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388話 騒ぎの仲裁と少女の話

この前の祝日21日で、この作品を書きはじめてから4年が経ちました。


それだけ掛けてまだこの程度しか書けていないと嘆くべきか、こんな駄文をたらたら続けていることに呆れるべきか。


まあ、書きたいのだから仕方ない。ので、今日もゆるゆると更新です。



「ビルマさん!落ち着いて!!」


 丁寧君が、取っ組み合いをしている2人のうち妙齢の女性を引き剥がしに掛かった。どうやら知り合いらしい。



「モゴックの!! あの人の、腕を!! 元に戻すのよッ!」ガッ!!

「っ!!」涙目縮こまり…!

「こんなこといけません…!」肩掴み…

「この女ならぁア!!」


 ほぼ錯乱状態だ。これ以上はいけない。


 私も女性の腕を身体強化で掴み上げ、その手を少女から無理矢理に引き離す。

 即座に丁寧君が、羽交い締めにした女性ごと後ろに下がっていく。



「その女にッッ!! その女がぁッ!! 退()いて! 退けぇ…!!」


「フェブルウスさん! この子を連れて向こう行ってます!!」

「お願い、します…っ。」


 錯乱女性の視界を遮る様に少女の横に立ち、静かに声を掛けた。



「あっちに行こう。動けますか?」

「ハァ…、ハァ…、ひぅ…、」


 涙目で震える黄色髪の少女だったが、ややあってから小さく頷いたので移動を開始した。




 ──────────




「これ、良かったらどうぞ。」


 人通りが少ない一画まで来た辺りで、鉄ベンチを展開し少女を座らせる。ベンチには極薄鉄板で作った(ひさし)を接続し、日陰が出来る様にした。


 黄色髪の少女は、私が差し出したアクアの水を(むさぼ)る様に口にし、一気に飲み干す。



 こくっこくっこくっ…!

「はぁっ…! はぁ、はぁ…。」

「良い飲みっぷりですね。もう1杯、いきます?」

「く、ください…!」

「どうぞ。」とぽとぽとぽ…



 こく…! こく…! こく…!



 余程苦しかったのか、水筒の蓋コップの水が再び空になった。


 目に刺さるショッキングイエローの髪をしている、この少女。

 少々薄汚れているが、仕立ての良さそうな白い服を身に付けている。ポケットの類いも多く作りも頑丈そうで、厚めの靴も相まって、フィールドワークとかのちょっとした旅装、と言った感じだ。


 そして、ここまで歩いてくるまでの間ずっと握り締めていた、首に掛かるペンダント。その意匠(デザイン)は、「白と黄色の2つの輪っか」。

 恐らく、私の予想(・・)は正しいだろう。


 まあ、それはそれとして。



「何か口にされますか? 今は私が手持ちで差し上げれるのは、これくらいなんですけど。」ごそごそ…

「あ…、こ、これは何ですか…?」

「『蜂蜜玉(はちみつだま)』って呼んでます。蜂蜜を、強力な乾燥を掛けて固めたものです。携帯糧食(けいたいりょうしょく)の部類としては食べやすい方ですよ?」

「い、いただける…、の、ですか…?」


 少女の目が全力で見開かれ、わなわなと小さく震える。



「ええ、どうぞ。大変な想いをされた様ですし、(なぐさ)めになれば良いんですが。」

「い、いた、いただき、ます…。」


 親指と人差し指が橙色(だいだいいろ)の魔力を纏い、小指の爪サイズの蜂蜜玉を摘み上げ、口へと運ぶ。



 ぱく…

「…、………、

 ……………あぁ………、」


 (つむ)ったその目尻から、しくしくと、いや、ぽろぽろと(しずく)(こぼ)れる。どうやら気に入ってもらえた様子。


 静かに涙を流す彼女を見つめながら、この後の展開を脳内シミュレーションしておくとしよう。




「落ち着きましたか?」

「──はい。大変お世話になりました。ありがとうございます。

 “光輪(こうりん)のお導きに、感謝を”。」

「少しお話を聞きたいんですがいいですか?」

「もちろんです。」


 少女の瞳に力強さ(ひかり)が宿った辺りで、聞き取りを開始する。

 彼女は自然な動作でペンダントを握り込み、軽く頭を下げて謝意を伝えてきたがスルーして、サクサク行こう。



「まず、貴女目線で何が起こったのか、どうしてさっきの様な争いになったのか聞かせてください。」




 ──────────




 この少女の名前は、シオと言うらしい。イントネーション的には「(しお)」じゃなく、「()オ」だけど。

 歳は私の3つ下の14。仲間達が苦境に立たされ、この町に出稼ぎ的にやってきたそう。


 大通りで仕事を探していると、突然に先ほどの女性から食って掛かられた。周りの人は遠巻きにするばかりで助けてくれず、何もしていないのに女性はヒートアップして、最終的に掴みかかってきた、と…。



「私には、もう、何が何だか…。」ぎゅっと手を握りしめ…


 日陰なのも手伝って、本当に疲れ果てている暗い雰囲気だ。

 まあ、想像した通りの関係っぽいし、ここらで情報開示といくか。



「なるほどなるほど。

 ところで、あの女性を羽交い締めにして引き剥がしてくれた青年、私の知り合いなんですけどね? この町の守備隊に勤めてらっしゃる方なんですよ。」

「は、はあ…?」


 いきなり筋違いの話をしはじめた私に戸惑いの声が上がるが、水と蜂蜜のおかげか話を聞く姿勢は崩していない。



「今、この町の守備隊員達は大変忙しくされているんです。なんでも、町の北に有る沼地で『化け物』が出たとか。」

「魔物、ですか…?」

「ええ、巨大な黒い『酸蛇(アシッドスネーク)』だそうで。ただ、この蛇、どうやら〈呪怨(のろい)〉の力を持ってるとかで、相当厄介らしいんですよ~。」

「の、『呪怨(のろい)』ですか…! それは、大変な…。“皆様に【光使様(こうしさま)】のご加護が有ります様に”…。」


 平穏無事を祈る独特な文言(・・・・・)を聞きつつ、話を続ける。



「それで、その蛇に、隊員の方が既に何人か被害を受けていましてね。

 その中のお1人は右腕を食い千切られたとか。」

「そ、そんな…。」

「命は助かったんですけど、上級超級回復薬(ハイ・ポーション)が無かった為に、腕は欠損したままらしく。

 その方のお名前が確か『モゴック』さんって言うんですよ。なんでもお嫁さんを貰ったばかりの新婚ほやほやだったらしくて。」

「え…、あれ…。」ショックで口を押さえる…

「さっきの女性、貴女に掴みかかりながら、『治す』とか『モゴック』とか言ってらっしゃったから、多分、その右腕を無くした隊員の奥さんなんでしょうね。」

「…!」


 少女は、顔面蒼白で縮こまった。



「恐らく、回復魔法が使えそうな貴方に腕の治療を願って、」

「ごめんなさい…。」悲痛な雰囲気…

「なんで謝るんです?」


「わた、私は、『光魔法』が…、『回復魔法』は使えないんです…。」

「え…?」目を見開く…


「髪、黄色(こんなん)ですけど、光属性に適性がないんです…。私…。」

「あ…、さっき蜂蜜玉を取る時も、土属性の色を纏って…、」

「はい…、私に有るのは火属性()土属性(つち)だけで…。

 それに土魔法って言っても、草木とか獣の死体から塩分(えんぶん)を集めたりして、くらい、で…。仲間からは、『塩作りシオ』とか…、言われてて…。」

「そうでしたか…。」


 回復魔法の使い手たる聖女がお忍びでだと思っていたけど、違ったか。まあ、お供を連れずに1人でウロウロしてる訳ないから可能性は低いと思ってはいたが。



「実は私も。水魔法が使えないんですよ。」

「え──。で、でも、先ほどの清らかな水──?」

「あれは知り合いに生成して(つくって)もらったやつでして。私にできるのは土魔法の真似事、鉄を生成するぐらいなもんです。」


 お互いに空虚な苦笑いで見つめ合う。

 なんだか、この子とは分かり合えそうだ。



「ありがとうございます。おかげで理由が分かりました。」


 誤解の上に必死だったんですね、と悲しく笑う黄色髪の少女。

 すっきりした様子のところ申し訳ないが、因果(いんが)ははっきりとさせておこうと思う。



「シオさん。」

「はい、何でしょうか?」

「実は、多分。あなたは完全に無関係って訳ではないんですよ。」

「…、どう、言う…?」


「さっき言った呪いの大蛇、ある時から突然に現れる様になったんです。その時期って言うのが、勇者一行が(・・・・・)この町を訪れて沼地の黒蛇を討伐した直後、らしいんですよ。」

「あ──」

「守備隊の方々の見立てでは、勇者達がおざなりな討伐をした結果、〈呪怨(のろい)〉を呼び起こしたと考えられるそうで。

 ──心当たりは有りませんか?

 【煌光国(こうこうこく)】の祈りの文句を(つぶや)き、太陽(たいよう)のシンボルたる2重輪を身に付け、旅の服装で、生命活動に必須の塩を作り出せる、──『シオさん』。」


 彼女は、勇者・聖女に(はべ)る「供回(ともまわ)り」だ。


テイラの、責任追及と憐憫のマリアージュ攻撃。


次回は8月3日予定です。

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