372話 物事の価値基準は人に依る…
「あー、まあ、詫びつーか、何つーか。
そっちの黒竜の竜騎士さまと、あんたにな。」
家の中に招いて速攻、シリュウさんの前に立つ凡骨さん。私に頭を下げ、シリュウさんにも向き直って同じく謝罪をした。
それよりなんで私をドラゴンライダー扱いしてんだろ? この人。
「前に会った時、失礼なことを言った。すまんかった。」
「そんなことを言う為に、わざわざ来たのか?」
「まぁな。アリー…俺の仲間があんたにちゃんと謝罪しろってうるさいもんで。
こうして見れば、あんたがとんでもなく格上だってのは肌で分かるしな…。」ガキの立ち姿じゃねぇ…
かなり前、シリュウさんとダリアさんが超絶魔法大戦をした時に原因調査に来たのが、凡骨さんとその恋人アリーさんを含む冒険者パーティ達だった。魔力感知が鋭いアリーさんがシリュウさんを直視した結果、魔眼にダメージを受けて。それで凡骨さんがキレて喚き散らしながらシリュウさんに食って掛かった事件があった。
あれからまだ1年も経ってないのに、妙に懐かしいよね。
「ところで、なんでフミさんがあの人と一緒に…?」
まあ、彼にさしたる興味はないので、私は現状で一番気になるフーミーンさんと話をすることにしよう。
「竜喰いさんとは面識が有るからねー。アリーさんにお願いされたしー。なんか流れでー?」
「顔繋ぎしてくれたんですね。こんな雨の中、お疲れ様です…。」
「まあ、面白そうだったしー。失礼が有ったら大変なことになるしー…。
それよりなんか元気無いねー?」大丈夫ー?
「あー、ウルリが居なくなってなんか落ちこんじゃって。」
「えー、私よりよっぽど友達想いー──」私達なんてねー…
「まあ、ちょっとご飯いただいて回復したんで──」雨のせいもあるのかな~…
私達が横でお喋りするのにも構わず、凡骨さんは持ってきていた革袋を開き、中に有るものを掴んで出す。
「あと、これをあんたに。今日の朝、魔猪の森で獲った魔物肉だ。」
大きさは人の胴体くらいの、動物の形まんまの肉塊が出てきた…。お腹をかっ開き、頭と足先を切り落とした大きな狸?って感じ──
「ほんとは売って金にしようか──」
「! 穴熊か!!?!」大興奮!!
うわ、びっくりした。
シリュウさんがテンション爆上がりの歓声をあげた。
クリスマスプレゼントを貰った小学生レベルで目がキラッキラだ。
「お、おう。そうだ。」たじろぎ…
「『穴熊魔物』だねー。」珍しいよねー…
「そんなに良いお肉なんです?」
「ああ! 滅多に食えねぇ希少肉だ!」
「ここじゃ魔猪の肉がいくらでも有るだろ…?」そこまでか…?
「こいつの肉は甘くて美味い。魔猪肉とは別物のトロけ具合が最高のやつだ…!」
「臆病で警戒心が強くて、魔力感知能力も高いからねー。身体強化が凄くてすっごくすばしっこいから、相当な腕が無いと捕獲できないよー。」
私達もときたま捕まえて換金したなー、と呑気に的確な解説するフミさん。あまりに強引に捕獲すれば暴れて肉の質がダダ下がる、か。
なるほど、実力確かな上級冒険者が幸運が重なってようやくゲットできるレベルのお肉らしい。それはレアだ。
「あれ? それならシリュウさん、簡単に捕まえられるんじゃ?」身体強化異次元人…
「森に入る前から感知されて、巣穴の奥に引っ込みやがる。そもそも遭遇した試しが無い。」巣穴を潰して回るのは不毛だしな…
「なるほど…。」
野生の鋭敏な危機察知にはもちろん引っ掛かるよね超異常魔力存在は…。悲しいっすね…。
「本当に、貰っていいのか…?」念入れ確認…
「あ、ああ。好きにしてくれ。」
「恩にきる。」
そう言って肉を受け取ったシリュウさんはナイフを取り出し、サッと一口大に切り分け──
「」パクッ!
「生肉食い…!?」また…!?
「生が美味しいらしいよー?」魔物肉だから衛生面も平気ー…
んなバカな! また異世界の非常識食文化なの…!?
良い子の皆は真似しないでね…!? って、テレビ番組か!! ここに子どもなんざ居ないわ!(脳内ボケツッコミ!)
「」パアアアアアアア!
シリュウさんの顔がかつてないほどに綻ぶ。
花咲く笑みとはこう言うことを指すのだと、心から思える幸せ笑顔であった。
見た目だけなら完璧な子どもが居たな…。
あれ? 私が最年少で16──誕生季節の冬を超えたから17歳か──で肉体年齢的にはギリギリ子どもか?? この国の成人年齢は何歳からだっけ…?
まあ、前世の記憶で精神年齢的には上だし、自殺した「悪い娘」だから大丈夫かぁ~!
あっはっはっはっはぁっ!
はぁ…。
「詫びには足りたみたいで良かったよ…。」やっぱガキなのかこいつ…?
「詫び以上だ…。むしろこっちが礼をしたい。何か欲しいものは無いか? 俺が用意できるものなら譲るぞ。」
「いや、そう言われもな…。」
私が無駄にマイナス思考していた間に、シリュウさんがなにやらぐいぐいといっている。
とりあえず思考停止させて助け舟でも出すかな。
「んー、確かこの人、自分の武器の修理に魔法鉱石を探してたはずですよ。」
「いや、それはもう直った。大丈夫だ。」
「あれ? 赤熱、鉱石?か何かが足りないって話だったんじゃ?」
「それは無視して直したんだ。」
「赤熱鉱石か…。あれは持ってないな。
俺が使うと手の中で爆発して砕けるだけだし…。」
「なんだそりゃ…。」爆発…??
「なんか竜喰いさんらしいねー…。」
「あとは、火の魔石と、火属性魔蟻の甲殻でしたっけね?」
「そいつらを多めに使って何とかしてもらったんだ。」素材費用がかなり掛かったが…
「火の魔石なら、──これくらいか?」
「でか!?」
人の頭ぐらいはある、光を帯びた赤い石が出てきた…!
「おい!? なんつー大きさの魔石だよ!?」岩じゃねえか…!?
「ドラゴンの魔石だ。老いぼれだからかなりでかいのが出来てやがってな。」やるぞ?
「そんなもん貰える訳ねぇだろ…!?」ドラゴンの魔石とかマジかよ!?
「竜喰いさんだからねー…。」まあ、持ってるよねー…
何とか説得して魔石は仕舞ってもらったのだが、アナグマ肉の礼がしたいと言ってきかないシリュウさんはゴソゴソと魔法黒革袋の中を漁りつづけている。
「なら、──これか。」
今度は白色の岩が出てきた。
水晶みたいに透明でもなく、乳白色の岩の塊って感じ。大きさはさっきのよりデカい。
「何ですこれ?」
「金剛石だ。」
「「!?」」
それってこの世界でも「ダイヤモンド」を指す言葉じゃん!? じゃあこれはダイヤモンド原石…!? 何カラットだこれ!?
「宝石だねー…。」魔法は確かに関係ないけどー…
「こんなもん何に使えってんだよ…!?」
「割りと簡単に砕けるが、削れにくい石だからな。武器の表面に魔法付与したりするんだろ。有れば役立つんじゃねぇか?」
「こんなデケェの、使える訳ねぇだろ!?」簡単には砕けねぇよ!?
「もちろん運んでやるぞ? 鍛冶屋まで持っていく。」
「そんな話じゃねぇ!」
うーん、悲しき意見の食い違い。
端から見てる分にはコントっぽくて面白いけど。
思案気に首を捻るシリュウさんが、何やら閃いたのか更なる提案をする。
「別に武器にしなくても良いぞ? 恋人が居るんだろ、装飾品にして贈っても良い。」
「装飾品…?」
「ああ、中を磨けばかなり光る宝石だからな。女はかなり喜ぶらしいぞ。」
「マ、マジか…?」ちらりと女性陣を確認…
「まあー、嬉しいっちゃ嬉しいよねー。」多分ー…
「まあ、キラキラと綺麗でしょうね…。」ダイヤモンドのミラクル屈折はなぁ…
その後、受け取ることに決めたらしい凡骨さんは空いた革袋の中にダイヤモンド原石をそっと入れる。
アリーさんの喜ぶ姿を想像しているのか、ホクホクと満足そうな顔をしていたのだった。
うーん…、大丈夫かな…。まあ自由にしたらいいんだけども。
肉でダイヤを釣った男。
なお、恋人さんは白目を剥いて卒倒したとかしなかったとか。
次回は13日予定です。




