356話 魔鉄家での華麗なる生活
魔鉄家に滞在しはじめてから、様々なことが有った。
一時的に起きた腹ペコ怪獣の下へ料理を届ける為、魔鉄小部屋の二重扉の開け閉めを全力シャトルランして疲れ果てたり。
様子を見に来たウカイさんがダブリラさんにウザ絡みされて、なんか精神汚染されそうになってたから脳天鉄ハリセンしたり。
ギルドの通達を無視してちょっかいを掛けてきたモブ冒険者を叩きのめしたり。
身体が鈍るからと、ダリアさん達に家の外に連れ出されてトレーニングさせられたり。
紅蕾さん達が新作豚汁メニューを持ってきてくれて、試食しながら感想を言い合ったり。
労いを込めて、アクアのスライムボディを数時間堪能したり…。
そんなこんなでさらに数週間が経ち、日中の気温に仄かな温もりを感じはじめた今日、ようやく。
シリュウさんが、完全起床した。
「…んん~~っ………! 良く……寝た………。」伸び~っ!からの脱力…
黒の薄着インナー姿の黒髪少年が、リクライニングシートの上で猫よろしく体を伸ばしていた。
「おはようございます、シリュウさん。こちらどうぞ。」
「…。おう…。色々、悪いな…。」
私が手渡した角兜をいそいそと受け取り、頭にしっかりと装着するシリュウさん。
まだ少し眠そうだが、なかなかすっきりした雰囲気に感じる。淡い光だけの薄暗い空間なので細かい表情が見えないけれども。まあ、声色に知性を感じるから大丈夫だろう、うん。
「全く…、呑気なものですね。もう少し特級冒険者として自覚を持ったらどうかしら。」フォンッ…
魔力精査の魔法を停止させた泉の氏族のお姫様が、嫌味を飛ばしてきた。ウェーブ掛かった自身の前髪を払い、ツーンとした表情でシリュウさんを見下ろしている。
「…。なんでお前が、ここに居る…?」
「ご挨拶ね。あなたの面倒を見る様に命令されたからに決まっているでしょう。」
「…。…?」命令…?
「っ。今の私はっ! 人族に指図されたら逆らえないのですよっ…!」
こちらを睨みながら「そこの呪怨女のせいでっ!」と小さく悪態を吐くクラゲ頭に、「ご自分の身から出た錆ですよ~。」と返しつつ、赤い革ジャケットを手に取ってシリュウさんへと渡す。
「本当に、迷惑掛けたな…。」すまん…
「いえいえ~。」
「迷惑を掛けられたのは私ですよっ!」
「シリュウさんには普段からお世話になりっぱなしでしたから、少しは恩返しができて良かったです。」
「そう、か…?」
「まあ、次に寝る時は、事前に準備が整ってからにしていただけると助かります。色々と。」真顔お願い…
「…。ああ…。」やらかしたな…
「っ…!! (こいつらっ…!)」ギリギリギリッ!
──────────
シリュウさんと一緒に要塞寝室を出る。
2~3ヶ節ほぼ寝たきりだったとは思えないほど、しっかりとした足取りだ。流石は、超ド級のびっくり人間だ。
しかし、寝ぼけて活動していた間のことはほとんど覚えてないらしく、その辺りの解説をしながら、魔鉄小部屋の二重扉を開いていく。
「手掴みとか犬食い状態で食事するわ、汚れた手を火魔法で燃やして綺麗にするわ、口を濯がずにすぐ横になるわで、まあ大変でしたよ~。」ガチャッ…
「悪かった…。(流石に獣じみてたな…。)」
「…、(野蛮で、実にお似合いですわよ。)」ツーン…
「──よう。お目覚めだな、竜喰い。」
部屋から出たところで、本日の滞在員その2が声を掛けてきた。
ご自慢の大剣の手入れをしており、赤い魔法線の入った刀身がピカピカに輝いて奴の姿を映している。
「火の玉のガキ…? なんでここに。」
「その呼び方、止めてくれや…。」
マボア冒険者ギルド支部のギルドマスターで、艶々ハゲ頭の大男、…あれ? 名前何だっけ…? まあ、いいや。ツルピカギルマスである。
「なんか対外的に事態を掌握してると見せる為にわざわざやって来てるんですよ。ご苦労なことですよね~。」
「嫌味な言い方だな、おい…。」
「何をしてくるか分からない大男と、1つ屋根の下で過ごさなくちゃならないこっちの身にもなってもらいたいですね~。」あーあ、デリカシーの無い上司はこれだから…
「…、」言い返せず沈黙…
「本当に。迷惑掛けたな、テイラ…。」
「あー…、いえ、これはシリュウさんに非は無いと──」
「そんなことはどうでもいいですから、続き、やりますわよ。」
クラゲ頭が私の方を見ることなくそう呟き、元居た定位置に戻る。
「あー、はいはい。分かりましたよ。
シリュウさん、お腹空いてるならそこにサーターアンダギーもどきが有るんで、それ食べててください。」いそいそ…
「いや、それは良いんだが…。」
クラゲ頭と鉄テーブルを挟んだ対面に座り、魔鉄湯たんぽを起動しなおして膝掛けを被せる。
「いったい何をしてるんだ…?」
「? 見て分かりません? 将棋ですよ?」
「ショーギィ?」そいつと??
次回は22日予定です。




