378話 番外編 幼き海賊女帝の野望
主人公サイドの展開がちょっとばかし定まらないので、ストック番外編を放出します。
番外編と言うよりは、もしかしたらパラレル的なIFストーリーかもですが…。
雷鳴轟く、大海原。
猛り狂う海面に、2つの巨大な物体が揺れ動いていた。
一方は、竜だ。
長い首に、海ガメの様なヒレの手足を持つ、全長数十メートルは有りそうな海竜である。
海の絶対王者たる最強生物は、目の前をチラチラと蠢く「餌」を食らわんと優雅に泳いでいた。
そこから少し離れた場所に佇む、もう一方。
キラキラと輝く緑色の巨大な繭と言った風貌のそれは、暴風を遮断する結界で覆われてた巨大な船だ。
大波に時折揺られながらも半ば空中に浮いているその船の甲板上では、輝く緑髪の美男美女が「歌」を歌っていた。
〔〔──硬く♪ 古く♪ 静謐に横たわる♪ 荘厳な大地の揺りかごよ──♪〕〕
〔〔〔──海よ、海よ、母なる海よ♪ その懐に我らを誘え──♪〕〕〕
〔〔〔〔〔〔──燃えろ♪ 渦巻け♪ 轟き狂え♪ 其は一切を焼き尽くし、吹き流す──♪〕〕〕〕〕〕
複数人の風エルフがそれぞれ輪になって合唱している。
壮大な歌が進むにつれ、彼女らの中心に硬質な水晶塊が生成されていく。
旋律重合による魔法詠唱の強化。
虚空に生み出された、人の胴体を優に上回る大きさの「弾丸」。橙色の光が灯る水晶柱が、キラリと稲光を反射する。
〔装填!!〕
彼女らを背に船首に立つ「船長」が合図を出し、その弾丸は「床」へと静かに沈み込む。
今は無き「世界樹」の幹と枝をふんだんに使用された船体は、それそのものが巨大な「アーティファクト」だ。
確かに物体であるはずのそれは、水晶の塊に対してのみ流体の如く振る舞い、対象を船の背骨たる太い竜骨内部へと運んでいく。
〔敵影捕捉、問題無し。船首回頭。〕
〔照準調整魔法式、良し。〕
〔海流掌握、目標点まで到達。〕
〔6重旋律同調、全工程完了。〕
各観測員からの報告を聞き、「ツインテールのちびっ子船長」が1つ頷く。
「彼女」は右手を銃の形にして、甲板から見て斜め下、海面下を進む「敵」に狙いを定める仕草をした。
「──目標、粉砕する。狙い撃つぜぇー!」ネライウツゼ! ネライウツゼ!
気分高揚の為に大陸言語でそんなことを宣う「風エルフの新たな族長」。
彼女は静かに息を吸うと、事前に取り決めてあったトリガーワードを叫ぶ。
「──『発射』ッ!!」
〔〔『水晶一射』。〕〕
〔〔〔『絶海』。〕〕〕
〔〔〔〔〔〔『火炎竜巻』。〕〕〕〕〕〕
船底から炎の竜巻を纏った弾丸が勢いよく飛び出し、海中にスッと赤と緑の輝線が描かれる。
割れた海の空廊内を超高速で直進する破滅の光は、狙い過たず対象へと飛来し──
ビシュッ──!
ボ────ガンッッッッ!!!!
頭部を粉砕。一切の抵抗を貫いて海底へと着弾し、凄まじい衝撃音を轟かせた。
周辺の暴風すら掻き乱し、暗雲すらも吹き飛ばす。
〔目標、頭部粉砕を確認…。〕我々エルフがドラゴンを…
〔作戦名…、『竜を破壊す、流星の煌めき』…? …成功。〕凄まじい竜殺し…
断末魔の悲鳴をあげる暇もなく、海の王者たる最強の魔物「海竜」はここに絶命した。
──────────
「あっはっはっはぁっ!! 完璧完璧! ざまぁ無いわね、海ドラゴン!!」雪辱を晴らせたー!!
首の先だけが無いドラゴンの肉体を、4つの浮遊刃で囲い捕らえた「船長」が大笑いしている。さながら、フィン・ファ○ネルでI○ィールドバリアを展開しているが如き光景。
セル・ココ・エルドが誇る「魔導船」はそんな船長を乗せ、メインマストに魔力幕を展開し風を受け、竜の亡骸を曳航していた。
ザバッ…
〔…、〕
〔お帰りなさい。ジョゼル守護隊長。〕
〔…、〕げっそり…
海から、ずぶ濡れの風エルフが魔法で浮き上がり甲板に降り立つ。「船長」がそちらを見ずに声を掛けるも、返答は無い。疲弊しきって声を出す余裕もない様子だ。
〔海竜の注意を引く為の『餌』役、ご苦労様でした。〕
〔…、〕
〔甲板が汚れるので、海水を弾き飛ばしてから上がってきてほしかったですが。〕お小言…
〔………、〕ますますげっそり…
彼に対して「船長」が辛辣なのはいつものことだと、風エルフ達は空気を読んで我関せずを貫いている。
〔なるほどなるほど。エルド最強の剣士様は、このぐらい余裕だと、もう一働きしたいって無言のアピールですね!〕働き者ー…
〔ま、待ちなさい、カレイヤル──〕
〔──『族長』と呼べ。〕真顔キレ…
風エルフ達は、一斉にその場から離れた。
「ウチマー! ゴー!」君に決めた…!
「はいぃ! 我が神ぃぃ!!」シュバッ!
船長の号令と共に、怪しげな狂信者がどこからともなく飛び出した。
四元素色の絵の具をぶち撒けた様なエキセントリックな髪色をした人間の女性は、一切の躊躇なくジョゼル守護隊長に襲いかかる。
〔や、止めなさい、ウチマー! 父親が娘を呼んだだけ──っ!?〕
「問答ぉお! 無用ォォオ!!」カゼイルカ!『突風体当たり』!! ウサギホノオ!『火の玉祭り』ィ!!
ウチマーと呼ばれた彼女が次々に不思議な姿の精霊を召喚し、攻撃を加えていく。
その猛攻に防戦一方の守護隊長は、空を飛んで後退せざるを得なかった。もちろん謎の精霊使いも追撃の為に空を飛ぶ。
「…、レイヤの嬢ちゃん。やり過ぎだぞ…。」
「あら、相変わらず『師匠』はアレの肩を持つわね。」
「アレなんて言うもんじゃねぇ。」
「私より弱い男は、その程度でいいのよ。」
カレイヤルの斜め後ろに立っていた、師匠呼びの男が苦言を呈する。しかし、レイヤは聞く耳を持たない。
「はあ…。エルフと言っても、ただの子どもだな…。
何か有った時に後悔するぞ?」
「アレも私も、この先の寿命は長いもの。大丈夫よ。」
「…、ま、いいけどよ。
ところで、あの海の主はどうすんだ? ギルドに売るって訳じゃねぇんだろ?」
義足を軸に体の向きを変えた「師匠」が、海竜の巨大な体を見つめて尋ねた。
「当然! 水属性た~っぷりのお肉は希望者に配るけど、あとは全て素材にするわ!」
「むん。剣や防具を作ったところで大量に余らねぇか?」
「ちっちっちっ。甘いわね、チレッグ師匠。武器防具の素材にするなんて言ってないわよ?」
「んん…? じゃあ何を作るんだ?」
レイヤはその幼い顔立ちをにんまりと歪ませ、得意気に言い放った。
「ドラゴンの骨と皮を使って、──“船を作る”!」ドン!!
「『船』だぁ!?」
「実際に造るのは、船の形をした人工島って言った方が近いかもね! つまり、“船の上に島を浮かべる”!」ドン!!
「はああ!?!?」
「大陸とエルド島の交易の中継地点を作るのよ! エンター島はお役御免になるわ!
人々が目にするのは、町と見紛うほどに巨大な豪華客船!! その気になれば港町1つ軽く落とせる頑強な戦艦都市! 海の覇権は握ったも同然よ!!」ギルドなんか目じゃないぜ!!
「…、」目をかっ開いて絶句…
異世界の知識に触れた風エルフの少女は、世界を変革する──。
「ふっふっふっ…。待ってなさい、テイラ。
──2年後に、(人工的に作った)シャ○ンディ諸島で!!」再会よ!
まさに、大航海時代!!
イマジナリー青髪さん
「大『後悔』時代になんない…?? 本当に大丈夫?」言動が厨二病過ぎるんですがそれは…
幼い族長エルフ娘
「大丈夫だ。問題無い。」キリッ!
「…それ、問題有るやつ…。」
「君達にとっては多分、『明日』の出来事だ…。
私の中の、大規模未来予測で出た最良の未来。だから、大丈夫ぅ!」
「…未来、変わらないと良いね…。」
「変わらない明日は嫌なんだっ!!」
「どっちだよ!?」SEEDなのかOOなのか!
「全部だ! 全部持ってこい!」
「それ、カ○オストロ…、ル○ン三世じゃん…。」
「よくぞ、見抜いた…。」渋い声色…
「何だっけそれ…?」思い出せない…
「…、…何だっけ??」あれ…?
「「あっはっはっはっ!!」」まあ、いっかー!
異世界は今日も平和です…。
次回は25日予定です。




