405話 バカな輩ほど迷惑な時にやってくる
「こ、これらの恵み、は大変、誠に、有り難く…。皆で慎んで、拝領いたします…!」
「我々に、このような、施しを…、感謝いたします…!」
「あはは、ごめんねー。適当に食べてくれたら良いから。」
私達は今、グランブリッジの町の冒険者ギルドに来ている。現在はギルドマスターの執務室の中だ。
ギルマスは結構な横幅のずんぐりむっくりな土エルフさんで、鬚の毛量も凄くなかなか威圧感の有る風貌なのだが。今は接待中のサラリーマンみたいなへりくだった感じになっている。隣の秘書風水エルフさんもカチコチだ。
氏族持ちであるキリッサさんに恐縮しまくっている様子。変に畏まる必要なんか無いんだけどね?
キリッサさんこと、川氏族のエルフ、タパァルベキリッサさん。偉いエルフな訳だが、とても気さくで話しやすい人だった。名前も覚えたし、愛称呼びも許してくれたし、そこそこ打ち解けたと思う。
輸送任務なんかで大陸のあちこちを巡る彼女は、各地のグルメを堪能することを趣味にしているそう。その評価はシリュウさんも一目置くほどと言えば、凄さが伝わると言うもの。
そんな彼女は当然、この街の通りに並ぶ数々の屋台を知り尽くしていて、珍しい物、安い物、小腹を満たすのにちょうどな物、甘いの、辛いのと、まあベストなガイドをしてくれたのだ。
いやぁ、本当に屋台巡りは良かった。
貴重な砂糖を使ったお菓子や完全内陸部なのに海鮮系の焼き物が有ったりして、巡るだけでも楽しかった。
私的には焼き鳥が一番美味しかったな~。魔物ですらない普通の鳥の肉に、やたらと味わい深い岩塩を絶妙にまぶしたやつ。ああ言った一般的な、日常的に食べる物が美味しいってのは最高だよね。
「──ドラゴンイーターへの捧げ物だけど──」
「──泉の氏族様からの──。──三番倉庫と南十一番区画に──」
「──なら、先に乾物、粉物を──」
「──そっちを優勢──、別にいいぞ──」
私が焼き鳥に思いを馳せる間に、キリッサさん、シリュウさん、ギルマス土エルフさん、秘書水エルフさんが色々と話し合っている。
氏族エルフからのお土産にドギマギしてた2人も、仕事の話になると真面目な顔になっていた。
いやぁ、なんか詳しいことは分からないけど相当な量の食材が供給されるみたい。私も日々、作れる料理のレパートリーを増やしているけどここからはさらに忙しくなりそうである。
う~ん、海外の、作り方を微妙に忘れた料理達も適当チャレンジクッキングしていくべきかもなぁ。シリュウさん、試作料理とかも全然楽しんでくれるし。
ビーストロガノフもといハヤシライスとか…、はちょっと無理が有るか。ブイヤベース、は魚介類だからとりあえず除外して…。牛乳が無いからホワイトソース系統も──
「…。なんだ?」
「あれ…?」
シリュウさんとキリッサさんが同時に、話を中断して扉の方を振り返った。なんだろう?
そう思っていると扉が前触れもなくバタン!と開く。
勢いよく部屋に入ってきたのに無駄に静かで存在感の無い人影が、低く唸る様な声を発した。
「不味い…。(不味いことになったぞ…。)」
…あ。この人、置いてきぼりにしてた霧氏族エルフだ。
──────────
「勇者一行がこの街に入ってくる、だと?」
「あ、ああ…。」
うおっふ…。シリュウさんのイライラ指数が急上昇しとる…。
霧氏族さんがもたらした情報は、シリュウさんと私が出会わない様に避けたはずの勇者どもが何故かここに来ていると言うものだった。なんか結構な騒ぎになっていたらしい。
あの聖女ちゃんが〈呪怨〉の沼地の町に向かうって噂、嘘だったのか…? 私達まんまと誘導された…??
「確認しました。東大門に、『雷鳴の勇者』を名乗る一団がやってきています。検問待ちの列を無視して中に入ろうとし騒ぎになっていた模様です。」
「むう…。」
秘書エルフさんが情報を携えて戻ってきた。その表情は固い。
「衝突を避ける為に他の商人達には譲歩してもらい、念入りに検めた後、人物鑑定に問題無しとして入町させたそうです。今は大門側の広場に留め置いていると。」
「…。もう来てんのか。」
「も、申し訳ございません…。」
「いや。責めてる訳じゃねぇ。」
本当に傲慢の塊みたいな輩どもだな…。
「構成員…、」霧々モヤモヤ…
「あー、その一団の構成員の内訳はどうなってるか、教えてもらえる?」
「は、はい。以前の登録魔力と照合した結果、入町した全員が既に登録された者でして…、
主要なところは、雷鳴の勇者ぺネロ、導師クロプス・ルケーを確認しております。他は、護衛の一般僧兵と侍女が5名を伴っています。」
「面倒な時に戻ってきおったのぉ。」
なるほど、少なくとも人間違いではないのか…。
──あれ?
「おバカ聖女ちゃん…、んんっ!ごめんなさい。
えっと、聖女候補のユリシーって名前の少女は…?」
「「「…、」」」
シリュウさんから呆れの、他の人達から驚きの視線を向けられる。はは、ついうっかり心内での呼び方が…。
秘書さんが瞑目して記憶を反芻しているのか、困った声色で言葉を続けてくれる。
「それが聖女ユリシーは今回の一団の中に居ないそうです。」
「え。居ない…?」
「はい。侍女と僧兵も以前の人数から4人ほどが欠けている形です。聖女と共に別行動をしているものと推測されます。
またその代わりなのか…、『聖女』を名乗る少女が居るそうです。この少女は以前には侍女として登録されており、『自分が正当な光の聖女だ。』『体調が良くない勇者様と導師様に配慮しろ。』と、騒ぎ立てているそうです…。」
「何じゃそれは。そもそも勇者も聖女も正式任命されとらんじゃろ?」
「はい。まだ候補止まりの少年少女です。その実績作り為に大陸東部へ…、旅を、していたとのことでしたし。なので正当も何も無いはずです。」チラリ…
「…。」
秘書さんがシリュウさんを窺いながら補足情報を口にする。
勇者は聖剣の確認提出を拒否。本人であることは以前の魔力記録から間違いないものの、勇者の証明はできていない。
導師のジジイは、抵抗された末になんとか確認できたが、口が利けない寝たきり状態で苦悶の思念が駄々漏れ状態だったとか。
間違いなく、邪竜と言う名の討伐対象シリュウさんを下して真の勇者()になろうとしていた面倒連中だ。
なんだってこんなタイミングで…。そして、聖女ちゃんはどこ行った…。
名簿を確認してもらったが、聖女ちゃんの侍女であるシオさんも今回の一団には入ってないみたいだし…。シリュウさんへの波状攻撃用に伏兵…?? んな訳ないよなぁ。
頭を悩ましているとシリュウさんが重々しく口を開いた。
「──今すぐこの街を出る。」
次回は30日予定です。




