387話 朝の目覚めと町の騒ぎと
「………ん…。」もぞり…
ぼんやりと目を開け、寝返りをうつ。
今日の目覚めはなんかふわふわ。頭がぼんやりする。
ここ最近は食事・運動面で健康的な生活だったから、珍しい。
(なんか、変な夢を見た様な…、
ま…、いいや。水…。)
淡い緑光が照らす鉄テントの中、ゆっくりを体を起こす。
ぽよっ…とした青緑色の塊が、脇の小机の上に見えた。
「あれ…? アクア…?
おはよー…。」しょぼしょぼ…
『ああ、お早う。』こぽんっ…
私の目の前に、拳大のキラキラ輝く水球が現れた。その前面から私に向かって水の紐が伸びてきたので、パクっと口に含む。そして自然な流れで吸った。
こく…こく…こく…
「はぁ~…、美味し…。」
存分に喉を潤したら、お次は口の中に少量溜めてブクブクと濯ぐ。
口内を綺麗にしたら、こくんっと飲み込み胃に落とす。
『相変わらず、吐き出さないね。』
「そりゃ、美味しい綺麗な水がもったいないし。」ぐぅ~~っと伸び…!
『覚醒前ならともかく。今はその程度の汚染水の浄化なんて訳無いのにね。』ぽよふり~…
口から吐いた水が宙に浮いて蒸発(?)し消えていくとかファンタジー通り越してホラーなのよ。
「それにしても。アクアが先に起きてるとか、珍しいね。何か有った…?」
『大したことではないよ。
卑屈娘が少しうなされていたから軽く様子を見ていただけさ。』
あ~…。悪夢でも見たのか…? かなり久しぶりだな。それを、多分魔法的なものでなんとかしてくれた感じか。
「ありがとう…。」ぺこり…
『いいさ。片手間程度の労力だからね。
大方、鉄の義足作りでトスラを思い出したんだろう。』
「え。」髪を掻き分け目を見開く…
『風娘卑屈娘が暮らしていた町に居た片足の男、昨日のことで彼を思い出し、その後の別れを夢に見たのさ。』
一本足のおじさんこと、チレッグ師匠。私と親友が大変に世話になり、そのお礼に鉄義足を贈った相手だ。あの時の試行錯誤が今回の義足作りにも多大に役立っていた。
でも、エルド島の風エルフがやって来て、ギルドを追放されて、レイヤの風魔法で遠くに飛ばされて…。
考えてみれば、おじさんには別れの挨拶もしていない。今はどうしているだろう。元気かな…。
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「今日もよろしくお願いします、フェブルウスさん。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
身支度を整え見習い丁寧君と合流する。
今日は、昨日作製した鉄義足の具合を確かめに向かう。
「ザバルガさんもとても感激しておられましたし、大丈夫だと思いますよ。」
「まあ、めったなことにはなってないかもですけどね。私の変な金属で作ったから、色々と不安で。」
「そうですか…、(自虐が過ぎる方だな…。何故…?)」
「う~…ん。やっぱり車椅子も作るべきかなぁ。」
義足・松葉杖以外の移動手段も作製を考えたのだが、ザバルガさんの環境を思い保留にしている。
お家のドア・玄関の幅、床の強度、動線やスペースを鑑みるにオール鉄製の車椅子は少々不適格なのだ。バリアフリーなんて概念が無い造りだからねぇ、家も道も。
マボアの紅蕾さんに1度作ってるからノウハウはあるものの、あの場合は「移動できる植木鉢」がメインの用途だったし。
身体障害を抱えた人用ともなれば、半端な物は作れない。今はシリュウさんが居ないから錆びづらい鉄を用意するのも難儀だし。
「車輪の付いた移動座席ならば私の実家で用意できます。流石に浮遊式の魔導椅子、となると、難しいですが。」
「あいえ、そんなねだるみたいなことではなく…。」
そんな雑談を交わしながら町中を移動していたところ、
丁寧君がピクンと目線を移動させた。
「どうしました?」
「…、何やら騒ぎが起きているみたいです。」耳に手を当て…
「行きましょう。」
「いえ、ですが、私達には任務が…、」
「町の治安維持は守備隊の最優先任務ですよ。今は見回りも少ないのでは?」
精鋭の隊員達は沼地に行ってしまっている。先日、呪いの大蛇は1匹ではないとかって現地からの伝令が来て、町に残っていたメンバーも追加の支援準備などでかなり忙しくされてるから人手が足りない可能性が高い。
丁寧君は自らが背負う見舞いの品に目をやり逡巡していたが、やがてこくんと頷いた。
私達が駆ける先、道の真ん中で取っ組み合いをしている様な人影が見えはじめた。
やがて私の耳にも喧騒が届く。
「治しなさいよッ!! あんたが! あんたがッッ!!」
「や、やだ…っ!」
妙齢の女性が鬼気迫る表情で、女の子に掴みかかっていた。押し倒さんばかりの勢いだ。
その右手は、相手の髪の毛が抜けそうなほどにキツく握り絞められている、様に見える。
あれはちょっと不味い…!
「やめ、止め、てっ…! くだ、さい…っ。」
その少女の髪は、鮮やかな黄色をしていた。
次回は27日予定です。




