393話 価値は無くとも後処理は大事
「すみません、昨日は言い過ぎました。
ごめんなさい。」
「…、」
翌日、まだ空が白みはじめた頃に目が覚めてしまった私は、起き抜け一番にシオさんへと謝罪をした。
やっぱり私も、久々に人を殺めたことで精神的にキてたみたいだ。
あそこまで刺々しい態度を取ってしまうとは…。
前世25年(多分)プラス今世17歳の年上として、14歳の少女相手にあるまじき横暴だった。反省である。
「私の方こそ…、申し訳、ないです…。」
シオさんは、目にうっすらと隈が出来ていた。中から閂を掛けられる鉄個室から出てきたが、多分、一睡もできていないんだろう。
お祈りで気力を奮い立たせた、なんて雰囲気でもない。祈り方も分からない迷子みたいな様子だ。
「昨日は、ああ言いましたけど…。なんなら、町から応援を呼んで残った賊どもを連行しましょうか?
私は、もうあのまま放置して移動しようかと思ってましたが。」
「…、」
まあ、通行人への説明の為に伝言と言うか、立て書きでも残すつもりではいるけど。
「ごめんなさい…、判断、できないです…。」
「あー…、ですよね。」
ん~、こう言う時は何はともあれ…、
「とりあえず何か食べましょうか。話はそれからで。」
「…、はい…。」
せめて塩のスープでも作って水分と塩分を──
とその前に。生き残りの3人の様子を軽く見るか。
窒息はしない様に気をつけたはずだし、気温湿度からして脱水や低体温も多分大丈夫。十字架には掛けたが、死んではないはず。
磔された人の死因は「圧死」、固定された手足と自重で下がる体との間で内臓がゆっくり潰されることで起きるとかなんとか。昨日の奴らは面倒だったから足は地面に付けたまま括った。まあ、大丈夫だろう。
「まあ、締め付けで血流循環がダメになって機能不全ってことはある──」ザッザッ…
キン!キン!キン!
前方から攻撃予測!? 鉄盾&反撃!!
──────────
「えー…、すみません、シオさん…。賊の1人…が、死んでました…。」
「え…。」
「その、角兎に…、足を噛られてて…。」
「」口押さえ青ざめ…
はっはっはっ…、やっちまったぜ全く…。
私が頭を鉄パイプで殴ったおっさんが、夜の間に魔物にやられていた。
腹部に空いた致命傷、骨が見えそうなほど削れた脚部、迎撃で仕留めた角兎の角と口元が血まみれだったことから、多分間違いない。
横の2人は小便漏らした状態で呆然としてたから、事情も聞けそうにないし…。近寄りたくもない。
とりあえず追加の1人と1匹の血液を、完全鉄塊変換して処理。棺に包んでおいた。
流石に人食いウサギの肉は食べたくないし、そも解体できんし。貴重な肉だけど、ね…。
「まあ…、朝ご飯食べましょうか。どうするかはその後考えます…。」
「…、」無気力追随…
塩スープと固い保存黒パンを食べていると、休憩場所に人がやってきた。
近隣の村で1泊した任務帰りの冒険者達らしい。
町に戻る彼らに事情を説明し無理を言って、賊の引き取りをお願いした。
「こいつ、『クロデブ』じゃねぇか!?」
「マジかよ。」
鉄箱の中身を見た彼らが驚愕の声をあげている。
私が仕留めた角兎が、まさかの名前付き討伐対象だった。単体行動のくせに相当強く、その上危機管理能力が高いのか強者の近くには決して姿を見せない厄介なやつだったそう。
しかし、酷い俗称だ…。確かに黒い毛並みで、柴犬くらいのサイズだったけども…。
そしてウサギに負ける、名無しの賊人間ども…。
「じゃあ、討伐の証代わりに角だけ切り落として、残りは賊どもと一緒に埋めますね。」ギーコギーコ…
やはり人食いの兎肉は嫌悪を感じるらしいので、解体はせずに鈍鉄棺で密閉しておくことになった。
鈍鉄で作ったスコップを冒険者達に振るってもらい、賊2体とデカい兎魔物の棺を沈める穴を掘っていく。
「いやぁ、こう言う時に人手がありがたい…。」
彼らの作業を尻目に、私は鈍鉄で工作の時間である。
死んだ奴らの血から創った鉄は、棺の素材以上の量が出来ている。棺を分厚くすると重いし穴も巨大化するし、余分は排除したのだ。生きてる賊は歩けはするみたいだし、その簡易拘束具を含めても残りはかなりの量になる。
なので街道脇の公共休憩スペースに、福祉器具(?)的な謎物品を設置することにした。
横長のベンチ、テーブルとイスのセット、サッカーゴールポストじみた庇、バカデカ重しスツール…と言うよりは置き石、武器類立て掛け可能ドッシリ衝立、簡易かまどの基礎部分、等など…。
まあ、屋外放置ではアっという間に錆びるから大雑把な造りにしたので、無いよりはマシ程度の謎オブジェだろうけど。
おら、強盗チンピラ。死んだ後にこそ、社会貢献するんだよ。何かしら役に立て。
「皆さん、ありがとうございました。よろしくお願いします。」ぺこり…
「おう! 良い稼ぎをありがとな!」
「じゃあな。」
「帰ったらパーッと休みだ!」
「おら、行くぞ。」
「」黙々追随…
「」無言絶望歩き…
何故か欲しがったのでそのまま譲った鈍鉄スコップを手に持ち、冒険者達は移動していった。
角兎の角と、シリュウさんに持たされていた10万ギルを報酬として渡したが…。まあ、その価値は有っただろう。スエた匂いのおっさんが履いているズボンの処理など、金を積まれても私はしたくないし。
仮に冒険者達とおっさんどもがグルだったとしても…、いや、その可能性は考えるだけ無駄だな。まあ、主犯ともう1人は消したんだし良いだろう。守備隊の名前を出しておいたから、下手なことはしづらいはずだし。
達者で暮らせよ賊ども~。犯罪奴隷にでもなって孝行しな~。
──────────
「だいぶ遅くなっちゃいましたね。」ガラガラガラ…
「いえ…、」
「今日中に着くと良いんですが。」
「…、はい…。」
「…。」ガラガラガラ…
「…、」
「何か言いたいことがあれば聞きますよ…?」
「大丈夫、です…。」
「そうですか。」
「…、」
「…。」ガラガラガラ…
「…、」
冒険者達と会った時からフードを下ろしたままのシオさんは、俯いてとぼとぼと歩いている。
無言で歩くのは苦痛だからお喋りはしたいが、如何せん雰囲気が悪い。
まあ、生き方の問題と言うか、私は私のやり方を貫くし、シオさんも信仰や信念を曲げたりはしない。
元気が有れば、「あの賊どもは勇者の手引きですか?残念でしたね?」とか「私がシオさんに恩を着せる為に雇ったチンピラかもですよ?聖女様への口利きお願いしますね?」とかって議論をふっ掛けるんだが。
まあ、止めておくのが無難だな。うん。
このまま放置でお別れかなぁ…。それもまた人生か。
次回は9月7日予定です。




