周する時間が大体60日。それを1双回と呼ぶことになってるんだとか。
半双回、つまり2つの太陽の位置が入れ換わる時間=大体30日、が1ヶ月に相当する単位となっている。
まあ、まさしく地球とは異なる世界だよ。全く。
「よく分からんが、回復が弱いからこそ優先するべきだろ。特級ポーションももう無いし、他のポーションも無い。ギルドで補給しようにも多分今はこの周辺には無いしな。」
「いえ! これ以上の恩は、心痛で胃がキリキリするんで止めていただければ! ちょっとずつ動いてますし大丈夫です!!」
「…。鉄の腕生やして料理してるもんな…。」
「ちなみに、なんでこの辺の高級ポーションが無いんです? 何か戦争とかあったんですか?」
「…。あの呪い女のせいだよ…。」
「え゛っ? あのムカデ女、傷害も起こしてたんです?」
「…。はあぁ…。」
えっ、何そのデカい溜め息。そんなにおかしなこと言ったかな…?
「ご、ごめんなさい?」
「テイラの非常識もそうだが、町のバカどもを思い出して疲れただけだ。」
「??」
「…。テイラはあの呪い女で錯乱した奴らを一発で治したんだよな? 全く凄い馬鹿だよ。」
「貶されてます?」
「びっくりするほど褒めてるよ。テイラが町に居てくれればな…。」
ん~? どゆこと?
「あの町に居た領主や側近どもは、精神異常に対して回復ポーションを使いやがったんだ。俺が持ってた分や周辺の地域の分もかき集めてな。」
「それはまた、バカですね…。まあ体が整えば多少精神も持ち直す効果があるかもですが…。」
「その分の金は払ったらしいが俺から見ても不毛だったな。あれは。テイラはそれをハリセン?とか言うやつで叩くだけで消したんだろう?」
「私のハリセン一発で、特級ポーション数滴分が相殺される訳か…。不毛過ぎますね…。」
「それで治まる訳も無く、結局は町全体を俺の魔力全開で威圧したんだ。全員気絶させて無理矢理、精神汚染を解いた。」
「ええ~…。また無茶な…。」
できるのもおかしいし、実行するのもおかしくない?
覇○色の覇気か?
「呪いの原因を追いかけたいのに、やれ回復しろだのやれお前のせいだの本気で鬱陶しい奴らだったからな。手早く済ました。」
「なるほど。なんで北の町に戻る素振りが無いのか理解しました。戻りたくないんですね。」
「ああ。あの町のギルマスも弱腰な奴だから頼りにもならん。戻る意味は皆無だ。まあテイラを見つけられたから結果としては悪くなかったが。」
そんな規模の騒ぎを起こしたとか責任問題になんないのかな?
しかもその見返りが、呪い持ち非魔種女の料理知識とか釣り合い取れてないでしょ、明らか。
まあいい。考えないようにしよう。
「ともかく。俺に行きたい場所は無い。テイラが向かいたい所があるなら付いていくだけだ。希望があるなら言え。」




