391話 のんびりほのぼの小旅行
「では、行きましょうかシオさん。」
「はい。」
薄手のフード付きローブを羽織ったシオさんの声には、きちんと意思の強さが宿っている様に感じる。ひとまず、精神的には持ちなおしたみたいだ。
食料その他の準備は万全。副隊長さんや丁寧君に予定もきっちり伝えた。
鉄義足の方は出始めた錆を取り除いて整備してきたし、そのうち丁寧君の実家が作った木製のものが来るしどうにかなるだろう。今はそれ以上に勇者の仲間を遠ざける方が重要だし。
「お疲れ様です。」ガラガラガラ…
「」フードのままペコリ…
「…、」無言頷き…
「…、」目礼…
門付きの隊員さん達に見送られて、町から出る。
目の前にはなだらかな平地の草原。
ここから目的の町までは、片道徒歩2日の距離だ。
道中の地図は鉄板にメモしたし、移動は幹線道路でこそないがちゃんとした道だし、多分なんとかなるだろう。
「」ガラガラガラ…
「…、金属魔法、便利ですね…。」ちらり…
「あはは、ちゃんとしたものじゃないんで色々と試行錯誤ですよ~。」
シオさんが見るのは、私が牽引している小型の鉄リアカーだ。少ないが、小麦や雑穀の袋、塩漬けの肉なんかが入った箱が乗っている。守備隊の皆さんからの支援物資…、もとい手切れ金代わりの食料達だ。
「歩き疲れたら遠慮なくリアカーに乗ってくださいね。ちょっと、バネとかサスペンションとかが無いから乗り心地は最悪でしょうけど。」
「いえ、そんな大丈夫です。ちゃんと歩けます…!」さすぺ…?
──────────
「──で、隣国からこっちに来たんですけど、横着したせいで守備隊の人と揉めてしまって。それで、私は町でお掃除を、私の仲間は沼地への遠征隊に協力を、って感じになりまして。」
「そう、だったんですか。」ガラガラガラ…
交代しつつ、お喋りをしながら歩いていく。流石に国を出て旅をしていただけあってシオさんの体力は結構有る様子。
まあ、お喋りと言っても、〈呪怨〉とか特級とかには触れないフワッとした内容だが。
ちなみにシリュウさん達、沼地への遠征隊は作戦が長期化してしまっているらしい。
なんでも、〈呪怨〉の大蛇を召喚している根本存在が突き止められずじまいで、業を煮やしたシリュウさんが大火力火炎魔法で沼地を片っ端から干上がらせているとかなんとか。
周辺地域の生態系を再起不能にする大破壊であるが、〈呪怨〉を打ち破るにはそれくらい必要ってことなんだろう。
出発前に聞いた話だし、とっとと戻らないとシリュウさんが町に帰還してしまう可能性は有る。
が、まあ、なんとかなるっしょ~。
「お、あれが街道沿いの休憩ポイントかな? じゃあ予定通り、今日はあそこで休みましょうか。」
「分かり、ました。」ガラガラガラ…
──────────
持ち運び用の小型赤熱魔鉄の上に鉄鍋をセット、1口大に切って軽く炒めた塩漬け肉を入れてから、たっぷりの水を注ぎ発熱開始。程よく煮えたら、水で練った小麦粉団子の「すいとん」を投入して──
「適当肉入り塩スープが完成しましたよ~。」
「あ、はい…?」戸惑い…
「あー、ちょっと適当過ぎましたかね? あんまり時間を掛けれないし、使える素材を考えるとこのくらいが関の山なんですが…。」
まあ、肉に付いた保存液とかの苦味がダイレクトに出てて「抜群に美味しい!」とは言えないクオリティだしなぁ。でも、下茹でして、せっかくの塩とか水を無駄に捨てるのも勿体無いし手間だし。
アクアに何度も水出してもらうのも悪いしね。
「い、いえ。とても、旅の途中とは思えない素晴らしいスープが、こんな短時間で出来上がって…。驚いてしまいました。」
あー、そっちか。
「あなた、凄いですね…。携帯式の調理魔導具に、鍋や器の生成…。尊敬します。」
「ん? シオさんも似た様なこと…、調理器具の方は無理でも、塩の結晶で料理の器を作ったり火魔法で加熱したりできるんじゃ?」よそいよそい…
「え──、
いえ、無理ですよ。塩は石とかと違ってその辺りには有りませんし、凝集させたところで大した量じゃありません。便利な形にするなんてとても…。」
「あー、『周辺物質支配』はできても『自己生成』は無理ですか。私と逆ですね。」
「いえ、無からの生成もできますがそっちは僅かだけで──」
「」ピタッ!
私の耳が音を拾う。
手を止めてそっちを見ると、もうそろそろ日が暮れる草原に人の集団が居た。
男が…、4人くらいか。こちらに向かって歩いてくる。
「どうしました…?」
私は、まだ手を付けていないスープを黙って鍋に戻し、蓋をして完全密着で閉じておく。身体強化、起動。鉄アクセサリー、展開。
「え、あ、あの。」
「私が対応しますから。フードを。」指差し…
「は、はい…。」ガバッ…
さて…。勇者一行の差し金だったりするか…?
「よう…。」
「こんばんは。」
小さく声を掛けてきたので、挨拶を返す。
現れたのはくたびれた中年男。冒険者風。とても地元民感。
ちらりと、私達の荷物を置いた鉄テントとリアカーを見た。
「泊まりか?」
「そちらは任務の帰りですか?」
「…、」
質問に質問で返すと、無言でこちらを見つめてくる。
辺りには他に休憩している人達は居らず、この時間帯ではここを通る者も居ないだろう。「襲撃」には絶好のチャンス。
すると、後ろの男達が前に出てきた。懐や腰から武器を取り出す。手斧、ナイフ、また手斧。無言の威圧である。
「寄越せ。」
「何を?」
「飯。荷車。」
なんだ。単なる強盗か。町の被害者遺族がシオさんへの報復に来た、とかじゃなくて一安心。
「お前らは要らん。さっさといけ。」
犯罪レベルを抑えて捕まる可能性を下げる狙いなのか?
あるいは、道の先に仲間が潜んでいるのか。
「女を逃がしてくれるなんて親切な紳士ですね?」
「」ヒュンッ!
「ひっ。」
軽口をたたいた私の目の前、小さなナイフが地面に突き刺さる。
シオさんが息を呑んだ。
「退け。」
温度の無い暗い目をした男が、有無を言わさぬ雰囲気を出す。
手慣れた外道か。なら…、
私はスッと巨大な鉄鎌──デスサイズを出現させ、振りかぶる姿勢で構えた。
「お前らが消えろ。」
刃でギラリと反射した夕日が男達を照らすと、ビクッと後ろに下がった。
これはいけるな。
次回は24日予定です。




