39話 乾燥肉
翌朝。
テントを出る前の身支度を整える時、腕を少しだけ動かせることに気付いた。前腕を30度くらい持ち上げれるし、中指が親指に付くくらい手を握れる。
こんな状態は初めてだから比較出来ないけど、驚異的な回復力だろう。ちょっとした擦り傷すら数日かけて治る私の体では、そもそも腕が一生涯このままって可能性もあったのだ。
まず間違いなく、ドラゴン肉のおかげだろうな…。
ファンタジー、やべぇ…。
今日も晴天!
いやぁ、絶好の旅日和だね!
なのに、シリュウさんは「今日は暑くなり過ぎる。移動は無しだ。」と言って林の方に薪を取りにいった。
鉄箱カツの確認は普通にしてたけど…。
んー…昨日の会話で変に不安にさせたかな?
まあ、いいや。やれることをやるとしよう。
腕の固定を外して、リハビリがてら動く範囲で動かす。
…筋肉は…!…負荷を、かけて…!…成長する…!とか、しない、とか…!
そしてその間、暇な頭で美味しいご飯を考えよう。
まずは新たなるチャレンジをするべきか。
シリュウさんが大量に保有してるらしい乾燥肉の活用法を考えるのだ…!
ガチガチに乾燥した動物の肉が相当量あるみたいに言ってたから、それが美味しくいただけるようになれば、使える材料が一気に増える。
ドラゴン肉なんて貴重食材と向き合う、私の心痛を減らすことも可能になるのだ!
素直に考えるなら…そのまま食べる、だよね。
刻んで混ぜる。
次に、出汁を取る。
ワンチャン元の肉に戻す…!
…。そのままは無理。シリュウさんですらかなり力入れて噛み千切ってたし。刻むのも…刃が通らないよね多分。
蒸し器に入れてふやかせてたら肉に戻る…訳は無い。でもふやかすのはしてみたいな。どんな感じになるか興味ある。
やはり素直に出汁取るか。かなり旨味が染み出す気がする。
ともかく茹でることから始めよう。
寸胴鍋があればなんとでもなるはず。料理にする訳だしアクアの水を使わせて貰うか。
あとは、小麦粉も結構あるって言ってたな。
出来ることは多いだろう。夢が広がるね。
──────────
「ではシリュウさん、乾燥肉活用実験始めます!」
「…。する意味あるか?」
「逆に聞きますけど、ドラゴン肉の在庫、余裕あるんです?」
「…。」
「貴重なお肉はバカバカ使うものじゃないですって。たくさん持っているものを使って、普段の食事のランクを上げる。これが理想形です。」
「…。出来たら助かるが、本当に可能なのか?」
「まずは可能かどうかを探るんですよ。結構有るんですよね?実験するのに問題あります?」
「どうしようもないと思うが、好きにしろ。量は知らん。」
残量が分からないってどう言うこと?
気にしてないだけ? それとも…とんでも無い量あるのか?
とりあえず、乾燥肉をいくつか出して貰う。
菱形とか楕円形の…板だな。完全に釘とか打てるわ。いや、むしろ釘も通らないかも、これ…。
アームで叩いても…うん。肉の反響音じゃないね。
水をたっぷり入れた寸胴鍋に沈めてみる。
単に浸けたまま放置するものと、沸騰させて煮込むものの2パターン用意した。
煮込む方には、少し離れた所に設置したアンテナ鏡で加熱する。
アンテナ鏡に長い針金の導線を付けて、それに触れて鍋の側に居ながら鏡の角度を変えられるようにした。これで長時間でも大丈夫。曇ったら薪を燃やせば良い。
ぐつぐつぐつ…
ふむ。蓋してしばらくそのままで。
その間に、
「シリュウさん、小麦粉ってたっぷりあるって言ってましたよね?」
「ああ。」
「どんなのあります?私が使っても良いですか?」
「どんなって言われてもな。この大陸のいろんなところでかなり前から入れてるから、種類なんざ分からんな。」
「あ~、地域や時代でも色々ありますもんね。なら、マジックバッグの中で取り出す時は適当にしか出せないんです?」
「…。魔力がある旨いやつとかなら判別出来るが?」
「なるほど。なら、とりあえず魔力無くてパサパサになったやつを少し出して貰っても良いです?」
「もの好きだな…。」
まあなんとかなるさ。
シリュウさんが出したのは、石の箱?だった。
…これは土魔法で石を器型に形成してるのか。結構厚みが薄いのにしっかりしてる。蓋付き。
中は…かなり粒が粗い粉だね。色が斑…全粒粉?っぽい。
さて、このまま1摘まみして味見…
口の中の水分、めっちゃ取られる…。
流石はシリュウさんの革袋の乾燥能力…。石の箱の中までしっかり乾燥。
学習能力無いな私…。
まあ、麦の甘みらしきものは感じる。使えるだろう。
水を加えれば弾力と粘り気は出るだろうし、その様子見て何を作れるかは予測出来るでしょう。
穀物が食べれるのは素晴らしいね。
まずは…水で練ってみるか。
ボウルの中に少量出して、水を加えて…。アームの先は…ヘラみたいにすればいけるか。鉄ヘラで混ぜる。
んー? なんかボソボソ? 水が足りない訳じゃなさそうだけど…。
あー…粒の粗い粉だったから粘り気が出てないっぽい。
これはやり方変えるべきか。
とりあえず、このボソボソ生地は…このまま食べてみるか。
スプーンで掬ってパクリ。
こう…絶妙に微妙。
麦芽?とか殻?みたいな異物感が穀物の甘みを邪魔する。まあ、栄養は取れそう。
やはりこれは粉のレベルアップだな!
臼で再度細かく挽いて、篩にかければ、質の良い粉に仕上がるはず!
冒険者時代に石臼を鉄で作れないか試したことがある。形や重さ具合に苦労したけど、ちゃんとした臼が作れたからそれを思い出せばいけるはず。
形成した臼に粗い小麦粉を流し入れて、回す。
まわ、す…! ま!わ!すぅ…!!
…回らん。
うぉい、アーム頑張れよ!相手ただの穀物の粒だぞ!?鉄腕とか名前負けだぞ!?
あれ!?それとも臼の構造間違った!?
私があたふたしていると察したのかシリュウさんが代わってくれた。普通にごりごり回ってる。
うん。普通に細かい粉になってるね。
臼の受け皿に貯まった粉を、目が細かい篩にかける。
かなり良い感じだね。良い小麦粉になったのではなかろうか。
ボウルに移して水を加えて練り練り…。
粘り気は…割りとあるか。生地を寝かしたらパン生地になるかなぁ? パンを焼くかまどとか流石に無理だな。止めよう。
なら…麺…か? 麺料理に使う小麦粉って…なんだっけ…。この粘りで作れるかなぁ?
お菓子に使うのが、粘りの弱い薄力粉…だったよね?…よね??
グルテンの含有量で…、えー…。
記憶力無い私が日本の知識で料理無双とか、笑っちゃうよね~…。
おっし、切り換えていこう。
とりあえず、焼く。そして煮る。適当ゴーゴー!




