395話 邪魔するから帰りま~す…
一応の注釈。
この世界には衛星たる「月」が無いので、1ヶ月を「1ヶ節」と呼称しています。
尺度はほぼ同じです。1ヶ節はきっかり30日です。
「無事な様子で安心したわ。」
「何故、こちらに…。」
「門の近くで『癒し』を行っていたの。そうしたら、貴女の魔力光が遠目に見えたものだから。」
「あ、ありがとうございます…!」
「感謝されることじゃないわ。
ところで、ペイトは…?」姿が…?
「そ、それは…、」
シオさんと、ユリシーと呼ばれた白い礼装の少女が言葉を交わす。
物々しい槍使いの護衛が2人。立ち姿も凜としている。
少女の方は、疲れなのか憂いなのかほんのり陰を帯びた表情と、それとは裏腹にキラキラ輝く金の髪。
シオさんが様付けで呼んだことからしても、間違いなくこの少女が「聖女」だろう。
自身以外の他者の傷を癒すことができる回復魔法の使い手。
勇者や老魔法使いと共に、邪竜対象に喧嘩を売ったバカその3。
まさか遭遇するとはな~。想定はしてないこともなかったが、まさか向こうから近づいてくるとは。
まあいい、完全部外者の私はクールに去るぜ。
抜き足…、差し足…、忍び足…、
「そちらの方。」
「………はい。」ビタッ…
「どちらへ行かれるのですか?」
ちっ。槍使いの1人に見咎められてしまった。
「お構いなく~…。」抜き足再開…
「シオの供をしてくださった方…? お礼を──」
「礼には及びませんのでー。」ススス…
「お言葉を遮るな。」
槍使いその2が不快感を露に、軽く迫ってくる。
こうなると、不用意に動く方が不味いか。
「不敬な奴め。誰だお前は?」
「しがない冒険者崩れです~。任務は達成したので、感動の再会を邪魔しちゃいけないと退散しようかと~。」あははは…
「…、」
「冒険者…。」
槍使いどもからの視線の圧が増した。
周りに部外者が多い。ここでやりたくはない、がどうするか。むしろ騒いで門番を呼ぶ──?
「あ、あの! えっ、と、そちらの方は、お強いので、じゃなくて。無理を言って付いてきてもらったからすぐに帰る必要が有って、だから、その…、」
シオさんがなんとか場を宥めようと、しどろもどろで声をあげた。
「もう夕闇が迫る頃だけれど、町で泊まっていかれないの…?」
「は、はい、テイラさんに、は、色々と事情が…。」
「そう…。
2人とも、お下がりなさい。」
「「…はっ…。」」ザッ…
聖女が軽く前に出て、少し頭を下げる。
「ありがとう。お気をつけて…。」
「…いえ、こちらこそ。」
挨拶もそこそこに私は、視線を外さぬ様に後ろ向きにそろりそろりと離れていった…。
──────────
「ふぅ~~…、面倒事をギリ回避~…。」
今は、道をしばらく戻った脇に鎮座している岩の側に、鉄テントを構えて人心地ついたところだ。
鉄靴を脱いで座り込む。もうそろそろこの靴の中に仕込んでる毛糸靴下も暑くて履けない季節だなぁ。なんか通気性の良い布地に交換すべきか。
「まあ、いいや。とりあえず適当に何か食べて寝よ…。」
ポーチの中からいくつか保存食の木の実を取り出しぼりぼりと咀嚼する。砂糖を溶かしてまぶしてあるからめちゃ美味である。
お水もしっかり摂って、ストレッチで筋肉を程よく伸ばした後は、アクアの水魔法と髪留めの風で簡易的に汗を消し飛ばす。そして、鉄リクライニングシートに横になった。
──────────
「うむぅ…?」
目が覚めた。
淡い緑光が満ちる部屋の中、ぼんやり思考する。
はて…、何か変な感じが…。
『お客さんだよ。』
「アクア…? おはよー…。」
『ああ、お早う。』
巻き貝スライムなアクアが、テントの壁に触腕を当てながら声を掛けてくる。
『今、外は日が昇り始めたくらいだろう。煌光国の連中は、まったくもって面倒だね。』
面倒に勤勉の当て字とかどんな表現…、ん…?
「【煌光国】の連中…??」
『ああ。聖女未満の小娘が来ているよ。』
──────────
「………。」
「突然、押し掛けてごめんなさい。」
「いえ…。」
身仕度を整えて外に出ると、朝焼けの清々しい草原に昨日の少女が佇んでいた。
傍には、槍使いその1と空の鉄リアカー。パッと見、他には誰も居ない。
「改めてお礼を。シオを助けていただいて、ありがとう。お借りしていた荷車をお返します。」
「…どうも。…そのシオさんは…、」
「昨夜は遅くまで話をしてもらったから…、疲れていてまだ寝ているわ。」
「そうです、か…。」
何故、遣いの者ではなく聖女様が自らこんな怪しい奴の所に来た…? 襲撃じゃないのか…?
「あの…、ペイト…私達の仲間のこと、聞きました。向こうで色々なことが有った、と…。怪我をした方が居るん、ですよね? それで、そのことで少しよろしいかしら…?」
どうやら、向こうの町の守備隊員の話をしているらしい。
言葉を選び、私の様子を窺いながら話をしてくる。お付きの槍使いは黙ったまま直立不動。周囲に潜んでいる奴は…、不審音は無いが…、ちょっと判別できない。
「──四肢欠損なら、私は治せる、2ヶ節ほど前の怪我と聞いているから確実に、とは言えないけれど…。治すことができると思います。」
「………それで?」
「捕らえられた仲間を救う手助けをしてほしい、いえ、何か助言をいただけないかしら、と思ってます。」
これ、本当にシオさんから話を聞いたのか…?
「…何故、私に?」
「貴女は、とても考えが深いと…、魔法や冒険のことをよく知っているとシオが言っていました。
私達は今、進退を…、今後どうするかを悩んで、いて…。
欠損治療に挑むから、知恵を、貸してほしい。」
そう言って軽く頭を下げてから、私の顔を真っ直ぐ見つめる聖女ちゃん。
シオさんとそう歳が変わらないだろう少女の顔に、陰の有る切実さを滲ませている。
「…辛辣な本音と。耳障りの良ぃ~い、甘言。甘い言葉。
どちらを、選ばれますか。」
「え…。」
少しばかり俯いて悩みつつも、供の人に相談することなく顔を上げ覚悟を口にする。
「…、本音を、お願いします。」
「私の視点で、見て聞いて感じたことを。あなたの心を抉る様な表現で。ドストレートに。話しますけど。
本当に。よろしいです、か。」
「…、」
「お、お願い、します…。」
お付きの槍使いも強張った顔をしているが、止めには入らない。
そうかそうか、覚悟は有ると。
なら、遠慮なく。
すうぅぅぅ…
「──バッッッカじゃ、ねぇの!!?」超怒声!!
「「!?」」
「頭沸いてんですか! 沸騰してんですか! むしろ蛆虫でも湧いてるんですか! 脳みそスカスカですか!!」はあぁぁぁ~…!
「…!? …??」
「」無言戦闘体勢…
大人しそうな槍使いが武器を構え始めているが、私は盛大な溜め息を吐くのに忙しい。
まったく…。社会常識の無い大学生かっての。
これは気疲れ半端無いな…。でももう、とことん言ってやろう。後のことなんか知らん。
次回は21日予定です。




