37話 揚げ物
作者は料理をしない人間なので、やはり料理描写がおかしいかもです。
決して参考にしないで下さい。
イラドって地域の出身ですかと尋ねたら、シリュウさんがキレた。
立ち止まってこちらを静かに睨んでる。
訳は分からんが、とにかく謝るしか無い!
「ごめんなさい! もう言いません! 美味しい揚げ物作るので許して下さい…!」
「──。」
しばらく私を見続けた後、何も言わずにシリュウさんは歩き出した。
私も、おっかなびっくり付いていく。
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木が疎らに生えた林みたいなところに着いて、シリュウさんは振り返らずに言った。
「薪になるものを拾ってくる。ここで準備してろ。」
「はいぃ…。」
シリュウさんが離れた後、椅子を出して座った。
ずっとピリピリしてたから、ようやく一息付けたよ…。
今は多分昼過ぎ。そこそこ歩いたし緊張し続けたから、凄く疲れた…。
しかし、何がダメだったんだろう…?
意図せずシリュウさんの逆鱗に触れたなら、本当に申し訳無いことをしたと思う。
でも、キレたタイミングは「イラド地方出身ですか?」のところだよね?
黒髪黒目だとか、食い意地が張ってるだとか、胡椒を実で食べるだとかなら、悪口に聞こえる可能性は理解できるけど…。
イラド地方は陸路での繋がりが薄く、隣接してる大陸東部の国々でも交流がほとんど無い。侵略国家として悪名が広がっている訳でも無いし、山の土地を巡ってどーたらって争いも無いはず。
ギルドでは海路を使って貿易してるらしいけど、トラブルの話は聞かない。イラドの香辛料がこの大陸でもそこそこ浸透してるから、上手く交流できているはず…。
気を悪くする要素無いよね…?
まあ、私の最新情報が1年前で止まってるから、その間に何かあったのかなぁ…。
あとは…、私みたいに故郷で辛いこといっぱい有ったのかな…。
だとしたら、思い出したくも無いよね…。
うん。とりあえずそう言うことだと思っておこう。
ならば! 故郷のことを忘れるような新しい料理で気分変えた方が良いな!
胡椒は使わない方向でいこう。肉が美味過ぎるから必要ないだろうし!
おっし! いっちょ美味しいカツでも揚げるか!
下味も無視して唐揚げもやるか!
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「お帰りなさい! あ、薪なかったですか? 日光でやれるかと思うので気にしないで下さい!」
元気に元気に! 美味しい料理を食べれるならなんでもいいさ~。
シリュウさんは変にびっくりしてたけど、頭をガシガシ掻いて「いや、薪はある。黒袋の中に入れた。」と言って、薪を取り出した。
カラッカラの凄く燃えそうな薪がたくさん出てきました。
その辺りの枝を入れてすぐにこんな乾燥したの…? ヤバい強さだな…。
シリュウさんも小声で「悪い…。」って言ってる。
「いえいえ。揚げ物には温度が大切ですから、火力高くなる薪は大歓迎ですよ! 早速試してみますね!」
シリュウさんの手で薪を燃やしてもらって、石と鉄で作ったかまどに火を入れる。
シリュウさんの油を揚げ物鍋に注いでもらって、かまどの上にセット。
流石に油が重くてアームじゃ持ち上がらなかった。いやぁ、面目無い…。
小麦粉、溶き卵、パン粉もそれぞれバットに準備完了。
あの固そうな卵を素手で割って、巨大ボウルとかき混ぜ棒で溶く姿は圧巻だったなぁ…。明らかに日常の光景じゃない。
パン粉はパンをおろし金で削って作った。
革袋から出してきたパンを見て干物かと思ったよね。フランスパンどころかラスク以上のガッサガサ。まあ多分、衣にはなるだろう…。水で湿気ってるよりはマシだ。ダメなら無しで唐揚げオンリー路線になるだけだ。
ドラゴン肉は試し分は切り分けたし、火の勢いもなかなか強い。
ではやっていきますか!
まずは確認…。
アームに付けた鉄の菜箸を、熱した油の中に入れる。うん。問題無さそう。
パン粉を少量、箸で摘まんで油に投入。
──パチパチパチ
いけそう、かな?
お試し用に小さく切ったお肉を箸で摘まんで…小麦粉、卵に浸けて…流石に箸での操作は難しいな…。パン粉をまぶして、良い感じかな?
「ではシリュウさん。試しに揚げていきます。薪の追加と空気の送り込みでの火力維持、お願いします!」
「ああ。」
シリュウさんには鉄のうちわを持たせてある。完全乾燥の薪は凄く燃えてるから多分要らないだろうけど。
緊急時には鉄を操作して密封すれば、空気を遮断できる。なんとかなるだろう。
お試しサイズのカツを油に入れる。
──ジュワジュワジュワ!
いけてる?なんとかいけてるよね?
半生でも大丈夫(?)な肉だし、焦げるよりはレアの方がマシなはず…。
箸でひっくり返しながら様子を観察する。
衣は良い感じになった…もうちょい? …よし、出そう。
油切り用のバットに乗せる。
ふむ? 見た目は大丈夫そう。アームの先を包丁にして切る。
中は…小さいからすぐ火が通ったっぽいな。
湯気の中から肉汁が溢れるのが見える。
「成功か?」
「はい。いけたっぽいです。持てるくらいまで冷めたら味見をして──」
「」ぱくっ、もぐもぐ…
っておい!
「ちょっ!? 火傷しますよ!? 大丈夫です!?」
「…。」もぐもぐ…
「下味の塩すら付けて無いのに…。」
「」もぐもぐ!!
小さい肉なのにえらく噛むね? 上手くできたってことかな?
私も残りの半分食べてみるか。
──ぱくっ
あっつい!!
「~っ!」はふはふっ!
やっぱりまだまだ熱いじゃん!? 結構ギリギリアウトだよ!
あっ、でも美味しいのは美味しい…。ちょっと衣が硬くなり過ぎかな? でも塩無しでこれなら及第点か。
「ふぅ…。なんとかできてますね。そちらはどうですか?」
「」もぐもぐ!こくこく!
まだ噛みながら頷いてるよ…。まあ、いいか。
「では、本格的に揚げていきますね。肉を揚げていくと油の温度が下がるんで、様子見ながら薪と送風お願いします。」
「」こくこく!
「まあ、いいか…。」
今度は、手のひら大の肉に塩を付けてっと…。
そこからはひたすらにドラゴンカツを揚げた。
揚げたそばからガンガン食べていくシリュウさん。
渡したフォークを嬉しそうに刺し、目を閉じて味わう。終始無言。焼き肉の時よりひどくなってない?
まあ、幸せそうだしいいか。
屋外で風があるとは言え、なかなかに暑い。
途中、木陰で休憩させて貰った。その間は揚げ方を覚えたシリュウさんが自ら調理していた。
自分で下拵えして、自分で薪追加して、自分で揚げて、そのまま食べる。
さながら永久機関の如く、である。
無言で私にもカツを乗せた皿を持ってきてくれた。
そう言えば食べてなかった。
いただきま~す。
美味しいぃ…。
ヤバい。火の通りが完璧なんでなかろうか。シリュウさん、熱の入り具合見えてるのかなぁ。下味の塩加減も抜群…。
これは胡椒やソース無しでも十分だな~。
藻塩もどきは試すか。
これも美味しいぃ…
ん? シリュウさんが急に側に…。ああ、かけて欲しいのね。パラパラ…と。
「うっめぇ…!」
ふむ。お気に召したようで何より。
結局、シリュウさんは2つ目の肉の塊を出して全部カツにするのだった…。
あの溶き卵がかなり無くなったね…。
私はずっとパン粉を削っていた。




