374話 新たなる旅路…とその門出を邪魔する者
「大変、お世話になりました。顧問さん、ダリアさん。」ぺこり…
魔鉄家の前まで来てくださった2人に改めて頭を下げる。
今日はシリュウさんがマボアの町を離れる日だ。もちろん、私はそれに付いていく。
衣食住が完璧に揃っていた町での暮らしを捨てることに不安は有るものの、〈呪怨〉持ちたる私がどっぷり定住するのも、それはそれで問題だ。
クラゲ頭やダブリラさん達みたいな〈呪怨〉を抑えられる戦力が離れた今、ある意味、ちょうど良い節目なのだろうと考えている。
ドワーフ的な土エルフであるイーサン顧問さんは、橙色のもじゃもじゃ髭を撫でつけながら好好爺と言った雰囲気で微笑み、高身長で筋肉隆々女エルフであるダリアさんは、左右異色の瞳を細めて腕を組んで、憮然としていた。
この凸凹感溢れる不思議な(元?)夫婦さんを見るのも、今日で最後だろう。
「ほっほっ、なんのなんの。こちらも有意義な時を過ごせました。感謝しておりますぞ。」
「シリュウの言うことをよく聞けよ?」
「もちろんですよ。食料と、住む所と、運搬労働力を提供してくれる相手に、逆らう訳ないじゃないですか~。」
「…、言葉自体はおかしなことしか言ってないんだけどね…。」
「事実じゃからなぁ…。」ほっほっほっ…
何せこの特級冒険者様さえ居れば、魔法の毛糸・大量の小麦に油に塩・「どこでも家」が使い放題。それに加えて、魔鉄人力車と言う御者付きの移動手段まで付いてくる。至れり尽くせりとはこのことだろう。
昔の1人浮浪者旅に比べたら、月とすっぽん、雲泥の差だ。人目を気にしなくて良い分、町中よりもリラックスできるまで有る。
もちろん、日々の調理に加えて、新作レシピの献上や暇潰しの娯楽提供なんかの労働は必要だが、リターンを考えれば破格のコストだろう。
なので、不安感は燻るものの、割りと楽観視できてはいる。
「悪いな、ミハ。連れていってやれなくて。」
「ううん。良いのよ。私は私の意思で来ただけだもの。夫も、しばらくはこっちで落ち着きなさいって言ってくれてるし。」手紙で…
「はは…、(もう慣れたしね…。)」
隣ではシリュウさんも、ミハさん、トニアルさんと別れの挨拶をしていた。
今回の出発に関して、元々大陸中央に住んでいたミハさんを、移動ついでに家まで送り届ける案も有ったのだが…。諸々の事情によりその話は無くなっていた。
私としては移動中、楽しくお喋りができる相手は欲しかったけれど、エルフとはいえ一般主婦であるミハさんに道無き道を行く冒険者旅は酷だし仕方ない。
「あの『馬鹿共』がキーバードに居座ってなけりゃな…。」
「もう、シリュウのせいじゃないでしょう?」
「そうは言っても、な。」
大陸中央への玄関口、安全な大規模一般道が唯一通る国、キーバード。そこに『面倒な輩』が滞在していると言う情報が有り、安全を期してそちらのルートを選択肢から除外している。
シリュウさんはそのことを気にしているらしい。
全く厄介な奴らだよね、『勇者様御一行』は。
シリュウさんにちょっかいを出して逃げた後も、こうして迷惑掛けてくるんだから。
「…、それより。気をつけてね、シリュウ?」
「敗北者どもは何もできんと思うが?」そもそも会うこともない…
「そっちじゃないわ。」多分…
「テイラは全力で保護するから安心しろ。」
「それはお願い。でも、そうじゃなくて…。」
「じゃあ、何だ?
──何か見えてるのか?」
「う~ん…、シリュウの周りに何かが具体的に見えるとかじゃないんだけど…。
こう…、とびっきり凄いこと…? 普通の生活では起こらない、びっくりすることが次々降り掛かって、シリュウが珍しく右往左往する…、そんな予感がするの。」なんとなくなんだけど…
超自然的第六感の持ち主ミハさんが、漠然とした予言を口にする。
それを聞いたシリュウさんが、何故かこちらをげんなりした顔で見てきた。
「…。異常存在に出会った以上のことが、連続する…?」ふざけろ…
お~ん? どう言う意味ですかねシリュウさ~ん? 私を見るその目、変な意思を感じるんですけど~?
まあ、いいや。
「頑張ってくださいシリュウさん。応援してます。
できる限り私も力になりますんで!」グッ!
「…。」無言げんなり…
「状況を悪い方向に引っ掻き回す、の間違いじゃないかい?」
「やだな~、呪具を持って襲撃してきたどこか土風エルフさんじゃあるまいし~。」
「おし! 今から模擬戦だ! 叩きのめしてやるよ!」拳ポキポキ…!
「お断りしま~す。出発直前に何非常識なこと言ってるんですか?」
「ダリア、恥ずかしいから止めてくれる?」
「…、」しゅん…
「ダリア、元気出して…。」背中撫で撫で…
娘さんからの辛辣トーク炸裂。脳筋お母さんは沈黙した。
ふっ…、正義の勝利である。存分に孫さん慰めてもらってください。
シリュウさんが魔鉄家を超常収納黒革袋を中に仕舞い、停車させてある人力車の方に向かう。
人力車はオーソドックスな2人掛けの2輪タイプ、その後ろには4輪の箱馬車とも言うべき荷車が連結されている。この中には、シリュウさんのマジックバッグの中では著しく劣化してしまう、生の野菜や酒類が満載されていた。
別に急ぐ旅でもないし、この食料達を消費しきるまではのんびり移動の予定なのだ。
いざ、出発の時である──。
「お気をつけて。」
「じゃあね、テイラちゃん。どうか元気で。」
「はい、トニアルさん。ミハさんも。またいつか、料理とか、色々教えてください。」
「うん、その時は──あら?」
挨拶の途中、ミハさんが突然、周りをキョロキョロと見渡す。
「? どうしました?」
「何か…、誰かが、呼んでる様な??」いつもの気のせいかしら…?
「闇魔法、要る…?」不安定な感じしないけど…?
「…。(特に何も…?)」
「ふむ、少し様子を見るかの。」
「…? ああ、あれじゃないかい?」
ダリアさんが遠くに目をやる。
そっちは町の方向? 誰か来るのかな?
「キャーイ…!」
「あれ、カミュさん?」
ナーヤ様の召喚竜であるカミュさんが飛んできていた。
はて? お別れの挨拶は済ませておいたが…、忘れ物でも有ったかな?? 多少温かくなったけど、魔鉄湯たんぽが恋しくなったとか…?
そんな私の予想とは裏腹に、ベ○ードラゴン的な見た目のカミュさんはそのままゆっくりと着地、姿勢を低くしたまま、おずおずとシリュウさんの目の前に歩を進める。そして、淡く緑色に光りだし、ナーヤ様の声が響いた。
『竜喰い殿、出発の折に失礼します…。
我が主、ローリカーナ様より願い出たき義が有ります。お話だけでも、聞いていただくことは、できませんでしょうか…。』平身低頭…
春の短編と題して小説を投稿しましたので、なんとなしに宣伝をば。
この「2度目失敗~」のパラレルワールド的な、魔法学校ものです。前後編合わせて、1万字ほど。
https://ncode.syosetu.com/n9358kf/
これには「春のチャレンジ2025」のタグを付けています。
公式の解説ではジャンルを問わず「学校」をテーマとした作品に付けるもの、となっているにも関わらず、まあ~、無視する方が多いこと多いこと。知らずに付けた作者さんも居るんでしょうけども、ねぇ…。
そんな「カテゴライズ間違いヤメテ。」ってプチ鬱憤を込めた結果出力されたのが、この短編になります。
…まあ、面白いかどうかはまた別問題ですので、刺激に飢えた、時間的余裕の有る方にでも読んでいただけたら幸いです…。
次回は27日予定です。




