379話 私達の旅はここまで来た…
──拝啓、レイヤ様。
日に日に暖かくなる今日この頃、如何お過ごしでしょうか?
貴女と別れてからもうじき2年の月日が経ちそうです…。まさしく“光陰、矢の如し”ですね。
きっと、貴女は今日もとて今日とて、ノリと勢いで突き進んでいることでしょう。嵐を巻き起こして飛び回る、ツインテールロリっ子の姿が目に浮かぶ様です。
私の適当未来予想では、エルド島の魔導船を戦艦ハ○バードみたいな「飛行戦艦」に改造して、世界の制空権を掌握するヤバい計画を立てているレイヤさん。
大陸全てを敵に回すには、セル・ココ・エルドの国力は「下の下の下」なのでまずは人口増加──は無理か。優秀な人材を集めること、そして名産品などの国外輸出による外貨獲得に注力されるとよろしいかと具申いたします。
まあ、だからこそウォーターグリーン商会を立ち上げたのでしょうけど。
さて。
本日、この様に筆を取ったのは、他に何をするでもなくゆっくりとした時間が出来た為です。
このところ、色々駆け足でしたからね。たまにはこんな流れも悪くありません。
──手枷を嵌められ、まともな食事も出ず、青空が見えるべくもない「牢獄」に居ることを除けば、ですが──。
ははは…(プチ涙)
──────────
話は、遡ること数時間前。
数十日掛けてようやくたどり着いた国境でのこと。
キーバードとコウジラフの2国は互いに良好な関係を持ち、商人や冒険者をはじめとした多くの人が行き交うので国境整備がきちんと為されている。
故にキーバード国に入るには、真っ当に主要幹線道路上に有る関所を通ればいい。
一般人の場合は、だが。
勇者一行と対立した特級冒険者と〈呪怨〉持ちの冒険者くずれの2人組である私達が、すんなり通れる未来はさらさら見えず。「適当に森の中を歩いて入るぞ。」「ですね!」ってことで、国境となっている鬱蒼とした森に突撃したところ。
流石は真っ当な国家と言うべきか、私達の日頃の行いが悪いと言うべきか。
森の中に展開していた警備隊に見つかって、連行されました☆
いやぁ、異世界転生小説あるある展開キター! ってやつである。
はっはっはっ!! はぁ………。
(まあ、本来なら緩い拘束だけされて、留置所に連れていかれるはずだったんだけど…。)
相手は真っ当に職務を遂行する兵士さん、一方こちらは事情有りとは言え不法入国者。事を無駄に荒立てる必要はないとシリュウさんと2人、大人しく連行されるつもりだったのだが。
兵士さん達がシリュウさんに、魔法発動を封じる枷を嵌めたことで事態が急変してしまった。
シリュウさんが事情を説明し枷を拒否しても、子どもの戯言だと聞く耳を持ってもらえなかったのである。
当然、魔導具破壊の異常魔力持ちさんに触れた途端に、魔封の枷は破損。いっそ清々しいほどに綺麗な白煙が上がっていた。「抵抗するな。」と予備の枷を嵌められるも同じ様に壊れ、兵士達はにわかに殺気立ってしまった。
先に枷を嵌められていた私が「私を連行すれば彼も大人しく付いてきますから!」と説得したことで直接の武力衝突は避けられたのだが…。
大きな町まで連行されたところで、シリュウさんとは離れ離れに収監されてしまったのである。
(いざと言う時は呪い発動信号を出せば合流できるし、シリュウさんには暴れるのは止しましょう、とは言い含めたし…。まあ、なんとかなるはずだけど…。)
私が居るのは、雑居牢を言った佇まいの空間。明かり取りの窓と石壁、鍵付きの扉が有る鉄格子ってシンプルな構造。
見張りの兵士は2人。どちらも槍と短剣を装備してる。
私の装備である腕輪や髪留めは取り上げられていない。まあ、それをされたら普通に暴れてやるつもりだったけども。
(魔法が使えないなら女相手なんて楽勝とか思ってんだろうなぁ。)甘いことで…
この四角い木枠に両手を嵌め込むタイプの魔封の手枷は私には意味はない。だって、非魔種は魔法が使えないからね。
それに周りに見えない様に先ほど確認したが、腕輪からの「鉄」の展開・収納は何も問題も無く行えた。枷が作用するのは装備させられた私の腕──魔法制御の要たる「手」──だ。自ら魔法を発動する不思議存在には関係ないのである。まあ、こんな一般犯罪者用のノーマルな手枷だからこそかもしれないが。
(とは言え、問題は…。)ちらり…
ここには、私以外にも犯罪者が収監されている。ニヤニヤとしきりに私を見てくるチンピラ2人組と、部屋の隅で踞ってる若い男、合計3人。
視線が鬱陶しいのは2人組の方だが、危険なのは若い男の方だ。私がこっそり鉄収納を起動させた直後、こいつと目が合った。恐らく、魔力感知が高いのだろう。かなり汚れているが着ている服がちゃんとしてるし、バカやった貴族のお坊ちゃんと言ったところか。
(鉄を出せば、牢を破るのもこいつらを拘束しておくのも外の兵士の制圧も、だいたいどうにかなる。でも他の兵士や魔法が使える騎士がわんさか集まって来られたら、かなり面倒臭い。)
多勢に無勢だからなぁ。
相手に欠片も非は無いのに、〈鉄血〉で害しまくるのは流石にちょっとやりたくない。
となってくると、取れる選択肢は…、
穏便に釈放されるか、シリュウさんが我慢できずに暴れ出すのを待つか、くらい。
いや、チンピラが絡んできて私がキレるのが先か…?
(どうしたもんかな…。)
現状確認もこれ以上は無意味だし、脳内お手紙も飽きたし…。心の中でカラオケ大会かなぁ…。
(──“音楽は決して人から奪えない。”って、映画の主人公も言ってたしね。)
歌は人生の暗闇を照らす光である的な、有名な映画の台詞を思い出し脳内セレクションを確認していく。
雰囲気に合うのはハ○レンか…、いや尸○界編のブ○ーチかな、やっぱり! 「D-○ecnoLife」と「一○の花」! からの「マ○ペース」! 君たちに決めた! ~♪
次回は6月1日予定です。




