381話 心だけを折る方法と守備隊の事情
「──うああああああ!?」ヒュウ~…↓↓
ダッ…
パシッ… ググッ…!!
「待っ──」
ボンッ!!!
「ああああああ!?!?」ヒュウー!↑↑
…。
えー…、ただいま、「人間打ち上げ花火(花火ではない)」が開催されている現場に来ております~…。
打ち上がっているのは、血気盛んな若き守備隊員の男性。尊大な態度はどこ吹く風で消え失せ、初めてのジェットコースターに泣き叫ぶ子どもみたいな有り様になっている。
ヒュウ~↓↓
ダッ… パシッ… ググッ…!!
「や、止め──」
ボンッ!!! ヒュウー!↑↑
打ち上げているのは、シリュウさん。
地面を蹴って飛び上がり、落ちてきた男性の胴体に足を伸ばし空中で優しくキャッチ。そして共に落下しながら謎に力を溜め込み、成人男性1人を、真上へと恐ろしい勢いで蹴り上げている…。
「凄い…っすね…。」
スタッ…
「ああ。3回やって、まだ気絶しないとはな。悪くない胆力だ。生意気な口を利くだけのことはある。」もっと高くするか…
「いや、私が言ってるのは、シリュウさんの身体能力と言うか、それを実行しちゃう容赦の無さと言うか…。」
「今さらだ、ろっ!」ダッ!
パシッ… ググッ…!!
「わ、悪──」
ボンッ!!!
「ああああ!?!?」ヒュウーー!!↑↑
スタッ…
「今、謝ろうとしてませんでした…?」
「これは模擬戦だろ。謝ってどうする。」降参しろ、降参…
「まあ、『目上を舐めるな、降参しても止めてやらんぞ』って宣ったのは、彼ですしね…。」
「そう言うことだ。」
私達が穏便に守備隊の事情を聞こうとしたところ、打ち上げられている彼が「実力も不確かな者達に説明する義理などない!」と茶々を入れてきたのだ。
隊長さんはシリュウさんの強さを察していたのか宥める側だったが、他の隊員達も疑心や不満が有りありの雰囲気を放っていた。関わるのは止めて町を出るべきか…?と思っていたら、シリュウさんが実力を示す為の模擬戦を提案し、即座に了承されて今に至る。
ダッ… パシッ… ググッ…!!
「う、あ…──」だら~ん…
ボンッ!!! ヒュウーーー!!↑↑
スタッ…
「ようやく気絶したな。」
「勝てない絶望で失神したの間違いでは…?」
「同じだろ。」
そうかな…。そうかも…。
「まあ、他の皆さんも完全に怯えきってますし、シリュウさんの力はこの上無く伝わってますね。」ちらり…
「ま、こいつらはもうどうでもいいがな。」
「面倒を掛けてすみません…。」要らん助言だったな…
「…。テイラの言ったことは、まあ、そうズレて、ねぇよっ、と!」ダッ…!
パシッ… グッ…! ──ブンッッ!!
「」ヒュウン~…→→ ドジャアッ!! ゴロゴロゴロ…! シ~ン…
空中足キャッチからの見事な横方向への蹴り出しが決まり、ボールの様に広場を跳ね転げていった若き隊員の身体は、そのままズタボロで打ち捨てられる。起き上がる気配はもちろん、無い。
「手当てしてやれ。そう大きな怪我はしてないはずだ。必要なら上級ポーションをくれてやる。」
「…、ご容赦、痛み入ります…。」
隊長さん達が呆然としている隊員達を正気に戻して、数人がかりでズタボロ君を運んでいく。
「あれで、『手加減』してたんだ…。」
「直接攻撃したらとっくに死んでるだろ。」
シリュウさん、本当、半端無い…。
──────────
「部下が、大変、失礼をしました…。」
再びの応接室。隊長さんがズタボロ君の非礼を詫びる。後ろの隊員達も素早くそれに倣った。
「要らん口上はいい。そっちが抱える問題を話せ。できる限りの援助はしてやる。」
「は…、はっ。」
どぎまぎしつつも、隊長さんは顔を上げ、真剣な雰囲気で語り出した。
「──この町の北東、隣国との境に有る森の中に、『帰らずの沼』と呼ばれる場所が存在します。
現在そこから、悪質な魔物が現れ、近隣の村々を襲っているのです。」
「…。悪質な魔物…? この辺りの沼に居るなら精々酸蛇とか毒蛙ぐらいだろ。守備隊らなら対処できそうだが…?」
「ええ。我々も、最初はそう思っておりました。ですが、其処らに居る通常の魔物とはあまりに掛け離れた姿と行動で、満足な討伐はできていないのが現状です。」
その魔物は、人1人を丸呑みにできるほど巨大な黒い蛇らしい。
そんな巨体にもかかわらず、現れる兆候も無く突然出現して襲い掛かってくるそう。近隣の村人が10人近く行方不明になり、討伐の為に町の守備隊が派遣されてその姿を確認したって流れなんだとか。
ある程度ダメージを受けるとこれまた突然姿を消す為、止めを刺せず、再び現れては更なる犠牲者を生み出す…。
「部下からも帰らぬ者が出ました。腕や足を食い千切られた者も居ります…。
そう言った事情から、あの森周辺の立ち入りを禁止し、怪しい者は捕縛していたのです。」
「…。」
「…す、すみません…、そんな大変な任務中に、私達がお邪魔してしまって…。」
「…、コウジラフ側から入って来られたのなら、仕方ないでしょう。彼の国にも通達はしていますが、沼の位置はキーバードにかなり寄っていますから。」
警戒の度合いが違うでしょう、と言って透明な笑みを浮かべる隊長さん。
「──話は分かった。
そいつの討伐に手を貸そう。」
シリュウさんが真剣な顔で協力を申し出た。
「…、お気持ちは有り難く。
しかし、これは我々の問題。あなた方は無関係なのですから、ここを離れるのが良いでしょう。」
「依頼金の心配か…? 別に何も要求はしない。安心しろ。」
「いえ、そうではないのです。
その大蛇は──『呪い』、との関係が考えられまして。通常の魔物討伐よりも遥かに危険度が高いのです。」
「〈呪怨〉…!?」
シリュウさんを見ると、無言で目を大きく見開いていた。と思ったらすぐさま右手を上着の内側に入れ、ごそごそと探りはじめる。黒の革袋の中から物を取り出そうとしているのだろう。
──カツン…!
やがて目当ての物を見つけたらしく、それをテーブルの上に置いた。硬質な澄んだ音が響く。
「こ、これは…!?」驚愕…!?
音の発生源は、光輝く手のひら大の「板」。
全体がオレンジ色の水晶で出来た「カード」の表面に、色とりどりの宝石が嵌め込まれ文字と装飾を形成している、一目見ただけで値打ち物と理解させられる「芸術品」。
おいそれと人目には晒せない、シリュウさん専用の「個人証明書」だ。
「俺は、冒険者ギルドの特級戦闘員『竜喰い』。
──〈呪怨〉が相手でも、焼き滅ぼせる。」
次回は15日予定です。




