344話 面倒な延長戦
「大丈夫ですかぁ、テイラさん…?」
「ええまあ、はい。とりあえず、いってきます…。」とぼとぼ…
心配そうな顔の紅蕾さんに見送られながら、だだっ広い草原へと足を進める。
はあ…、まさか私がこちら側に立つことになるとは…。
ローリカーナに挑む人が少なければそうすることも有るかもなぁ、とは想定していたけど…。
渋々ながらもとりあえず、模擬戦闘延長ステージの場に立つ。
「んじゃ! 適当にやっちゃって~♪」ふよふよ~♪
「…。」
凡骨さんに話を聞いていたダブリラさんが、ニヤニヤ笑いながら解説席へと戻っていく。
こんの、ふざけ灰色夢魔め…。
終わったら顔面鉄ハリセンの刑にしてやろうか。
いや、鉄十字架に磔にして、誰も居ない夜の草原に放置する方が堪えるはずだな。うん、それでいこう。絶対やってやる…。
「全力でいくぞ…!」赤熱剣構え…!!
喚く凡骨さん、めちゃくちゃ戦意漲ってるし…。
相手するの、絶対大変じゃんこれ。どう対処するのが正解かな…。
前回は、近づいてきたところを不意討ちで拘束した様な気がするが…。
「死なない限りは回復させてあげるから頑張ってね~! もちろん回復するのは水氏族エルフだから安心して~♪」
「危険でしたらぁ、私達も介入しますのでぇ~。」
「!?」なんで私が…!?
「ダブリラさん、クラゲ頭が『今聞いた』みたいな顔してるんですけど…。」紅蕾さんの優しさが沁みる…
つーか、あいつなんでまだ観戦してるんだ。あれか、私が負けるところでも眺めて悦に浸る気か。
それはなんか癪だから、ゆるゆるやる気出すか…。
「対戦、よろしくです…。」軽く一礼…
「おう…!!」剣が輝きを増す…!
鉄槍を取り出し、すぐさま「投げ」の姿勢に移る。
相手は上級冒険者、そして恐らく炎系の魔法剣士。近接戦闘では速度・技術的にまずこちらが不利。向こうの基礎体力的に、呪鉄が激突しても多少のダメージで済むはず。中距離牽制が重要。
「らぁっ!」フィンッ!
振りかぶられた赤熱剣から赤い斬撃が飛んできた。
私が投げつけた鉄槍と正面からぶつかり、
──フォン!
霧散無効化。
ただこちらの槍もバランスを崩して手前に落下──
「」ダッ! ダッ!
「!」
斬撃の陰から凡骨さんが素早く近づいてきていた。
シリュウさんほどは速くないはずだが、前後に緩急を付けているのか読み切りづらい挙動で間隔が掴みにくい。
あれはアメフト漫画のロ○オドライブ…!?
ええい! 投げ槍連打!
収納から次々に短槍を取り出し、投げつける。
しかし、陽炎の様に姿がブレて全て躱されてしまう。
接近不可避。
赤い残像目掛けて両手で構えた鉄槍を突き入──
カァンッ!!!
「!?」
鉄槍が弾かれた。強烈な衝撃に、手から離れてふっ飛んでいる。
剣の腹で側面から叩かれたらしい。
強化された動体視力でかろうじて、追撃モーションに移っている凡骨さんを捉える。
短槍を2本出現、痺れる両手に力いっぱい握り相手に向けた。
ギャリッ!!
「」ダダッ!
短槍を軽くいなしながら、凡骨さんが脇を過ぎていく。
あの速度を活かして一撃離脱戦法?
命の危機が無いことは分かっていたが、それでも高速で迫る凶器に冷や汗が流れる。
──まずはあの剣を封じて、攻撃力を下げよう。
そう決心し、短槍をくっ付けて長槍にし両手で構える。
落ち着け…。集中、集中…。
まだ強化視力で追えてはいる。どうにか合わせられる…。
凡骨さんが再び高速陽炎走りで迫る。私は黙って身構える。
鉄槍を弾こうと、刀身が触れる直前──ここ!
ギュイッ…!
「っ!!」バッ!
「!?」スカッ…
ちっ! 逃げられた!
鉄槍を形態変化させて剣に巻き付かせようとしたが、後ろに跳んで回避された。
あそこまで攻撃モーションに入ったのになんでキャンセルできるんだ。
「…、」ジリッ…
険しい顔でこちらを睨む凡骨さん。
もの凄く警戒されている模様。
とりあえず、蛇の様にぐねりととぐろを巻いた鉄槍を真っ直ぐに戻す。
このまま距離を取るなら、いっそバネ弓でも連射するか? でも、流れ矢が観客の方まで行くかもと考えると微妙なんだよなぁ。
「あんた、かなり多才だな。ムカつくぐれぇに豊かな技だぜ…。こちとらこの炎剣1本でやってるってのによ。」
「…お褒めに与り、どーも。」
なんか知らんが話かけてきた。
とりあえず返事をしておく。
「そのやたらと魔法が通らねぇ金属。身体強化の腕輪に、妙な気配の頭装備。金持ち貴族のお嬢様ってか?」
「違いますけど?」
「だろうな。」
「私は、特級冒険者に拾われただけの、見習い未満の浮浪者ですよ。」
「それは前にも聞いた。信じられない嘘話だ。」
「嘘は言ってません。」
「そうかよ。」
険しい顔のまま謎の問答をする赤熱剣士。いったい何の時間、これ?
「お喋りがしたいなら、模擬戦を終わらしてからにしてくれません?」
「そうしたいところだがな。あんたの金属に捕まったら最後、死ぬまでボコられる気しかしねぇんだよ。」ジリジリ…
警戒しまくって様子見してるってこと?
「そっちから喧嘩吹っ掛けておいて、随分と意気地が無いこと言いますね。彼女さんに愛想尽かされて、捨てられますよ?」
「っ…! うるせぇ…!」
軽い挑発を入れるが、襲い掛かっては来なかった。
大恥掛かせて晒し者にしたら、多少気分は晴れるだろうけど後が怖いし、かと言ってこっちも痛い思いをしてまでわざと負ける義理も無いし。
どう決着つけたら一番マシだろう…? 面倒臭い…。
次回は、祝日月曜の16日になるかと思います。




