367話 専用武器は色々な人達に支えられ形を成す
ヒュンッ… コンッ! ポロッ… フワッ…
橙色の苦無が、緑光の軌跡を伴いながら空中を滑る様に泳ぐ。やがてそれは、浮遊している岩の盾板に当たり、バランスを崩して落下するが数瞬後には持ち直して再び空を飛ぶ。
私は離れた位置で金竹湯呑みのお茶をいただきながら、のんびりとそれを眺めていた。
紙飛行機と素焼きの陶芸平皿の戦い(?)って感じだ。ん~、非日常~…。
「なかなかファンタジーな光景ですね~…。」
「普通じゃない光景ってことかしら? 確かにその通りね。こんな剣舞なんて見る機会ないもの。」朗らかスマイル…
「個人専用の、あそこまで特殊な魔法武器なぞ滅多に見れぬからのぅ。」わくわく…
「ええ。ほんと、魔法って凄いですよね~…。」
私の隣で同じ様に苦無の性能試験を眺めているのは、ミハさんと顧問さん。実に麗らかなティータイムである。
「でも、ウルリちゃんのアレ、テイラちゃんが作ったって聞いたわよ?」
「実際に操作してるのはウルリの力ですし。苦無の材料だってほとんどシリュウさんから貰ってますからね~。私の力なんて微々たるものですよ。」
「ほっほっ…。(違うと思いますぞ…。)」お茶濁し…
「うーん…。(違うと思うわ~…。)」曖昧苦笑い…
今日は久々に、顧問さんのお屋敷に来ている。
目的は、ウルリの4本の苦無を収めるホルダーの作成依頼だ。
いや~、日中は草原でも温かいけど、巨大な壁と魔法の結界で覆われた町の中の快適度は段違い。紅蕾さんのお店辺りは壁の陰でまだひんやりするけど、日光が燦々と降り注ぐ場所では外套を着てると暑いくらいだ。なんだかんだ春が来てるよねぇ。
ヒュンッ… コンッ!
ヒュンッヒュンッ… コンッ…!
「…、ふぅ…、ふぅ…。」軽く息乱れ…
「あー、トニアル? そろそろ止めよっか?」
「ご、ごめん、なさい。ウルリ、さん…。」
「や、いいっていいって。」
飛行苦無と浮遊岩盾の軽い衝突実験を終えて、黒猫ウルリとキラキラ茶髪トニアルさんが戻ってきた。
「お疲れ様、ウルリ。」
「や~、私は全然平気。」
「頑張ったわねトニアル。」
「良い魔法操作だったぞ。」
「うん、ありがとう母さん、お爺ちゃん。」早速椅子座り…
トニアルさんは結構疲れているみたいだけど、ウルリは自然体だ。全く疲労を感じさせない。
「どうだった?」
「ん、だいぶ慣れた。飛ばすのはもう楽々かな。まだ同時に操作できるのは2つだけど。」
「まあ、4ついっぺんに、はかなり頭の演算力を使うだろうからね~。補助してくれる風魔鉄も極小だし、仕方ないか。」苦無を手に取り確認~…
「むしろ、あんな片手間であれだけ動けるのが凄いんだけど。」冷静に考えてコワい…
「そこは『風運び』とか言うウルリの魔法技術の高さっすよ。」適当返事…
「だから、絶対違うって…。」聞いてないな…
ふむふむ、あれだけ何度も衝突させても、刃の欠けはもちろん風魔鉄の刻印が外れることも無し、と。良い感じだね。
「『岩盾』操作、かなりこなれたのぅ。」
「お爺ちゃんとダーちゃんが鍛えてくれたから…。」照れ照れ…
「守る為の魔法って、素敵ね。」頭を撫でて褒める…
「う、うん…。で、でも、すぐバテちゃったし…。」体を反らして頭を逃がす…
「や、トニアルの魔法凄いよ? あの闇魔法の刻印? かなり厄介だし。」
「そ、そ、そうかな…。」真っ赤照れ照れ…
トニアルさんは夢魔の血を引いている為に、闇魔法が使える。彼の場合、岩の盾を生成する際に予め「止」の字を刻むことで、盾に向かってくる魔法を打ち消したり弱めたりできるのだ。闇属性の「減衰」効果である。
直撃前に苦無を減速させて衝撃を軽減、完全に触れたところで掛けられた風属性浮遊魔法を消去、苦無は役目を果たせず墜落するって仕組み。
まあ、地面に落ちきる前にウルリが魔力線を繋ぎ直してしまうから、完全迎撃とは言えないんだろうけど。
「トニアルさんの場合、総魔力量が難しいんですかね~。」
「や。そんなことないよ。」
「上級冒険者と魔法戦闘が可能と言うことですからな。トニアルの場合、1人で戦う必要も有りませぬし。」
「ああ、そっかそうですね。トニアルさんはソロの冒険者じゃなくて、ギルドの職員ですもんね。」
どうにも武装の設計思想の基準が、私や親友の冒険旅に寄っちゃうよね。
「なんならトニアルさんの盾で守られながら、ウルリが苦無と攻撃魔法を飛ばせば攻防一体、オールレンジであらゆる敵に対応できますね…。」うーん、ナイスゥ…
「確かに強力無比ですな。」たくましき
「ほへぇ~…。」想像力の外側~…
「テイラは何と戦ってるの…。」呆れた視線…
「自らの限界と、戦ってるよ…。」思考は無限大…
「…、人間、辞める気…?」本気で心配…
「ウルリ。人間の欲望はまだまだこんなもんじゃないよ?」真顔首傾げ…
「もうほんと…。これ以上は要らない…。」重い溜め息…
そんなこんなでバカ話をしていると、屋敷の中に1度引っ込んでいたゴウズさんが戻ってきた。
「イーサン顧問。こちら、仕様書と申請書です。確認を。」
「うむ。」
どうやら苦無ホルダーの設計図、いやこの場合は設計依頼書か、それをこの短時間で書き上げたらしい。
「相変わらず手際が良いのぅ。助かるわい。」
「仕事ですから。」
「ウルリ殿、ご確認くだされ。」
「や、見ても分かんないし、イーサンの旦那…、や、顧問、さんにお任せしま、す…。」
「ウルリさん。ご自身の命を預けることになる武器、その収納帯の話です。例え専門外だとしても、目は通しておいた方が良いかと存じます。」
「や、えと…。」
堅物秘書ゴウズさんの正論パンチに、たじたじのウルリ。ちょっと苦手意識が有るっぽい?
革製の巻き尺で素早く正確に採寸するゴウズさんの手際、凄かったからなぁ…。服の上から腕回り・太もも回りを一瞬で計測してウルリに触れる時間を極短にしていたプロ(?)の気迫が、怖かったんだろうか。
ここは気心の知れた人の出番だな!
ちらりと様子を窺うと、こちらを見返してきょとんとしていらっしゃった。
「トニアルさん、ウルリと一緒に確認してあげてくれませんか?」
「あ、うん。分かりました。
ウルリ姉、僕も見て良いかな?」
「えと…、ん。」
「うわぁ、ゴウズさん凄い書き込み…。」
「数字いっぱいで分かんない…。」
「ここが刃物の幅で、こっちが刃の傾きかな。で、これが──。」
「や、凄いね…。」
「──ウルリ姉の身長と腕の長さ──」
「そんなの何になる──?」
「多分、腕の動きで──滑らかに出し入れできる──」
「へぇー──!」数字でそこまで分かるの…
「腕に着けるか脚に着けるか──」
「4つ有るから──」
ふむ、2人の間でなかなか話が弾んでいる。やっぱりウルリのパートナーには、トニアルさんくらいの穏やかで優しい人が合うと思うなぁ私。
「彼女には、あれぐらい砕けた態度の方がよろしかった様ですね…。」接客態度としては問題ですが…
「ゴウズさんはちょっと柔軟性に欠けますからね~。もう少し気楽にいった方が良いですよ?」
「…、(貴女は、奇抜なことを為さり過ぎでは…。)」釈然としない…
「ほっほっ…。(水のごとき柔らかな思考のテイラ殿相手には、勝てぬだろうのぅ。)」微笑み…
「あらあら…。」にこにこ…
次回は9日予定です。




