396話 反撃と異世界お局様ムーブ
寡黙な槍使いが手に持つ武器を光らせ、身構える。「頭が沸騰してるのか?」って私の暴言に、怒っているみたい。
金属製の槍の先端に灯る魔力光は黄色。光属性を宿した聖なる槍だ。光の魔法特性から考えて、相当な貫通力だろう。普通の鉄ぐらいは容易く斬れるはず。
「撤回なさい。さもなくば──」
「しません。」ピシャリ…
「!」ダッ!
「カリス! 待ちなさい!」
聖女さまの制止を無視して槍使い君が突っ込んできた。
──キン… キン…
風の髪留めから小さな警告音。私の右肩に極弱い攻撃予測。
手加減しての軽い牽制か。眠た過ぎて涙が出るね。
「」フォン…!
カン…
「!?」
右肩に展開した呪鉄アーマーで槍を弾く。
同時に、展開した鉄短槍を握りクロスカウンター気味に奴の首元へと突き込む。
「!」カッ!
「【聖盾】!!」
フォン、フォン!──ザクッ!!
「」がはっ…!?
「カリス!?」聖盾が!?
あーあ。無駄に障壁魔法を展開するから、呪鉄の槍が刺さったじゃん。
せっかく先端を丸めてたのに、障壁の魔力霧散の代償に呪鉄が削れてギザギザになってしまった。障壁2枚相手じゃ仕方ないか。
「し、【聖盾】!!」最大展開…!
聖女ちゃんが今度は大きな光の壁で、自分達を覆った。
うーん。流石に聖女を名乗るだけあって、綺麗な魔法を使うなぁ。同心円状に模様が描かれた黄色い光る盾。なかなか分厚く、頑丈そう。まあ、無駄だけど。
「」ブンッ… パラパラパキン…
「え──」
適当に鉄の棒で撫でてやれば、いとも容易く割れ、解れる様に崩れて消えていった。
槍使いの横で両膝を着いた彼女が顔だけをこちらに向け、驚きに固まる。
「なっ…、ば、【聖鎖】!!」光の鎖を──
「」手首のスナップで光鎖切断!
「!? ──【光剣結界】っ!!」サクサクサクッ…フォン!!
「」ビタッ!?
ん!? 何これ、「光◯護封剣」!? 2ターン攻撃ができないのか!? 体が前に進まない!!
その隙に、聖女ちゃんは必死の形相で槍使いに向き直り、彼の喉を輝く黄色の魔力で包んでいく。
なら、こうだ。
私の体を起点に、腕輪から出した鉄塊を操作して足下の光の短剣達にぶち当てた。
フゥン…↓
「──そ、んな…、」
表側の永◯魔法カードは、破壊されたら効力を失うんですよ。まあ、「光◯護封剣」は何故か通◯魔法だけど。
「お、お願いです…、治療を、させてください…。」
回復魔法らしき行為を続けながら、聖女ちゃんが絶望の声色で懇願してきた。
端から見たら私、魔王の手先だよな。まあ、大枠では似た様なものだけど。
「そちらが攻撃してきたから反撃しただけです。お好きにどうぞ。
ただ、回復してまた敵対されても面倒です。拘束しますが、良いですね?」
「分かり、ました…。」
──────────
「先ほどは失礼しました。話を続けますが大人しく聞きますか? 聞きますよね? 聞かない訳ないですよね? 聞くに違いありません。聞け。」
「は、はい…。」
「」身動き取れず…
跪いた聖女ちゃんと地面に転がされたままの槍使い君を見下ろし、命令を下す。
とりあえず、私の気が収まらないので無理矢理に説教を聞かせることにした。
聖女ちゃんはほとんど心が折れてるし、槍使い君は治療は済んでいるが武器も無く、手足と口周りを呪鉄で覆っているので抵抗もできない。
聞く体勢はばっちりである。
「暴言を吐いたのは謝りましょう。でも、聖女のあなたが、あまりにも頓珍漢なことを言ったってことも自覚してほしいです。」
「あ、あの、私はまだ聖女の見習いで正式な──」
「どーでもいい。訊かれたことだけ答えろ。」
「ご、ごめんなさい…。」
空はかなり白んでいる。誰かしらに見つかる前に終わらせたいから、無駄話はカットだ。
「あなたの間違いですけど。『怪我人の治療』の代わりに『助言の要求』をする。ここからして、不正解なんですけど、どこが私の気に障ったかご理解できますか?」
「い、いや──」
「確かに、価値としては見合っているでしょう。むしろ貴重な四肢欠損の回復となれば、効果があるかも分からない謎女の助言よりは、よほど尊敬されて然るべきことかと。」
「あ、やっぱりそう──」
「しかし!」
私が睨むとビクリと体を震わせて黙り込む聖女ちゃん。
「あの町の守備隊員さん達は、あなた達勇者一行が原因で現れた、呪いの黒大蛇に傷付けられたんですよ。
あなた達は加害者側で。何かを要求するのは烏滸がましい立場。そこを理解してほしいですね。」
「…、」
反論は無し。だが、その表情には不服の感情が見てとれる。
「私個人としては。あなた達の行動と大蛇出現の因果関係は少し弱いとは思ってます。でも、町の人達はそうは考えていません。
あなた達は彼らに償いをして、ようやくスタートラインに…、えーと、交渉の場に、立てる訳です。『治療をするから対価を寄越せ。』ではなく。『償いをするから赦してください。』が正しい流れ。『食べ物や助言をお恵みください。』は、その後でようやく、口にできる類いのものです。」
まあ、受け入れてくれる人間なんて居ないと思うが。今回のことでは死者も出てるし、極まった光魔法でも死者蘇生は不可能なはずだし。
「理解できましたか?」
「…、」
「不服ですか。」
「」コク…
小さく頷きが返ってきた。まあ、そうだろうね。
理解できてないからここまで厚かましいことができるんだろうし。
「なら、別の切り口から助言を与えましょう。
──母国に帰れ。今すぐに。」
「え…。」
「勇者は塞ぎ込み、指導者である導師は寝たきりの病で会話すらできないんでしょう? ならもう、できることはありません。こんな所で油を売ってないで、とっとと母国に引き返すべきです。」
「そ、そんなこと──」
「『できない』?」
「できません…!」
「それは何故?」
「ま、まだペイトを──仲間が捕らえられたままです! それに、国に食べ物を持ち帰る崇高な使命も──」
「自分達が食べる分すら確保できていないのに?」
「そ、それは…、」
「『それは』?」
「…、」
再び黙り込む聖女ちゃん。様々な葛藤が有るのか、暗い顔で唇を噛みしめている。
彼女らの国が在る大陸西部は、作物の育ちが悪い。特に穀物類の不足は深刻らしく他国からの購入に頼っている。その改善策の一環として勇者達を外国に派遣し魔物退治などをさせ、見返りに小麦や木の実などを得ているのだ。
だが、彼女達に任務を遂行する力はもう残ってはいまい。
「邪竜相手に敗北した。勇者はもう勇者ではない。あなたの回復魔法では導師の病は治せなかった。もうここでできることはない。
だから、それらを認めて、受け入れて、帰還するべきだと思いますよ。これ以上、致命的なことが起こる前に。」
「………、」
泣きそうな顔で俯く彼女に背を向け、私は出発準備を始める。
その前に、肩越しに振り返って別れの挨拶を投げておく。
「どうか、罪を背負いし迷える子羊に、“陽光の導きが在ります様に”。
シオさんに、どうかお元気でとお伝えください。さようなら。」
次回は28日予定です。




