35話 ドラゴンと調味料
「晴れましたね! よし、そろそろ移動します──」
「先ずは朝飯だ。」
マジか。
「まだ食べるんですか…。むしろ、まだ入るんですか??」
「当然だろ。」
下手したら10キログラム、いや普通に超えてるか? とりあえず数十キロはある肉の塊を2つに、ドライアリガ数個と樽酒と板肉追加してるんだよ? 2日の間にこれだよ?
「まあ、良いですけどね~…。何作ります?」
──ドン!
マンガ肉3つ目、来ました!
相変わらずてらてらしてるね!
「全部、焼く──?」
「ああ、頼む。」
「…。あらほらさっさ~…。」
太陽は東からきっちり昇ってる。でも、ちょっと光量が不安かな。
鏡で焼くのは諦めて、蒸し器で…、
──あれ?
「シリュウさん、この肉って乾燥してないんですね? 最近獲ったんです?」
「いや、獲ったのは結構前だな。魔力多いからな。」
シリュウさんのマジックバッグって…魔力多いと乾燥に抵抗できるって言ってたけど…、
どれだけ魔力あるんだ…? おかしくない?
「そ、相当強い魔獣のお肉なんですねっ?」
「…。そうだな。そこそこか。」
「…ちなみに…。何の、お肉ですか…?」
「…。ドラゴン。」
はあ!?!?
「ドラゴン!? ドラゴンのお肉食べてたの!? 私も!?」
「美味い肉だし乾燥しないし丁度良いだろ?」
「軽っ!! 軽過ぎません!? ドラゴンって、あのエルフがかなり警戒する魔獣ですよね!? むしろ精霊とか神獣カテゴリーのヤバい奴ですよねぇ!?!?」
「この肉の奴は別にそんな大層なもんでもない。他の種族と念話する知能すら無い奴で、無駄に魔力持って暴れてたから討伐された馬鹿だ。問題ない。」
「えぇ~…。」
ドラゴンはこの大陸にそこそこ居る魔獣だ。でかいトカゲにコウモリの羽って言う、ファンタジーで良く見る姿まんま。
知能が高いので他種族が居ない僻地にいくつかの群れを作ってひっそり生きてるとかなんとか。
並みの魔法では傷すら付かず、その巨体はそれだけで必殺の武器になる。エルフの場合は得意の魔法や弓矢が効かず相性が悪い。標準的な個体でも超級冒険者が複数人で対抗する存在だ。
特級ポーションの材料の1つはドラゴンの血って噂があるくらい、強力な魔力を持っているとか。
つまりは討伐ないし捕獲しただけで億万長者になれるやつ。
「そんな貴重なお肉を、あんなにあっさり…。」
「何言ってんだ。下級のドラゴンなんざ肉になるくらいしか役に立たないだろ。有効活用だ。」
「シリュウさんにとっては牛や豚と同列ですか…。」
「ぶた? 猪を家畜にしたやつか? むしろそっちの方が珍しいだろ? 牛だって西の奴らが食べるくらいだし、この辺りの奴らは食べたことすら無いだろ。何言ってんだ?」
この世界は魔法で効率良く狩りが出来るせいなのか、猪を家畜化していなかった。
猪を育てるよりも狩った方が良いとか価値観バグるね。ここ10年20年で豚の畜産業が定着した国が出たとか言うレベル。一部のお貴族様とか大商人くらいしか食べれない幻の肉である。
普通に猪肉が流通して美味しいから一般人にはそれで良い、らしい。
そして牛はこの大陸の最西端の大国を中心に育てられてはいるが、それ以外にはほとんど流通していない。
大陸東部では鳥肉と猪肉が中心である。
猪を継続的に狩ることがこの辺りの冒険者の役割と言えるレベルである。
全く面白い世界に生まれたもんだよ。
「いえ、なんでも無いです。とりあえず日光足りないんで、ドラゴン…肉は蒸し器に入れましょう。」
「…。分かった。」
──────────
しっかし、お湯が凄い勢いで沸くなぁ…。
「熱の勢い強いか?」
「いえ、こんなもんかと。大丈夫です。せめて塩以外の調味料があれば味変出来るのに、って考えてたもので。」
「あじへん? 味を足すのか?」
「そうですね。同じ食材を同じ調理法で、だと飽きてくるでしょう? せめて上にかけるものを変化させればと思いまして。」
「面白そうだな。」
「まあ、私の手持ちは藻塩もどきしか無いんでシリュウさんの持ち物次第ですけど。」
「そうは言ってもな。大抵のものは干からびて使いものにならないぞ? 何が欲しいんだ?」
「ん~…。」
まず考えるべき調味料は、さしすせそ、だよね。
砂糖、塩、お酢、醤油、味噌。
醤油と味噌の文化は今のところ陰も形も無い。かなり欲しいけど、期待しても無駄だろう。
魚醤らしきものは見たことはある。が、個人的には醤油とは別物。液体だし、シリュウさんのバッグの中じゃどのみち無理。
塩はもちろんある。
砂糖もあるにはあるらしいけど、高級品なんだよね…。これまた流通が少ないそうな。
あとは、お酢。酢酸はアルコールから作られる。つまりお酒があるのだから、この世界でも存在してる。
まずはこの辺りがあれば、間違いなく幅は広がる。
「砂糖、とお酢。って持ってます?」
「砂糖とはまた珍しいもの知ってるな。」
「えっと、植物から出る甘い液を、塩みたいに煮詰めて結晶にしたやつで合ってます?」
「ああ、合ってるな。あるにはあるが、ここ最近気に入って食べててな、あまり使いたくは無い。と言うより残りがもう少ないな。」
「あ、無理めなら別に。お酢の方はどうです? お酒を発酵させた酸っぱい液体。お酒が入ってるなら、一緒に入ってたり?」
「あの味が刺激になるからそこそこ飲むが、酒の方が重要でな。蒸発するし今は入れてないな。」
「そうですか…。」
あとは…ソース、ケチャップ、マヨネーズ。
ウスターソースは、ウスター地方?とやらで生まれたとかで…壺の中に入れた複数の野菜が発酵して旨味の液体になったとか言うやつ。似たようなの有りそうなもんだけど…。説明難しい。
ケチャップは無理。トマトもどきをこの世界で見たことも聞いたこともない。
大本命、マヨネーズ。これもダメ。だって酢が無いし、卵も無いし、油も無い。
「いや、待てよ? シリュウさん、油って入ってます?」
「ああ。たまに飲んでる。」
「…飲み物扱いとは…。ストロングスタイルですね…。」
「水と違ってなかなか乾燥しないからな。重宝してる。肉にかけて食べるのも割りとするな。」
「なるほどなるほど。あ。なら、揚げ物ってよく食べます?」
「あげもの? なんだそれは?」
「えっと、大量の油を──…いえ、忘れて下さい。今は蒸し肉に使う調味料の話でした。」
「油の料理なんだな? ちゃんとどこかで話せよ?」
「ちゃ、ちゃんと作れるって確認してからお話しします!」
「絶対だぞ?」
圧が強い…。思い付きで料理の話題喋ったら、ダメだな。
結局、蒸し肉は油と塩でいただきました。いわゆるサラダ味ってやつになるか?
シリュウさんは新しい組み合わせだと感動してもりもり食べてた。
肉に油かけるのはするって言ってなかった?
え? ドラゴン肉に調味料を付けて食べるのが新鮮?
さいですか…。
この油も珍しい食材なのかな…、すごくコクがあって美味しい…。
原材料、怖くて聞けないや…。
草原「早く移動しろよ。」




