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371話 雨の憂鬱と癒しの甘味

何の変哲もない日常回です。



 ──ザアアアア!



 魔鉄家の固い屋根を本降りの雨が強く叩く。

 今朝は程よい気候だったのに、昼前からは一転して下り坂である。



「…知ってましたか、シリュウさん。あのウルリの名前、(あめ)瑠璃(るり)、水属性の宝石って書いて、雨瑠璃(ウルリ)と読むそうですよ。」ふわ~…

「…。」

洒落(しゃれ)た名前ですよね~。本人は水属性持ちを期待された名前だからって、微妙に嫌ってたみたいですけど~…。響きは可愛いらしくて良いですよね…。」

「…。」

「ここ数百年の間に、夢魔族の中では漢字(かんじ)…、いや骨文字(ほねもじ)か。それで名前を付ける文化と言うか、習慣と言うか、そんな流れになってたそうですよ…。

 ウカイさんは、まさかの迂回(遠回り)さんだそうで…。」

「…。そうだな。」知ってる…

「だからそれ以前に生まれてるダブリラさんには骨文字表記は無いんですって~…。

 私、てっきり、駄・武・利・羅(ダ・ブ・リ・ラ)みたいに書くのかと思ってました…。」駄目の『駄』と、武力の『武』、利益の『利』に、修羅の『羅』~…


「…。そうか…。」微妙な表情…


 雨が入らない程度に窓を閉めた家の中には、シリュウさんの特殊ランタン魔導具が放つ仄かな灯りが満ちていて。ほんわりリラックスムードだ。あ~…ふわふわする…。



「向こうも、今頃は雨ですかねぇ…。」ぼんやり…

「…。」

「奇妙奇天烈な魔法植物が跋扈(ばっこ)する、深き、樹海。未知の危険が、いっぱいなんでしょうねぇ…。」はぁ…

「…。」

「…ウルリ達、元気してますかね…。」ふぅ…

「…。なあ。」

「…はい?」

「落ち込み過ぎじゃねぇか…?」


 シリュウさんが何やら変な質問を投げかけてきた。


 そこで私は先からずっと、ぬべ~っと寝転がっていた鉄リクライニングシートから、体をのっそり起こしシリュウさんの方を見る。


 淡い光に照らされた顔には、こちらを見下す(さげす)みの色が見てとれた。



「ごめんなさい、興味の無い話ばっかりして。少し黙ってます…。」ジメジメマイナス思考…

「いや、喋ってもいいからその陰気(いんき)を止めろ…。」黙るのは『少し』なのかよ…

「陰の気の塊…。それが私の代名詞…。」どうにも止まりません…

「…。(面倒臭い状態になりやがったな…。)」はぁ…

「…面倒女でごめんなさい…。」

「…。心を読むな。いや、読めるなら改善しろよ…。」

「無理っぽいっす…。」すみません…

「…。駄目だなこれは…。」嘆息…


 シリュウさんの声色はいつも通りだ。多分、今の私の気分が下り坂で、余計なマイナスフィルターを掛けてしまっているのだろう…。

 なんでここまでダラダラモードになっているのか、自分で自分が分からない…。



「何か飯でも要るか? 作るぞ?」

「いや、別にお腹減ってないんで…。お手を(わずら)わせるのも、悪いですし…。」

「(既に十分面倒を掛けてるんだが…、)

 なら、蜂蜜玉くらいは口に入れとけ。」ゴソゴソ…

「でも、そんな勿体無い…。」蜂蜜は貴重品…

「ベフタスからいくらか貰ったから気にするな。」ほらよ…


 強く(すす)められたので渋々受け取り、ビー玉くらいの琥珀色の塊を口に含む。途端に広がる甘味の超波動…!


 あま~~~い…!!



「」ほわあ~~~…


「一気に顔色が良くなったな。」

「はい~~~…。やっぱり、これ、美味しいです~…。」


 あ~…、自覚が薄かっただけでお腹減ってたんだな、これ。

 ウルリが居なくなって寂しさやら心配やらでカロリーを無駄に消費してたのかもしれない。こう言う時は甘い物を食べるに限る。


 たっぷり十数分くらい掛けて濃縮蜂蜜を溶かしつつ、全身を(めぐ)る糖分で頭と体を再起動させた私。

 よっし、元気出てきた。



「ありがとうございますシリュウさん。ちょっと復活しました。」

「なら良かった。」

「お礼がてらにご飯作りましょうかね。」


 雨だし外に食べには行けないし…。紅蕾(ママ)さんのところで異世界モンブランか新作豚汁でも食べてお喋りしたら、かなり気がまぎれただろうになぁ。



「無理に作らなくても、出来合いのやつで良いだろ。」ゆっくりしてろ…

「いや、まあ気分転換にもなり──」

「──ん? 誰か来たな…。」


 お昼ご飯の話をしている最中、シリュウさんが首を傾げて家の扉の方を見た。



「え? 雨、普通に強く降ってますけど…?」

「──竜喰いさーん、お邪魔してもいいですかー!」


 あれ? この声は…?



「フミさん? こんにちはー…?」

「やっほー、こんにちはー!」


 風魔法使いのフーミーンさんで間違いないらしい。いったい何故…?



「竜喰いさんにお客さんなんだけどー、大丈夫かなー?」


 シリュウさんにアイコンタクトを送ると問題は無いと言う風に頷きが返ってきた。

 私はスタッと玄関まで歩いていき、その向こうを確認する。


 魔法か何かを傘みたいに展開しているのか雨が()れていく領域に立つのは、2人の人物。のほ~んとした雰囲気のフミさんと、背負い袋を持った男──



凡骨(ぼんこつ)さん??」何故…?

「…、(フギドだっつの。)」無言顔しかめ…


 この前、私と模擬戦をした「燃える炎剣」のリーダー、「(わめ)く凡骨」さんであった。


次回は4月6日予定です。

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