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401話 植物魔境の攻略・後編

「うん♪ この先に確実に居るね~、〈呪怨(のろい)〉の存在が♪」


 瞳を怪しく紫色に輝かせた灰色肌の浮遊美女が、楽し気に呟く。



火魔蟻(ファイアアント)の群れを複数、支配下において広大な森全体を見張らせる。力技ですが、なかなかどうして有効ですね。」

「や~…。そんなのに気づかなかったなんて…。」

「まあ見抜けなくても仕方ないよ~♪ 〈汚染(おせん)〉が染み込んだ花の蜜を、魔蟻(アリ)に吸わして簡易的に誘導させてただけみたいだし~。」


 試しに捕獲された魔蟻の体内には、〈呪怨(のろい)〉の力で中毒性を増強された花の蜜らしき物が有り、それを使って魔蟻の群れ全体を操っている存在が推測された。

 〈呪怨(のろい)〉で眷属(けんぞく)になっているのではなく、単なる使いっ(ぱし)り程度の結びつき。視覚や聴覚の共有などはできないが、生存反応の消失から敵対勢力の位置特定はできる程度のもの。それに気づけと言うのが無理な話だ。



「頼りにしてるよ~、ウルリん♪ そのヘンテコな風属性(かぜ)の武器でどんどん異常を見つけてねぇ~♪♪」『武器』で『探知』とか意味不明www

「あ…、ん…。」げんなりしつつお仕事モード…


 魔蟻の分布や行動パターンをつぶさに観測すれば、その元凶の位置を計算することは簡単だった。その為、攻略本隊を目眩まし代わりに待機させつつ、少数精鋭で敵本体を叩く臨時パーティが森の中を進んでいた。


 メンバーは、灰色夢魔のダブリラ、泉氏族のミャーマレース、竜騎士のフーガノン、そして、魔猫族のウルリ。あと、謎の鹿(シカ)(?)。


 ダブリラの前を悠然と歩く大きな鹿は、鹿であって鹿ではない。

 その立派な角を含めて全身が硬くしなやかな枝や(ツタ)で構成された、動物型の植物魔物である。この森の固有種なのだが、なかなかの耐久力を誇る為に遭遇したと同時に灰色夢魔に操られ(〈汚染〉され)肉盾…、草盾?として使役されている。


 足下の魔蟻を潰さぬ様に、周囲の木の根を操作し足場を作る魔法を掛ける蔦鹿を見つめていたダブリラが、クルリと体ごと後ろに振り返った。



「ほら、元気出してレースちゃん。今から頑張って、『黒の姫』ちゃんの手駒(部下)を潰そ?♪」

「は、い…、ダブリラお姉さまぁ…♥️」恍惚(こうこつ)千鳥足(ちどりあし)


「…、(なかなか(あわ)れな光景ですね。)」無言スルー…

「…、(なんかもうやだ…。)」


 ウルリに探知で敗北したことでプライドが粉☆砕!されたミャーマレースは、ひどく精神を病んでしまっていた。

 そのままでは作戦行動に支障が出るからと灰色夢魔が〈汚染(おせん)〉の力で精神を堕落(保護)し、(しもべ)状態で半ば操っている。


 一刻も早くこの状況を終わらせようと、ウルリは風クナイを4本同時飛翔させつつ着実に歩を進めていった。




 ──────────




(何、あれ…。)


 一行(いっこう)の視線の先には、開けた草の広場とその中心に(そび)える大木が存在した。


 いや、それは大木などと呼べるものではなかった。

 うねる様に伸びる枝や幹は、黒や緑色の中に肌色(薄い黄土色)の部分が有り、全体的に妙に肉々しい。

 極めつけは、枝の一部が明らかに人の形、しかも、下半身を幹に飲み込まれ腕を拘束されたかの様な姿の、裸の女に見える箇所が2つ有るのだ。


 その表面は(カエル)の様にテラテラと濡れ輝いて、何かしらの粘液を垂れ流しているらしい。

 その根元には、魔蟻を主として(おびただ)しい数の魔虫達が(たか)っており、(こぼ)れ落ちる粘液を一心不乱に舐めている様子が見てとれる。



(この独特な気配~…。あれが目標物で間違いないね~…♪)汚染念話~…♪

(はいぃ…。精神を歪める〈汚染〉、存在能力を奪う〈略奪(りゃくだつ)〉、そしてぇ、魔物の姿に変わる〈変貌(へんぼう)〉…。3種の〈呪怨(のろい)〉の混合なのでぇ…、魔王『黒の姫』の、眷属、ですわ…ぁ…。)念話魔法…


 特級の2人からのお墨付(すみつ)きに、緊張が高まる一行。



(あの女性体のうちのどちらが本体でしょうか?)

(う~ん、よく分からないなぁ。)

(手前の方が、〈呪怨(のろい)〉の気配は、強いぃですぅ…。でもぉ、肉の木そのものがぁ一番、濃いですわぁ、ね…。)

(なるほど。あの生えてる女性は悪趣味な「枝」ですか。)

(ん~…、なんかあれ変な反応してるんだよね~。と言う訳でウルリん♪ 探ってきて~♪)

(ん…。分かった…。)


 全員が臨戦体勢を整えたことを確認した後、ウルリがクナイを2本送り出す。

 短い草で覆われた地面スレスレをゆっくりと滑る様に飛行させ、仮称「肉の木」に近づいていく。


 肉の木がうごうごと揺れた。巨人が腕を折り曲げるかの様な、ミチミチ音が微かに響く。


 その時、幹から生えている女性部分の頭が静かに動いた。

 顔を上げ、生気の無い瞳で風クナイを見つめる女性体。

 その視線が突然、ウルリ達が待機している方へと向いた──。



「──くひっ。ひひっ!! あっはっはっはっ!!!♪♪」


 ダブリラが、突如大声を上げて笑い始める。その狂った様な異常な態度に、動揺が走った。


 魔響付きの大声を聞きつけ、魔虫達が一行に向かって移動を開始する。



「に、逃げなさい…。魔猫もどき、竜騎士の男…!」


 正気(?)に戻ったらしいミャーマレースが、金属リボンの杖を掲げて苦し気な声を出す。



「ダブリラは、肉木(あれ)に〈汚染(おせん)〉を返された(・・・・)可能性が有りますっ…!

 い、今の私では、ダブリラ…っ、には長くは抵抗、できません…っ。」

「あはははははは♪♪ ──ん?♪ ああ、安心していいよ♪ レースちゃ~ん♪

 あそこの〈呪怨(のろい)〉の木に何かされた訳じゃないから♪」


 蔦鹿を突撃させて場を繋ぎながら、ダブリラが何の気無しに言う。

 精神を狂わせられた訳ではなく、ただただ可笑しくて腹を抱えていただけ、らしい。



「いやぁ、つくづくおかしな星の巡りをしてるよねぇ~♪♪

 あの木、『テイラ(鉄っち)』のおかげでああなっちゃったみたいだよ?♪」

「えーー…?」なんで…???




 ──────────




「ま、私の推測でしかないから、この子に喋ってもらおっか~♪♪」


 魔虫の群れと呪怨の大木、それらを圧倒的な力で撃破した一行は(うずくま)る2人の女性を前にしていた。

 大木から切り離した「枝」である。


 肌の色は半ば植物の緑色に変わっており、その瞳には生気が無い。1人は精神が変調しているのか会話もできそうにない状態だったので眠らせてあり、もう1人の方は、無気力ながら人らしい反応が見てとれた。



「──さあ。これで君の中に有った〈呪怨(のろい)〉の衝動は抑え込んだよ。君がこれから私に従うなら、ずっと抑えてあげる。

 もし望むなら、私の眷属として1人の夢魔族として生きていける様にもしてあげる。

 君は、何なのか。何が有って、ここでこうなっていたのか。説明、してごらん?♪」


 聖母の様な微笑みで、枝になっていた女性を覗き込むダブリラ。

 緑色に染まりかけの女性は、ぎしぎしと固い動きで口を回しはじめる。



「わ…わた…わた、しは、ラゴネーク(らごねく)の、諜報部員(ちょーほぉぶいん)で、ひゅ…。」


 聞き取りづらい発声に「ああ、まだちょっと『黒の姫』ちゃんの力が強いかな?」と呟いたダブリラが、彼女の唇を奪う。

 それはもう、ムチュ~~~っ!!と長く深いディープキスだった。



「はぅあ…♥️」だらぁ…

「どう? さっきよりは思考マシになった~?♪」じゅるりゴチ~♪

「は、はぁい…、ダブリラさぁまぁ…♪」うっとり笑顔…

「よしよし、良い感じだねぇ~♪」

(どこが…??)

(手遅れ感しか有りませんね。)ただ呆れ…

((うらや)ましい…。)無言嫉妬…



 緑色の女性が語ったのは、次の様なことだった。


 自分はラゴネーク国からコウジラフの国に潜入している諜報部員(スパイ)であり、普段は一般町人として情報を本国に送る役目をしていた。

 ある時、ラゴネークの村々で度々起こっていた人拐(ひとさら)い事件の黒幕がコウジラフ国内に居るとの通達が有り、その調査に乗り出す。

 やがてその実行部隊とおぼしき(ぞく)が、ここ植物魔境領域を通って2国間を行き来している可能性が浮上した。

 その確証を得る為に自分と、部下の少女──コウジラフ国内で拾い育てた孤児(みなしご)──は森へと侵入する。

 そこには女の感覚を狂わせる奇妙な魔木が生えており、抵抗もできずに昏倒。いつのまにやら賊に捕縛され、奇妙な甘い蜜を飲まされ、ひどい仕打ちを受けていた。


 そんなある時、青い髪の少女が賊に連れられてくる。その少女は恐ろしい黒い金属を操り、調教しようと手を出した賊どもを皆殺しにしたと言う。



「それ、って…。」驚愕…

「鉄っちだねぇ♪♪」訳分かんな~い♪


「その子が、私達2人を逃がして、くれた、のです…。

 が。逃げた先で、巨大な…、くろ、黒い、青黒い蜘蛛に、捕まり、まして。

 ど、どうや、ら、それは〈呪怨(のろい)〉の化け物、だったらしく──」


 ダブリラと繋がったことでその存在が、黒の姫の眷属だと理解したと語る、被害者の女性。

 その蜘蛛は、巨体でありながら柔軟な動きで森の中を這いずる化け物で、体表面の色を自在に変化させ隠れ潜むことまでできると言う。


 彼女達2人を糸で捕縛した後、テイラに虐殺された賊の死体をも回収した蜘蛛怪物は、女を狂わせる魔木の元へと連れていき、それに彼女達を呑み込ませ融合させたと語る。



「そ、そのあとは、ずっと、ずずずっ、と、か、かかか快楽の、に、(おぼ)ぼぼれれれれ、れれれェれれェ↑!!」

「おっと、黒の姫ちゃんの力が戻りかけてる~♪」はい上書き〈汚染(おせん)〉~♪

「んぐぅ…、っ…はぁ…♥️ あ、ありがとうございますご主人(ダブリラ)様ぁ…。」

「うんうん、よく話してくれたね~♪」良い子良い子してあげよう~♪

「あ、有り難き幸せぇ…♥️」


 頭を撫でつつ目を合わせ、全力の〈精神汚染〉で被害者女性の精神を保護(保護…?)するダブリラ。


 今しがた倒した肉の大木を超える更なる敵の存在に頭を悩ましていた仲間達へと、妖艶(ようえん)な笑みで振り返る。



「んじゃ、次はその(タコ)みたいな蜘蛛の討伐と行こうかぁ~♪」楽しくなってきたね~♪

「それよりも、その2人を保護する方が先でしょう。お互いの為にも隔離措置も必要ですし。」

「うんうん♪ そうだね~。じゃ、レースちゃんお願いね~♪」

「な…!? い、いえ、あなた以外では私が適任ですね…。」魔王の力を抑制するには…

「そ~だよ~♪ 可愛い可愛い『妹分』なんだからちゃんとお世話したげてね~♪」

「な、だ、誰が妹ですか!」

「」〈汚染操作〉~♪

「よよよろしく、お願いしますぅ、レース(ねぇ)さぁまぁ~。」

「お、大人しく…、するのですよ…。」ぷいっ…



「なんかもう色々と、ダメじゃん…?」どうすりゃいいの…

「さて。我が国を超えて国際問題に発展しましたか。色々と難しいですね。」飄々(ひょうひょう)とした雰囲気…


遥か以前に書いた、「テイラが1人旅中に盗賊団を皆殺しした話」がここに繋がってました。もちろん、本人は何も気づいてません。この真相を聞く日も、有ったとしてもかなり先のことでしょう。


次回は11月2日予定。テイラサイドの謎のんびり旅へと戻ります。




ちなみに、新しい短編小説を書きました。

つい昨日体験したことを基にして急遽書いた、ホラーザマァ(?)ものです。もし興味有れば見てやってください。


映の短編 映画、最強! 夢物語、最高!

https://ncode.syosetu.com/n7527lg/


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