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348話 報酬と労い

「冒険者ギルドで外部との交渉役をしております、イーサンです。

 ようこそ、マボアへ。改めて歓迎しますぞ。」ほっほっ!

「…、おう。」


 屋敷の応接間、機嫌の良さそうな顧問さんの前には4人の冒険者が並んで座っていた。


 喚く凡骨こと赤熱剣士さんのパーティである。

 今日は彼らに報酬を支払う為に招いたのだ。



任務(クエスト)を見事に達成してくれた『燃える炎剣』の皆さんには、成功報酬も含め、300万ギルをお支払いしましょう。」


 脇に控えていたトニアルさんが前に出て硬貨が詰まった革袋を3つ、彼らの目の前に置いていく。


 1節(ひとつき)近く護衛任務で拘束したのだ。1人頭70万(ギル)は、上級(プロ)の1ヶ月分の収入として妥当なラインだろう。

 あと、運んでくれた異世界お味噌がとても有用だったので、私から頼んで報酬をアップしてもらっている。

 あんな横柄な村人を連れて移動してきたのだ。色々とストレスの溜まる日々だったに違いないから、その労いも込めている。


 あと、このパーティーはこのまま町に居着いて活動するそうなので、その働きへの期待も込めてさらに色を付けているそうだ。



「どうされますかな? 口座に預けるならこちらで手続きをしておきますが。」

「いえ、全てここで受け取ります。」

「分かりました。でしたら、ギルド硬貨ではなく紙幣の方がよろしいですかな? すぐに交換できますぞ。」

「いえ、それには及びません──」


 フギドとか言う名前の赤熱剣士さんは挨拶で言葉を発してから黙ったままだ。何やら疲れが溜まっている様子。

 代わりに話しているのはパーティの紅一点、アリーさん。どうやら彼女がパーティ内での経理担当らしい。



「──実は先日、リーダーのフギドの魔法剣が破損しまして。

 良ければ魔法鍛冶の職人に渡りをつけてほしいのです。硬貨(これ)をその支払いの一部に使いたいと考えています。」


 魔物素材や魔鉱石を使用した魔法武器と言うのは、常時魔力を通わすことでその存在強度を増すことができ、戦闘時の攻撃力上昇だけでなく普段の手入れがとても楽になると言う話を聞いたことがある。


 そんな折り紙付きの頑丈さを誇る、上級冒険者がメインウェポンに使っている炎の魔法剣が相当な()こぼれを起こしてしまっている状態らしい。


 なんでも、とてつもなく(・・・・・)魔法抵抗の高い(・・・・・・・)「金属」を、強引な身体強化で斬りつけた代償、とか…。



「あ、あのー…、それって私のせいですよね…?」軽く手を挙げ…


 直接お礼をしようと同席していただけだった私だが、流石に声をあげる。



「そうだ──いでぇっ!?」びくん!?

「いや! そんなことないです! 悪いのはこの馬鹿なのでっ!」超営業スマイル!


 恐ろしく早い肘打ちだった。

 アリーさんに脇腹を打たれ悶絶するリーダーを、他のお仲間さんまでもが呆れた目で見ている。



「で、でも、よぉ、アリー…、」

「でもも何も無いでしょ! あんたから喧嘩をふっ掛けておいてあの娘のせいにするなんて格好悪いにも程があるわよ!!」


 おっと、痴話喧嘩が始まってしまった。

 私としては美味しい調味料を運んでくれた時点でチャラなのだが…。



「いや、あの、私の鉄も反則じみてると言うか、ちょっと卑怯な物質なのでごめんなさ──」

「いえいえ! 良いのよ! じゃない、良いんですよ!?

 黒竜の(うろこ)なんて凄い物と戦わしてくれたのだもの、文句なんて無いわ!」


 あー…。ものすごい勘違いされてる…。


 あの戦いで竜の頭を再現したばかりに、私が「黒竜の竜騎士」と誤認されてるって噂が流れたらしいけど…。当事者までもがそう思ってるとは…。

 まあ、黒い竜の皮や骨を部分召喚して戦う騎士とかなんか格好いい──じゃなくて。竜騎士を抱えるこの国じゃ有り得そうなのが、またややこしい。


 とは言え、呪怨(のろい)の鉄だって説明する訳にもいかないし。

 真実は闇の中に仕舞っておくのが無難か。



「なあ、土エルフのおっさん。あんたなら魔剣(こいつ)、直せねぇか?」

「ほっほっ。すまんのぉ、儂は鍛冶の才能が無くてのぉ。」

「あ、悪りぃ…。」

「なんの、気になさらず。

 目利きはできますので、状態確認だけですが見ましょうかの?」

「頼む。」


 そっとテーブルの上に置かれ、静かに鞘から抜かれた赤熱剣が姿を現す。


 大きな剣だ。

 今は欠片も熱を発していない様だが、刀身は薄く赤い色に染まっている。

 その先端の刃先が、素人の私が遠目で見ても、(ノコギリ)の刃の様にギザギザになっているのが見て分かる。



「ふーむ。

 魔鉱石は赤熱鉱。それを基に、火属性の魔石と魔物素材を配合付与…。素材の方は、魔虫(むし)の外殻…、恐らく火魔蟻(ファイアーアント)のものを使っておりますかな。」

「すげえな、見ただけで魔蟻(まあり)って分かるのかよ。」

「これでも土エルフですからな。」ほっほっ!


 えー…、あの剣、ファイアーアントが素材に組み込まれてるの…。なんかちょっぴり苦手になった…。



「この町では火属性の魔猪が出ますからな、魔石は手に入るでしょう。魔蟻の外殻も取り寄せられます。

 しかし、赤熱鉱は大陸東部(ここ)では入手が少々難しい。

 打ち直せる鍛冶師は紹介できると思いますが、素材(もの)が有るかどうか…。」


 欠けた部分を補うのにベースとなる材料が足りないのか。赤熱鉱、って言うくらいだから、熱を発生させる鉱物だよね…?


 シリュウさんなら持ってそうだな? まあ、いつ起きるか分からないから()てにはしづらいか。

 あと、持ってそうな人は…、



「そうだ、顧問さん。ツルピカハ──んんっ! じゃなかった。えーと…名前…は…?」

「…、」無言の待ち…

「あー…と、ギルマス! そう! あのギルドマスターなら同じ炎の剣使いだから、素材持ってたりしませんかね…!?」早口誤魔化し…!

「…、ナッサン殿ですな。可能性は有りますな。話を通しておきましょう。」


 顧問さんの目がちょっと冷たいけど、大人な対応でスルーしてくれた。

 いやぁ、ギルマスの部下でもあるゴウズさんが居ない時で助かったなぁ~…! 無事に剣が直ると良いですね~…! はっはっはっはぁ~っ…!


(ねぇ、あの娘、もしかしてギルドマスターをハゲ呼ばわりした…?)戦慄…

(嘘だろ…。ナッサンってあのナッサンだろ…?)愕然…

(リーダーが目標にしてる、大先輩の炎剣士…。)遠い目…

(この女、どこまでヤベェんだよ…。)今さらちょっと恐怖…



次回は14日の月曜祝日予定です。

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