403話 検問と「川」と「霧」
──ポシュンッ!!
「…。」瞑目不動…
「「「…、」」」驚愕に目が点…
う~ん…、予定調和だぁ。
グランブリッジの町、その通用口っぽい門での検問。怪しい者や物を町の中に入れない為の身体検査にて。
シリュウさんに翳された検査器具の魔導具が、見事に破損した。
軽い爆発を起こして表面が砕け散り、どこからどう見ても検査どころの話ではない。
門番さんは話が通じる人達で、一応、シリュウさんの異常性を事前に説明したのだが、まあそんな不確かな情報のみで特別扱いされる訳もなく。こうして金属探知機チックな警棒型の装置は、敢えなくお釈迦と成り果てた。
さぁて、ここからどうする~…。強引突破か、お金で黙らすか、大人しく留置所に入るか…。
「どうやら、とんでもない魔力の持ち主のようだのぉ。」
土エルフのお爺さん?がのっそりと現れた。
門番達と同じ格好をしている。まあ、土エルフの人達は創作物のドワーフみたいな見た目で、シリュウさんよりも背が低いからいまいち年齢は分からないが。
「特級冒険者の『竜喰い』と名乗ったんだったかの?」
「そうだ。ギルドカードも有るぞ。」
「彼の御仁は伝説の存在じゃ。騙る奴が時折、居ないでもない。
済まんが、少し待ってくれんか? 判断できる者をこちらに呼ぶのでな。」
「いいだろう。」
エルフの人って理性的~…。良識有る大人って感じが良いよね。
野蛮な私達には眩しいぜ…。
──────────
「お~っす…。久しぶり、ドラゴンイーター。」
「…。お前、は…、」
20分ほどか経ってから門に現れたのは、キラキラ青髪が美しい女性。頭の片側だけ側面編み込みにしているのが印象的だ。
間違いなく水エルフだろう。物腰も低いし、シリュウさんとは知り合いっぽい。これなら穏便にいけるかな?
はて? 彼女の後ろ、少し離れた位置だけど背の高い人が付いてきてる様な…。なんか輪郭が掠れてると言うか、顔が上手く見えないと言うか、気配が薄い変な感じだけど。まあ、気にならないからいっか。
「なんで、ここに居る?」
「いや~、『泉』の人達に頼まれちゃってさぁ。丁重にあなた達を連れてきてほしいって。」
「…。」
「ちょ、睨まないでよ、何も嘘なんかついてないよ?」
わちゃわちゃと焦る水エルフさん。
うむ。クラゲ頭とは関係者っぽいけど、奴とは違ってすごく仲良くなれそうな親近感が有る。
「あ、そっちの子が激流蛇様の分霊が憑いてる人?」
「」ジロリ!
「わ! ごめん! 今の無し、ホントごめん!」
話題を変えようと私に話を振ったが、シリュウさんにさらに鋭く睨みつけられる結果となった。
「大丈夫ですよシリュウさん。私は何も気分を害してませんから。」
「阿呆。こんな場所で不用意に喋るなって話だ。」
周りを見れば、門番さん達を含め他の人全員が私達を遠巻きにしている。さっきの土エルフさんなんか腕を体の横に付けてお辞儀姿勢のまま固まってるし。
アクアのことは別にバレてもいいと思うけどな? あの可愛い見た目なら危険視される訳ないし。
「まあまあ。とりあえず街の中に入りません? シリュウさんの身元は保証されたみたいですし?」
水エルフさんの計らいの元、通行税なんかが免除され私達は無事に門を潜ったのだった。
──────────
門の向こうは活気有る街だった。馬車が出入りする所から離れていてこの賑やかさとは、恐れ入る。
街や人の様子を軽く見ながら歩いていると水エルフさんが私の方に顔を向けた。
「改めて初めまして、私はタパァルベキリッサ。
こんなだけど、『川の氏族』トランジットフルーメンの一員なんだ。よろしくね。」
「か、『川の氏族』…!?」
氏持ちの水エルフの1つ、大陸全土に渡る物流業が凄いらしい有名な集団のはずだ。
こんなジョギング中の休日女子的なラフな感じでは、ないはずなんだが…??
「いや人間の王族と同じで氏族を騙れば重罪のはず…、なら本物…?」
「川氏族なのは間違いないぞ。」
「あはは、本物だよ~。」
「え、あ!? 声に出してた!? すみません!」
「いいよいいよ。あ、確認する?」
そう言って川氏族さんが手を差し出してくる。
「あ~…、ごめんなさい。私魔力無いんで、魔力通感しても分からないです…。」
「え。あ! そっかごめんっ!」
「…。」
まあそれはなくても呪怨女だからね、真っ当なエルフさんはあまり接触しない方が良いだろう。
「あー…、あ、そうだ紹介しとくね。あっちに歩いてる…、見えるかな? 私の護衛と言うかお供と言うか先輩が付いてきてるんだけど…。」
私達の後ろ、呆れジト目のシリュウさんのさらに向こう、門でも見た輪郭が曖昧な人が付いてきていた。
「背の高い…方ですよね? なんか霞んで見えてますけど。」
「うん。そう。おーい、先輩~! こっち来て自己紹介しよー!」
「…、」
足取り重く後ろの人が近づいてきた。
そのうちに霞が消えて、姿が明確になる。白味が混じった青いキラキラ髪を後ろで1つ縛りにした長身の男性だった。すごく渋そうな顔をしている。
「…、カクスーモトカー…。」
「この人はカクスー先輩。リンピドゥスロスって『霧の氏族』の人なんだけどね。頼りになる強い人なんだ。話相手にはなってくんないんだけどね。」
「お喋り…、(お喋りが過ぎるぞ。)」
「ドラゴンイーターは嘘とか誤魔化しが嫌いだからこれで良いんだよ。」
「………、」スゥ…
「あ、もう。すぐに黙り込む。」消えちゃった…
「…。(『隠密』が基本の霧氏族を自己紹介させるとはな。)」確かに印象はマシだが…
えぇー…、『川』の次は『霧』…??
「流石はシリュウさん。氏族エルフが2人もお出迎えなんて超VIP待遇ですね…。」特級やべー…
「(びっぷ…? 大きいの仲間か?) よく分からんがこいつらは俺の出迎えじゃねぇ。テイラに対しての使いだぞ。」
「え…!?」何の話…!?
「俺には普段、適当な土エルフが付くからな。
水の氏族持ちが2人も来たのは、テイラが水精霊を引き連れてるからだ。あとは『世界樹の欠片』持ちの泉女を下した辺りもデカいか。」
「あはは、そんなとこだねぇ。」
「な…!? なん…!?
いや! アクアは単なる青い水滴スライムだし! クラゲ頭のバカはほとんど自爆でしょう!?」何の因果が…!?
「」ぽかーん…
「『馬鹿の下等海生物』呼びしてる時点で『下』にしてるだろうが…。」この2人より明確に格上だぞ…
鉄巻き貝の中のアクアさん
(卑屈娘が何やら騒がしいね。あとでお仕置きが必要かな?)
次回は16日予定です。




