359話 生姜焼きと逃していた奇跡
皆さま、あけおめです。
今年も、山も谷も無い拙作を、ゆるりとよろしくお願いします。
「と言う訳でこちらが新作料理!
『魔猪肉の黒泥漬けローゲル焼き』になりま~す!」
「…。ほう…。」しげしげ…
「…、(不味そうな見た目と名前だねぇ…。)」ただただ沈黙…
「キャー…。」変な匂いー…?
魔鉄家の中に、異世界お味噌の香ばしさと不思議魔猪肉の甘さが混じったとても良い匂いが広がっている。
ローゲルは異世界生姜もどきの名前だ。まあ、何故か根が中まで真っ赤っ赤で、生の状態から既に紅生姜チックな見た目をしているのだが。
そんな不思議植物ではあるが、風味そのものはかなり近く、ピリッと辛い爽やか薬味になる有り難いやつだ。
つまり今回の料理を日本風に言うならば、「なんちゃって味噌漬け生姜焼き」となる。
ベテラン主婦であるミハさん達のおかげで、着実に日本料理の再現度が上がっているよね。ひたすらに感謝だ。
まあ、豚肉じゃなくて魔猪肉だし、保存加工されてるのに半生だし、漬け込み時間は激短なのでほぼほぼ味噌ダレ状態なのだが…。
美味しければ問・題・無し! とは言え…、
「黒泥は、さっきも説明しましたが豆の漬け物みたいなものです。発酵食品…、独特の障気を纏っているであろう食べ物なので、お口に合わない可能性は有ります。」焼いたから滅菌できてるはずだけど~…
「ん? それがテイラがずっと食べたいって言ってた『ミソ』って調味料だったんだろ?」
「ええ。そうです。」
「なら問題なく美味いんじゃないか?」
「私は普通に美味しく感じますし、今のところお腹も壊してはいません。それに、他の人に食べてもらって問題ないと言ってもらってはいます。」
「ならいけるな。」
「いや、でも、色々と独特なやつなんで…。」予防線展開…
「大丈夫だろ。」
そう言って、シリュウさんはローゲル焼きをフォークで1口大に切り、黒泥ダレをたっぷり絡めて口へと運んだ。
「」もぐっ… もーぐもーぐ…
「…どうですか…?」恐々…
「」もぐもぐもぐ…
「…、(暴れたりはしねぇよな…。)」一応警戒…
「キャ…。」離れて警戒…
もぐもぐ…ごくんっ…
「──!!」ビシィッ!!
「良しっ!!」勝ったっ…!
力強い親指立ていただきました!!
これで異世界お味噌、堂々のラインナップが決定っ…!!
「これは。あれだな。不思議と。美味い。」もぐっ! ぱくっ! もぐっ!
「食うか食べるかどっちかにしろよ…。」呆れ…
「いやぁ、お口に合って良かったです。」追加作りますね~…
じっくりとそれでいてガツガツと食べ進めていくシリュウさん。
ふぅ~! これで一気に新作レシピが増える~!! 夢が広がるぜ~!
ダリアさんも少し食べてみたいとのことで、追加のついでに小皿に取り分けて提供した。
「…、お。思ったよりは悪くないね。」
「いけるだろ?」もぐもぐ!
「ああ。あれだね。擂り潰した木の実の練り物みたいな感じだ。」面白ぇ苦味だ…
「ああ。ただの豆のくせにやりやがる。」
「噛み応えはちと柔いけどね。」もの足りねぇ…
完全乾燥板肉をそのまま噛みちぎる蛮族に、合わせられる訳ないでしょうが…。
あ、カミュさんも要ります? え? 全力で首を横振りしてる…。要らない感じです? 今なら怒られない感じだけども…。まあ、無理強いはしませんのでご自由に~。
焼いた異世界味噌の匂いがダメっぽいかな…? まあ、竜によってはそう言うことも有るわな~。
「しっかし、この『ミソ』ってやつ、どっかで食った気がするんだがな…?」首を捻~る…?
「そりゃそうですよ。寝ぼけて起きてきた時のシリュウさんが食べた料理にも使ってましたから。味は知ってて当然です。」手掴み・犬食いで大変だったんですよ~…?
「いや、悪いがそん時の記憶は無い。」
「なら普通に、夢の中で感じた味を覚えてたパターンでは?」
「そんな薄い記憶じゃねぇんだがな…?」『ぱたーん』…?
「じゃあ、昔にこの国の村に寄った時にでも、いただいたんじゃないですか?」
黒泥はその見た目の悪さや状態から、この国の田舎地方でひっそりと作られていた発酵食品だ。町には出回っていないものとは言え、あちこち旅をしていたシリュウさんなら何かの拍子に食べた可能性は有るだろう。
「ん~…?」もぐもぐ…
「…? 何ですか…?」はて…?
じーっと私を見ながら咀嚼していたシリュウさんが突然、声をあげた。
「──お。
思い出した、あの時だ。」
「やっぱりどっかの村でご馳走になってました?」
「ああ。最近だがな。
テイラと会ったあの山だ。」
「え…??」
「ほら、顔がいかつい男が居ただろ。テイラの回復を待っている間にあいつに作らせた料理から、これに似た味がした。」
「…はい…?」
シリュウさんと会った時って言うと、スティちゃんの居た、あの山の作業村…。
そこに居た、顔がいかつい男って、山賊顔の…レイさん、のことだよね…??
「いや、シリュウさん? あの作業村にはこんなの無かったはずですよ…??」調理手伝いしてたよ、私…
「なんだったか、故郷の秘伝って言ってたか? 『お前にとって一番美味いと思うものを食わせろ』って言ったら、ミソを焼いたやつが出──」
な。なな、な。ななな、なんっ、なっ──!!?
「あの時、レイさん、異世界お味噌持ってたのーーー!?!?」がーーーんっ!?!?
なんたるっ…!! なんたる屈辱っ…!! あの時、あのまま交流していたら、味噌が手に入っていたと言うか…!!?
ってことは。
ってぇことはぁ…!!
「あのムカデ女ぁっ!! どこまで私の邪魔をしやがってたんだ、こん畜生ぉっ!!!」怒髪天っ!!
「おい! 何ぶちキレてんだい…!?」突然怖ぇよ!?
貴様の妨害行為、万死に値するっっ…!!
奴本体はシリュウさんに焼かれた。
なら、この怨みっ…! ぶつける先はぁっ…!!
「シリュウさん。私、決めました。」くっくっくっ…!
「な、何だ…?」
「『黒の姫』とか言うクソ元凶女を。断固っ!! 滅ぼぉすっ!!」ズゴゴゴッッ!!!
うおおおおっ!! 届け!! 私の鉄血ぃぃっ!! 憤怒の血槍を煮詰めて顔面シュートしてやんよぉぉっ!!! 鉄オブジェだあぁぁっ!!
「…。死んだな、タコ女…。」遠い目…
「どう言うことだい…。(黒の姫言ってんのに、シリュウが反応してねぇ…。)」戦慄…
「キャー…。」なにごとー…??
新年早々、食べ物の怨みで猛り狂う主人公。
今年の抱負は「魔王打倒」の模様。(作中時間は既に3月辺り)
どうなることやら?
次回は12日予定です。




