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342話 花美人の手ほどき

「死ねぇ! 『ドラゴンクロー』!!」ゴウウ!


「初手! 炎の(こぶし)! 人を飲み込めるほどの火炎が、紅蕾(コウライ)さんに迫りますっ!」拡声実況…!


 模擬戦闘なのに死ねとか言うんじゃない、このおバカ貴族。誰の為にこんな場を(もう)けてやってると思ってるんだ。

 紅蕾(ママ)さんの実力を知らなかったら、即刻失格にしてお開きにしてるところである。



「あらあらぁ~、」


 対する草花人間さんは、車椅子の上で微笑んだまま座っていた。と思っていたら、彼女の数歩先の地面が突如盛り上がる。

 黒い光沢の棒が凄まじい勢いで数本伸び、炎の塊の行く手を阻んだ。



 ジュッ…! ボシュッ! ボッ…! ボバッ… ボッ…



「地面から『槍』が何本も生え、火炎塊を完全に防ぎました!

 これこそ、金属の強さを持つ『竹』! 彼女の代名詞『金竹(かなたけ)』であります!」


 金竹に激突した炎は縦に割れ、散らされ、急速に縮み消えていった。

 当然、紅蕾さんは無傷である。



「植物でありながら、硬く、燃えず! なのに、しなやか! 魔法の力で(タケノコ)から一瞬で成長し、攻防一体の環境を作り上げる! 槍を持った歩兵部隊を操るに等しい彼女の能力は、正しく上級冒険者に相応しいでしょう! 紅蕾(コウライ)選手は金竹を生み出した『(はは)』だからこそ、誰よりも十全に扱うことができますっ!」熱実況…!

「恥ずかしいですわぁ~。」


 言葉とは裏腹に照れてなさそうな、のほほんとした声が返ってくる。



「ええい! 卑怯な闇魔法を使うただの夢魔ではないか!」


 憤慨した高慢女貴族の怒声が響く。

 苦虫を噛み潰した様な顔のローリカーナが、草花人間(アルラウネ)的美女を睨み付けていた。



「植物を操るのは、闇魔法では有りません。花美人族固有の能力に、水魔法・土魔法を併用した技となっています。ローリカーナ選手、事実無根の誹謗(ひぼう)(つつし)む様に。」実況注意…


夢魔族(むま)の力ならば闇魔法ではないか!」


「違います。

 仮に闇魔法であったとしても、人の肉体・精神を害する目的で使っている訳では有りません。なので、何の問題も有りません。」


「ええい!どうでもよい!

『ドラゴンクロー』!! 『ドラゴンクロー』!!」


 鈍色の竹林を燃やし尽くそうとでも言うのか、ローリカーナが炎の手(だ○もんじ)を連射する。

 が、幹は当然、枝や葉にすら引火せず、ただただ無意味に散っていく。



「──『ドラゴンクロー』!!」ダダダッ!


 焦れたのか、今度は正面を避けて回り込みながら炎の手を打ち込みはじめた。

 紅蕾さんに攻撃が通る射線だが、再び地中から伸びた竹林に防がれる。



「駄目ですよぉ~? 草原で無闇に、火を放っちゃあ~。」ほや~…


「『ドラゴンクロー』ォ!!」無視!


「あらぁ~…。」聞いてくださらないわ~…



「ローリカーナ、紅蕾さんの背後へと周り込み急接近していきます! 直接戦闘を仕掛ける気でしょうか!?」

「短絡的だね~♪ (ぶき)も持たずに(コウ)ちゃんに近づくなんて♪」

「やはり近づいたところで金竹で迎撃するのでしょうか!?」

「うーん、どうだろ? アレを成長させるの結構魔力使うから紅ちゃんも避けたいみたいだよ~?」

「紅蕾選手、(あや)うしか!?」


 ローリカーナが炎の手を2つ先行させつつ、追随する様に駆けていく。

 車椅子を操作して反転した紅蕾さんだが、彼女の背後は金竹林で塞がっていて逃げ場が無い。そして、竹が新たに伸びてくる気配も無い。



「今の私はぁ、常に土から栄養を取る必要はぁ、ないんですよぉ~。」


 植木鉢車椅子から降り、自らの足で立ち上がった紅蕾さん。

 そう! 今の彼女はもう寝たきり病弱さんではないのだ…!

 まあ、元々栄養不足が原因だっただけで、足を悪くしてた訳じゃないしね。


 しかし、すぐ目の前に迫る炎塊をどうする──



「」バシュシュッ!

「!?」なんだと!?


「炎の拳が突如、霧散! 何が起こったのでしょう!?」


 急制動を掛けたローリカーナ。

 対する紅蕾さんは、気品溢れる姿勢で真っ直ぐに立っている。

 そんな彼女の明るい緑色のドレススカートから、2匹の「(ヘビ)」の様な物がゆらゆらと伸びていた。



「服の裾から、緑色の何かが伸びています。あれはいったい何でしょう!?」

「植物の『(つた)』だね~。それを(ムチ)の様に振るったんだよ。」

「なるほど、蔦の鞭ですか! しかし、あんな炎の塊に触れて蔦は燃えないんでしょうか?」

「紅ちゃんが水魔力を(まと)わしてるから大丈夫だよ~。」

「な、なるほど…!」


「それに、乾燥に強い粘液を分泌したりもできるし、植物の組織なら超速再生も可能だから問題無いんじゃない~?」

「流石は上級冒険者ですね…! 凄まじい対応力です!」

「…、そんな戦いができる様な状態じゃなかったのにねぇ。体調が戻ってることの方が驚きなんだけどなぁ…。」飽きて放置するんじゃなかった…


「確かに、病み上がりの彼女がどこまで戦えるのかは未知数です。果たして、体力・魔力は持つのでしょうか…!」

「うわぁ、白々しい実況~…。」



「ハッ! やはり異形の種族だな! 気色の悪い姿だ!」嘲笑…

「うふふ、これが私なのでぇ。」

「ええい、へらへらと笑うな! あの端女(はしため)と同類だな、キサマも!」

「…、」糸目真顔…


 あら? 紅蕾さんの雰囲気が少し変わった?

 何か気分を害する悪口でも言われたのだろうか? 良いですよ~! 存分にやっちゃってください!



「少~し、お仕置きしましょうか~。」バシュッバシュッ!

「──『ドラゴンクロー』! むっ!?」


 先端が霞んで見えないほどの速度で植物の鞭が振るわれた。

 ローリカーナはこれを右手に纏った炎で迎撃したみたいだが、その隙に、奴の足元に地面から一気に伸びてきた植物が絡みつく。



「こんなもの──…!?」がくっ!


 植物を振り切ろうと(もが)いた奴の動きが不自然に止まる。その間に急成長した植物が全身を覆っていった。



「それは~、吸魔草の一種、『血吸い(いばら)』ですぅ~。」

「ぐぅ…!?」


「魔力の吸収速度が異常ですっ! 違法な攻撃ですわ! 即刻、失格退場させなさいっ!!」


 おバカ侍女(セコンド)が遠くから怒声を響かせる。自前の拡声魔法なのかやたらうるさい。

 あんなこと言ってますけど、そこんとこどうなんですか解説員(ダブリラ)さん?



「んー、別に違法でもなんでも無いよ~?

 魔力吸収能力を強化はしてるけど、安全も考慮してるみたいだし~。」


「はいぃ~、(とげ)は全て丸く改良しておきましたのでぇ。お体を傷つけることはしませんよ~。」


「そんなこ──」プツリ…

『あの声は遮断しておいたから、続きやっちゃってー。』


 風魔法使い(フミ)さんからの遠隔通話に感謝を述べて、実況に戻る。


 ローリカーナを埋めつくした荊の塊から、鮮やかな赤が生まれた。

 血ではない。花だ。


 薔薇に似た、真っ赤な大輪の花が3つ咲いた。



「がっ…、あっ………っ…!」

貴女(あなた)が今日生み出した『灰』が、荊達(このこたち)を強く元気にしていますぅ。降参なされた方がよろしいですよぉ~?」

「誰、がっ…! こんっ、こんなっ、もの、ぉっ…!」グググッ!

「あらぁ~…。」


「真っ赤な花が全て散り、荊本体も茶色く(しお)れました!」

「吸収限界になっちゃったねぇ。」足掻く~♪


「ふっ、ふはっ…! これが、私の力だ──」

「では、追加しますねぇ。」

「なぁっ…!?」


 無情な告知と共に、奴の体に更なる蔦が巻き付いてきた。最初のものよりも細いが、数は倍近い。

 再び緑色に埋もれたローリカーナから、苦悶(くもん)の声が漏れる。



「ぬおっ…!? これっ、これしきぃっ…! う…あっ…!? お…!? ぐぅ…うぅ…!」


 10や20では利かない数の花が咲く──咲き乱れていく。

 散っていく側から新たな赤が生まれ追加されていく。


 その後、顔面蒼白でも数分もの間、抵抗し続けたローリカーナ。

 なんとか実況は続けたが、やがて紅蕾さんが戸惑いはじめ最終的に拘束を解いてしまった。



「………み…見た…かっ………ぁ…、」ばたんっ…!

「あらぁ…。」困惑蔦キャッチ…


 か細い声で勝ち誇った様な顔をしたが、そのまま倒れ込む。

 ぐったりとしたまま動かない。終わったな。



「勝者、花美人・紅蕾選手! 女貴族の超絶執念を見事、打ち滅ぼしました!

 本日の催しはこれにて終了します! 皆様、盛大な拍手を!」


──うおおお!

──パチパチパチパチ!



 う~ん…。絵面だけなら、悪の女幹部アルラウネと、敗北した戦隊女レッドって感じだったなぁ…。

 ローリカーナ(レッド)の見た目をもう少し悪役(ヒール)っぽくする工夫が欲しいかったな。うん。


 まあ、次なんて無いけど。


次回は9月1日予定です。


マズい台風が近づいていますので、皆様お気をつけて。

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