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389話 離脱のススメと難しい対処

「…、」


 勇者達と一緒に旅をしている仲間ですよね?と指摘したら、青い顔のまま(うつむ)いてしまったシオさん。

 自分達の不手際で〈呪怨(のろい)〉の大蛇が出現し、死傷者が出て、町の人から(うら)まれている現実に押し潰されている様子だ。



「まあ、別に私にはあなたを責める気も有りません。その酸蛇だって、本当に勇者一行様が関わったのかは定かじゃないですし。」

「……っ…、」

「でも、この町の人達が良くは思ってないのも事実なんで。

 早々に離脱することをおススメしますよ。出稼ぎなら、他の場所でもできるでしょうし。」


 恨むのは仕方ないとしても、供回りに過ぎない彼女にとっては理不尽な話ではある。こう言う場合は物理的に距離をとるしかない。

 とりあえず場所を移した方が良いと伝えると、か細い声が返ってきた。



「無理、です…。」

「無理? 何か事情が?」

「はい…。」こく、り…


 どうやら、一緒に出稼ぎに来たシオさんの仲間が捕らわれているらしい。それも、この町の治安を守る守備隊によって。



「あ~…、それは置いていけませんね。」

「今思えば、彼も皆さんのきつい態度に無闇に反発したのかもしれません。

 でも、私1人じゃ、移動も戻ることも…。」


「罪状次第ではありますけど…、守備隊の方に掛け合ってみましょうか。」

「ほ、本当っですか…!?」お願いします!

「確約はできませんが。

 その彼の特徴と経緯を教えてください。」



 ふんふん。年は15歳で、男。髪色は明るい茶色で、目付きが鋭く、背格好は大人くらいある…、



「──町人と喧嘩を起こしたとかで守備隊の方が来たらしく、その方々を殴って捕まったそうなんです。そのまま留置所から出してもらえず…。」

「はて…?」


 留置所って、私が連れていかれた牢屋のことでは…??

 あ。もしかして、あの牢屋の中で、私のこっそり鉄展開に反応し睨んでた、あの男か…!? 特徴は似てた気が…、する…。

 あいつ、年下だったのか。いや、そうじゃなく。



「ちょっと無理そうな感じですね…。」

「…、」諦めの意気消沈…


 勇者一行のメンバーだと判明しているかは定かではないが、喧嘩の事情的にバレてる可能性は有る。

 しかも、直接の罪状は日本で言うところの、公務執行妨害。これはダメかも。


 シオさんも薄々そう感じていたのか、「『(ひかり)』は私達を見捨てたのでしょうか…。」と悲痛な表情だ。


 とりあえず彼女の宿泊場所を聞いておいて、今日のところは解散することにした。

 可哀想なので少しばかりの情けとして、アクアの水を彼女の持つ防水革袋(すいとう)に分けてあげ、小さな蜂蜜玉も追加で2個渡してあげたら、



「【光輝(ひかり)】の施しに、感謝の祈りを…!!」


 と泣いて喜ばれた。ので、



「私の施し(きもち)を、そちらの教義(きょうぎ)で解釈されるの、結構微妙な感じしますよ…?」


 と呟いたら、別の種類の涙に変わっちゃったけど。




 ──────────




「ままなりませんねぇ。」


 隊舎の清掃をしながら、思わず溜め息が溢れる。


 あのあと丁寧君と合流し、そのままの流れで腕を無くした隊員さんのお見舞いもした。

 鉄で見てくれ(・・・・)だけの義手を作ることは可能だが、手指の開閉ができない以上、足と違って必要性はあまり高くない。こちらの彼に私ができることはなかった。奥さんの話を聞いてあげはしたが、心の負担を軽くできた気はさらさらしない。単なる部外者では(なぐさ)めにもならんね。


 そして、留守を任されている副隊長さんにシオさんのお仲間釈放について確認してみたが、こちらも難しそうだった。


 隊員に手をあげたことに加え、喧嘩の理由が「この町を救った勇者様・導師様に仕える自分に食べ物か金品を寄越せ、と強引に迫ったこと」らしい。がっつり元凶の一味と認識されているのである。



「変なこと気にするんですね。」

「テイラさんはあの者を何故釈放すべきだと思うんです?」


 一緒に掃除をしている隊見習い君と丁寧君が言葉を投げ掛けてきた。平坦な声である。



「大雑把に言えば…、そこらに置いておいても邪魔だからですよ。まあでも素直に何処かへ行ってくれるか怪しいからなぁ。」


 食費だってかかるし、魔法封じの枷だって占有されっぱなしだ。業務上、害悪でしかない。

 だが、自分を正義だと信じている(やから)には何を言っても無駄だ。徹底的に叩きのめすか、追放するしかないと思う。



「その留置されてる人、回復魔法が使えるから体罰とかは無意味らしいですよ。」

「町中で公開処罰をしても回復されてしまうと、(たみ)の興奮を煽ることになって暴動が起こると言う懸念も有るそうです。」


 う~ん…、呪怨(わたし)の鉄でぶっ叩けばすぐに()をあげる気はするけど、そこまでするのも面倒臭い。

 かと言ってシオさんみたいに真実を話しても、素直に受け入れて引き下がるか微妙だし…。普通に暴れ出しそうな予感しかないな。



「魔力回路ごと腕を再起不能にしてやれば諸々穏便(おんびん)かなぁ。」

「え──?」絶句…

「あ。いえ、冗談です冗談。」あははは…


(『穏便』って何だっけ…??)自問…

(特級冒険者さんのお仲間だから、そんなことも可能なのか…?)警戒恐怖…


 ここで私が〈呪怨(のろい)〉持ちだとバレると余計にややこしい。やっぱり平和主義が一番。ことなかれことなかれ…。



「シオさんを連れてきて説得アンド引き取ってもらう…、のがベターか…?」はぁ…


 言葉で改心してくれたら助かるよなぁ。


 沼地への遠征隊が戻ってくる前にどうにかしようと思ってたけど。

 いっそのこと帰ってきたシリュウさんにボコボコにして(肉体言語を交わして)もらうのも手か…?



次回は10日予定です。



あと、食道楽的な短編小説を書きました。

フェイク混じりのノンフィクションエッセイですが、ご興味有る方々はどうぞ見てやってください。


「食の短編 あるラーメン屋との出会い」

https://ncode.syosetu.com/n2018kt/

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