380話 釈放と逆提案
「あ、シリュウさん。」
「…。おう。」
部屋の中でどっしりとソファに座っていたシリュウさんが、こちらを振りむく。
周りの人達はピリピリと緊張してる雰囲気だが、シリュウさんは無関心にどこ吹く風って感じだ。
ここは町の守備隊?の施設か何かに有る、応接室の様な所らしい。牢屋にやってきた兵士が突然私を外に出し、手枷を外して案内したのがここだった。
「無事だな? テイラ。」
「ええ、まあ。」
あともうちょっと遅かったら、牢屋のお友達が鉄オブジェになってたところだったけど。
兵士に勧められて、シリュウさんの隣に座る。
「──この度は、誠に失礼した…。」
席に着いた途端、対面に座る身なりのちゃんとした壮年男性が深々と頭を下げた。
少々汗をかいていて緊張した様子である。
「…。だから、気にするな。こっちにも非は有る。」
対するシリュウさんも、無関心な顔をしながらも声色は柔らかい。既に格の違いを見せつけでもしたんだろう。
どうやらシリュウさんが特級冒険者だと分かり、私共々釈放されたようだ。私と反対側には、シリュウさんが背負っていた蒸留酒の残りなんかが入ったリュックが無事な状態で置かれているし。
「高位冒険者ならば早々に証明すればいいものを──」
「止めんか! アウグスト!」
「しかし隊長──!」
「くどい!!」
頭を下げていた人──隊長さんらしい──の後ろに立っていた部下の1人が、不満を口にするが上司から即座の叱責を受ける。
「…。『特級冒険者』だと、あの場で伝えたし、ギルドカードを出す動きを止めさせたのは、お前じゃなかったか。」ギロリ…
「っ!!」ビクゥッ…!?
「ぶ、部下が、失礼した! どうか容赦をっ!」
隣のシリュウさんがかなりの圧を放った…。ふふ、居心地、悪~い…。
そっかぁ、あの若い部下の人、森で私達を拘束した中に居た奴か~…。
「…。まあ、ガキの戯れ言に聞こえる自覚はある。今さら責めはしねぇよ。」無表情に戻る…
「…っ。」ふるふる震え…
「か、寛大な、対応、有り難い…。」再度頭下げ…
ふむふむ、衝突回避ですな。
でも一応、次善策を提示しておこうかな?
「こちらの特級冒険者のシリュウさんは、食べることが大好きです。
美味しい食事や、大量の食料なんかを提供すれば相当、機嫌は良くなりますよ?」
「しょ、食事で──」
「要らん。
テイラ、余計なことを言うな。」
「でも、慰謝料代わりにある程度の施しを貰っても良いのでは?」
「国境は越えたんだ。解放してくれればそれでいい。とっととここを発つ。」
「え? せっかく大きめの町に来たのに、買い物もしないんです?」
「ああ。」
とっくの昔に生鮮食品は使いきっちゃってるし、生の野菜とか肉とか購入できる機会なのに…?
「…なんか有りました…?」耳に寄ってコソッと…
「…。面倒事の予感がするんだよ…。」小声…
そう言って、微妙に顔をしかめるシリュウさん。
「…もしかして、『勇者一行』が近くに居ます…??」
「…。いや…、多分近くには居ないと思うが…。」
「…なら、面倒事なら解決してあげて、謝礼代わりに──?」
「お前達、今『勇者一行』と言ったか…?」
「!」「っ!」
さっき叱責を受けていた若い兵士が、怪訝な声をあげた。
他の兵士達もピクンッと反応する。
「アウグスト。」たしなめの視線…!
「隊長。あの傍迷惑な勇者どもの仲間なら、高位冒険者であっても処罰すべきです…!」
「そうだ!」「あの憎き偽善者ども!」「忌々しいっ…!」
「み、皆、落ち着け…!」
兵士の皆さんが色めきだつ。何やら勇者達に相当な煮え湯を飲まされたらしい。隊長さんが宥めようとするもほとんど効果が無い。
シリュウさんを見ると、激しく眉を寄せている。勇者と同類扱いされてかなり不快なご様子。
私はスッと立ち上がって大きな動作でシリュウさんを指し示す。
「こちらのシリュウさんは、勇者と敵対したこともある、大の『光』嫌いです! 安心してください!」
「「「…、」」」
「…。おい、テイラ。何のつもりだ…?」ジロリと睨み見上げ…!
「私達は、なんだかんだ言っても国境を不法侵入した不届き者じゃないですか。
真面目に仕事をしてるらしいこの方々に迷惑を掛けた分、何かしら埋め合わせをするべきだと思うんですよ。
「…。言ってることは分かるが。」
「その上で、あの勇者どもがやからしたらしい被害を、シリュウさんがどうにかしたならば、それは凄まじい善行になります。ゆくゆくは、この国を安全に抜ける手助けをしてもらえるかもじゃないですか。」正義は我らに有り…
「…。」
シリュウさんは顔をしかめたままではあるが、否定の言葉は出てこない。一理有ると思ってくれた様だ。
「と言う訳で、隊長さん。
何があったのか、聞かせていただけませんか? もしかしたら力になれるかもしれません。」
次回は8日予定です。




