363話 突撃! 隣の人生相談!
「ちょっとウルリどういうこと…!?」ダダッ!
「へ!?」
「蜜の竹林」に飛び込みざま問い詰める私を見て、びっくりしているウルリ。
見慣れた黒猫の耳を立てて、目を白黒させている。
驚いてるのは私なんだが!
「植物魔境攻略隊に、ウルリが参加するって聞いたんだけど!?」
そう! 近々行われる魔王の眷属討伐の為の遠征隊に、このウルリも参加するらしいのだ!!
私には寝耳に水!
「あー。ん、行くつもり。」
「いや、なんで!?」
「やー…、ダブリラ様に誘われた、から…?」
ほ~~う。なるほどなるほど?
「了解した。あの灰色夢魔のせいね。
──とっちめてやる。」ズズズ…!
「やああ!? 待って待って待って! 違う、違うからあ!!!?」必死に腕掴み…!
──────────
冷静に。お互い落ち着いたところで、改めての話し合いとなった。
表の店番は、呆れながらも背中を押してくれた薄着さんに任せ、店の奥にあるウルリの自室へと2人で入る。
殺風景な部屋だ。寝台の上の小型炬燵ユニットが少々異物感を放っているくらいで、生活に必要なものがまるで無い。
「あー、なんかごめん。
ちゃんとテイラにも言っておくべきだった。」まず謝罪…
「うん、まあ、そうしてほしかったけど。ここ最近は私も忙しくしてたし…。」
会う頻度はなかなか有ったけど、重要な話をがっつりできる様な時間は…。いや、そもそも私の余裕が無かったかな。
「とりあえず、ダブリラ様とか竜騎士の人と一緒に、私は大森林に行く。」
「なんでそんな決断したの…。」
「や、なんでって言われても…。そんなにダメなこと…?」
「だって。ウルリ、怪我人でしょ…?」
「え…? あ、左足のこと言ってる? もうとっくに治ってるじゃん…?」
「だって、あの時、私が魔力回路ごと…。」
「えー…。まだ気にしてたの…。」
「そりゃ気にするよ…。」
呪いのナメクジが左足に取り憑き、それを私の〈鉄血〉で諸ともに破壊した。
色々と良いことも有ったと本人は言うが、彼女の運命を相当に歪めたのは間違いない。
「や、もう普通に動けるし、問題なくない?」
「それは日常生活での話でしょ。今は依頼も休んで店番してて、冒険者だって活動してないし。」
「や、それはリグと距離をおきたかったからで…。テイラも知ってるでしょ…?」
「それはそうなんだけどさ…。」
ダメだ、この話題は堂々巡りで鬱々するだけだ。
もっと本質的な話をしよう。
「そもそも、なんでよりによって攻略隊? あの呪怨の化け物を探しに行くんだよ?」
「だからだよ。」
思っていたよりも真剣な表情をするウルリに、思わず姿勢を正してしまう。
「あの時の、軟体虫系のデカ魔物は竜喰いさんが倒した。でも、それとおんなじ奴が大森林に潜んでいるんでしょ? スラッグは、紅蕾とテイラも狙ってた。2度と手出ししてこない様に殲滅しなくちゃ。」
「──。」
それってつまり…、
「復讐、がしたい、ってこと…。」
「ん。」
「でも、ウルリは、あの眷属に攻撃されて、」
「ん。ダブリラ様も言ってた。ウルリを、化け物の仲間が見つけたら、『呪怨』を掛けてくるだろうって。眷属にしようとするだろうって。」
「やっぱり危険じゃない!」
「むしろ、潜んでる奴を、それで引っ張り出せるでしょ。」
「『囮』になる気…?」
何でもない様な顔であっけらかんと答えるウルリを、じっと見つめる。
「そこまでは考えてないよ。でも、何か役に立ちそうでしょ?」
「だからって…。」
「テイラは反対なの?」
「そりゃそうだよ!」
「なんで? 化け物の殲滅に、めちゃくちゃ熱心だったじゃん? ちょうど良くない?」
「それとこれとは別問題!!」
「…、」びくり…
いけない。
再びヒートアップしだした熱を冷ます為、目を閉じ、1度深呼吸をして間を作る。
怒っちゃダメ。私はウルリが心配なだけ。そこはちゃんと伝えねば。
「だって。だって、ウルリは、ママさんとこのお店が大好きな、普通の奴でしょ…。」
軍人として赴くフーガノン様や元々それが目的で派遣されてきたクラゲ頭・ダブリラさんとは、根本的に立場が違う。
わざわざ危険を冒す必要など無いはずだ。
「や、それは違くない…? 一応、戦闘上位者だし、半夢魔なんだけど…?」
「そんなの関係無い。」断言…
「ええ…。や、有るでしょ…?」困惑…
「無いよ。だって、ウルリってビビりって言うか、私と同じで、危ないものには近づきたくないってスタンスでしょ。」
いくら頼られたからと言って、今は命の危機が迫っている訳でも、お金が必要な訳でも無いはずだ。
受ける意味が、メリットが無い様に思える。
「1度、町から離れたいって言うか…。違うな。
今の私の…、力を試したい? かな?」
「腕試しがしたいってこと…? 魔王の眷属相手に?」
「あー、や、それもなんか違うな。」
うんうんと首を捻って悩むウルリ。どうやら彼女自身、うまく言葉にできないみたい。
「とりあえず、今の、ウルリの考えをちゃんと聞いておきたい。何でもいいから、話してくれると助かる。」
「あー、ん、分かった。」
そう言って、寝台の縁に座るウルリは視線をさ迷わせながら、少しずつ言葉を紡いでいく。
「私、自分で言うのもアレだけど、そこそこ強かったんだよ。冒険者、と言うか戦闘力的に。この町に1人で来た時はもう中級だったし。
風魔法も我流で使えたし、猫の力で1人でも生きていけた。」
「」コクリと頷く…
「夢魔で女だからって、このお店を紹介されて…。その時でも結構弱ってた紅蕾だったけど、なんか逆らっちゃいけない存在だって直感して、とりあえず大人しく寝床にはして…。
あれ、なんか何言いたいのか分かんなくなってきた…?」
「うん。大丈夫。続けて?」
「ん…。
最初は、ミール姉とか皆を見下してた。距離をおいて関わらない様にして…。なんか、つるんだら弱くなる気がして…。
でも、他人と、話して、気持ちをぶつけて、一緒にご飯を食べて…、そんな風に関わることの方が、『強い』ことなんだって、教えてもらって…。」
「うん。」
「それから、魔猫族でも認めてくれて、仲間になってくれって言ってくれる『赤の疾風』に出会えて…。魔法でまともに喧嘩できる奴とか、体術だけで猫の攻撃を捌く奴とか、あと、す、好きになった奴とか…、面白くて、楽しいことが増えて…。」
「うん…。」素敵なことだ…
「だから今回も。攻略隊で私を必要としてくれる夢魔が居て。なんか凄い人達もいっぱい居て。敵は倒さなきゃいけない呪いの化け物で。
ママとかテイラに貰ったものを、なんか繋ぎたいな、できることをやりたいな、って。
だから、私も。頑張ってみたいな、って思って、みた感じ…?」
言葉や動機はふわふわしている。
だけど、ウルリなりにきちんと考えて、今後のことを決めたらしい。
「──うん。分かった。
ウルリは、ちゃんと本気で戦いに臨む訳だね。」
「ん…。まあ、そう。」
ま、そうでないなら、ママさんやお店の仲間達がとっくに止めてた訳で。余計な心配だったかな。
「よしっ! そうと決まれば!
ウルリもきちんと強化しないとね!」
「へ!? や、いいよ!? 今のままで充分──」
「いーや! ダメだね。足の弱体化を補う、強化プランを確立せねばなるまい!」
「ちょっ、テイラにはいっぱい貰いまくってるし! これ以上は──」
「遠慮するの禁止! あ、この台詞、ア○アっぽいな。
ま! 私が勝手に贈るだけだから! 受け取り拒否は無効にさせてもらう!」俺のファンサービスを受け取れぇ…!
「ええ…。」困惑…
とは言え、ウルリは既に完成された上級斥候者。生半可な案では満足するまい。
「ん~、『風属性』『猫』『気配遮断』…。戦闘力ではなく、生存力…。いや、感知能力の強化…? 未来視、レーダー、エコーロケーション…。シリュウさんの魔鉄…、いやここはダリアさんに上級風魔法を…、」ぶつぶつぶつ…
「…、(こうなるから言いたくなかったんだな、私…。)」諦めの、どうにでもな~れ…
次回は9日予定です。




