表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

357/406

357話 戦闘遊戯 ~分からせと害意を添えて~

予定より1日遅れて申し訳ないです。

「よう! やっと起きたねシリュウ。」

「ダリア…。」


 魔鉄家に飛び込んできたのは、知らせを聞いて即やって来た竜骨棍棒持ちの大女エルフ、ダリアである。

 シリュウの気の無い返事に、僅かに眉をひそめる。



「浮かない顔だねぇ。まさかまだ寝不足かい?」

「…。困惑してるだけだ…。」ちらり…


 視線の先には、水魔法の魚に腰掛ける水エルフと鉄の椅子に座るテイラがテーブルを挟んで対峙(たいじ)している。

 その上には、青い半透明の盤面と「(こま)」が乗っていた。



「ああ。あのテイラ(馬鹿)と泉の奴のショーギ対決か。」

「…。何だってそんなことになってんだ…。」しかも水の駒…?




 ──────────




 私は今、絶賛将棋の真っ最中。対戦相手はまさかのミャーマレース、泉の氏族の暴走癇癪(ぼうそうかんしゃく)お嬢様である。

 混乱気味のシリュウさんに、盤面を睨みながら軽くあらましを説明する。



「このエルフ(ひと)が私に、歌を歌うのを止めろ、って言うもんで。

 シリュウさんが起きるのを待ってた間、料理をしつつ合間にカラオケメドレーしてたんですよ。そしたらそれが耳障(みみざわ)りだったらしくて。

 それで代わりの暇潰しを仕方なしに考案したら、なんかこうなりました。」

「意味が分からん…。」話が飛び過ぎだろ…


 寝起きのシリュウさんは頭が回っていないらしい。もっと噛み砕いた解説が必要か。



「ほら、クラゲ──この人、アクアの下僕になって人間相手に逆らえなくなったでしょう? その鬱憤(うっぷん)を、盤上の遊戯で代わりに晴らしてらっしゃるんですよ。いじらしいですよね~。」

「…、私にここまで『(かせ)』を付けておいて、負け続けているのはどちら様でしょうね。」見下し半笑い…

「…。」言い返せず…


 今、勝負はギリギリ私の優勢で進んでいる。

 だが、既に大きな「ハンデ」を付けた上でこの(ザマ)なので何も言えない。具体的に言えば、向こうは王将と歩のみ。こちらは飛車・角を含めた全駒投入&特別ルールを採用

している。はっきり言って、私の将棋レベルが低過ぎて泣ける。


 そもそもの話。向こうが提案する遊びは水魔法が使える前提のものしかないし、私の鉄で作った将棋盤は『触りたくない』って我が(まま)を言ったから、こうなったんだけど…。まあ、水魔法の駒は硬いグミみたいで面白触感──



「ほら、そちらの番ですわよ。早くなさい。」


 よーし、悩んでも仕方ない! 私の陣地がかなり崩壊しかかっているが一旦無視! ここはガンガンいこうぜ!の精神で適当ゴー!ゴー!



「王手!」(かく)を突撃…!


 奴の王将の左右は、成らずにそのままにしている私の桂馬(けいま)が押さえている。

 これで終わりだぁ!



「馬鹿、ですのね。」即座に王将を前へ…

「…。」持ち駒を盾にしなかった…

「ふん…。(まあ、「王」を動かすのは少々(しゃく)ですけど。)」


 くっくっくっ! だがっ! この瞬間をっ! 待っていた!!



「ここでスペシャルルールを発動!」

「…?」何故この場面で…?

(トラップ)カードをオープン! フリップを上げろぉ! ツルピカ(いそのぉ)!!」ビシィ!

「…、」特級(どいつ)呪怨(こいつ)も…


 無表情のギルマスが、あらかじめ預けておいた鉄板(フリップ)を立てる。そこには将棋盤上の3ヵ所を指定する座標が刻まれていた。



「な…!?」その位置は!?

「スペシャルルールにより、指定した位置に有る駒を破壊する!」ガッ!


 私はテーブルの下に仕込んである鉄杭の板を掴み、上へとグイッと持ちあげる。

 魔獣鉄の天板を操作し空けた穴から3本の鉄杭が飛び出して、私の飛車と──奴の王将が貫かれた。



「『頭部(おう)』を破壊された者は失格となるっ!! これで貴様(きさま)の負けだぁ!!」粉砕!玉砕!大☆喝☆采!!


呪怨女(あなた)! 何故、私の陣地内に! しかも王の前を指定するなんて…!?」

「そこを指定してはいけない、なんてルール(取り決め)は交わしてませんからねぇ!」

「前3戦は中立地帯ばかりを指定して──!

 そもそも! ここまで譲歩して差し上げたのに、こんな恥知らずな真似っ! 人としての誇りは無いのっ!」

「ハッ!! クラゲ頭(あなた)に人間扱いなんてされましたっけぇ~?」勝てば良かろうなのだーっ!!

「このぉ…!!(怒)」呪怨の非人間がぁっ…!!


 いやぁ! 最大MAXのハンデを付けて負け続けて、かなり惨めな気持ちだったけど、最後にこいつの負け犬顔が見れたから良しとするかぁ!



「と言う訳でシリュウさん! 今から料理作りますね~! 何かリクエスト──これ食べたい!ってやつ有ります?」

「そうだな…。」

「何を言ってるの! こんな状態で終わる訳が──!!」ギャアギャア!!

「あれだな、卵の出汁巻きの気分だな。」ガチ無視…

「あー…、卵は流石に置いてませんね…。

 あ、クラゲ頭さん。敗者の罰ゲームの一環で、町まで取りに行ってきてくれません?」

「くらげあたま!? 誰のことですかっ!!!

 そもそもこんな卑怯なやり方で勝った負けたが決まる訳ないでしょうっ!! 敗者と言うなら10戦以上負け続けたあなたの方──!!」ギャアギャアアッ!!


 ぎゃあぎゃあうるさいなぁ。

 自業自得の転落人生(エルフ生)送っている自覚が足りない箱入り娘はこれだから…。


 身の程とやらを忘れているのはどちらなのか、思い出させてあげないといけないかな。



「なら、仕方ない。この後、大陸中央の方にお邪魔して、どこぞの泉の氏族の族長さんにお会いして、彼の髪を丸刈りにしないといけませんねぇ~。」シリュウさんの超速便、出向~!

「──何個持ってくれば良いんですっ!!」


 うむ。いっそ、鮮やかな身の(ひるがえ)し。

 そうそう、こう言うので良いんだよ。こう言うので。



「ん~。10個・20個…、他の人の迷惑にならない範囲で有るだけ全部欲しいです。」

「分かりましたわよっ!!!!」このクソ呪い女ァ!!


 敵意丸出しで、まあ。

 どれだけ憎くても、人の上に立つ立場の人が感情剥き出しなのはいただけない。100年近くも生きてこれとか、とんだお笑い草ですよ。

 ここは釘を刺しておくべきだな、うん。



「卵1個割るごとにお兄さんの髪を1房、ハサミで切り落としますから、気をつけて持って来てくださいね~!」行ってら~…

「~~~ッ!!」この世から消えろぉっ悪害虫ッ!


「お嬢様…!?」

「どうしました、ミャーマレース様っ!?」


「──!!」バビュンッッ!!


 戸惑う従者達の声すら無視して、キラキラの青い残像が光の速度で消えていったのだった。ちゃんちゃん。


 さぁて、私は今有る食材達で調理していきますかぁ! フルスロットルだー!


余裕の土風エルフ

「良い気味だねぇ…。」ちぃと同情しちまうが…。


内心冷やっ冷やのスキンヘッド

(この青髪娘、魔王貴族(ダブリラ)以上の厄物じゃねぇか…。泉の氏族様には、ギルドマスターとして、毅然とした態度を貫くしかねぇな。)懐のギルマス魔導書を静かに握りしめ…


完全起床・怪獣コハラペコン

(出汁巻き、楽しみだな…。)オールスルー…



次回は29日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ