341話 連勝連勝とスペシャルゲスト
「『ドラゴンクロー』ォ!!」ゴオウ!
「おらあっ!」ブンッ!
5本指の炎の塊を、振るわれた金属斧が薙ぎ消した。
巨大な斧を両手でとは言え軽々と振り回すのは、これまたデカい男。いつぞやの訓練でダブリラさんに操られていた冒険者だ。
斧は魔導具ではないらしいが、魔力を籠めることで強度を高めることはできるみたい。その威容と共にローリカーナに迫る。
「もらった──」ブンッ!
「『ドラゴンクロー』ォ!」攻撃あるのみ!
「ちっ!」反転防御…!
「『ドラゴンクロー』! 『ドラゴンクロー』!!」連打!
「──なっ!? ぐあああ"あ"ア”ア”ッ!?」
「そこまで! 勝者ローリカーナ!」
巨漢冒険者が火だるまになり崩れ落ちたところで試合終了。すぐさま消火・治療を施す。
「どいつもこいつも歯応えが無いなっ! もっと私を楽しませろ!」
退屈で世界征服に乗り出した魔王か己は。
そんな台詞を吐くのは、もっと圧倒的な勝利をしてからにしてほしいものだ。
お昼からは、野次馬的に集まっていた下級・中級冒険者達がお祭り気分で参加してしてくれたのだが。
結果は、ローリカーナの連戦連勝。故に完全に調子に乗っている。
奴自身も剣なんかの武器で攻撃を時たま受けはするものの、炎の手を連続で繰り出せばそれだけで全員が撃沈した。
前半の試合で奴のバトルスタイルは十分に見せたはずなのだが。むしろ、それで消耗していると舐めてかかった節は有るのかもしれない。
途中から見に来てノリだけで参加した人も居たんだろうけど…。
冷静に考えたら分かることではあるが、奴の異常性の最たるものは、すぐに傷が癒えることではなく「魔力の回復能力」にある。
最大MPは20くらいしかないのに、どれだけ消費してもターン終了時にはプラス20されて満タン回復している様なもの。
自己再生も、拳火球も連発し放題なのだ。
最大値が低いからまだ良いものの、はっきり言ってシステム外挙動級の能力である。ふざけやがって。
服はまた煤けてきてるし、再生能力ではカバーできない疲労なんかも溜まっている感じはあるが、驚異的な継戦能力だ。
全く、なんであんな面倒な奴が、そんな能力を授かったのやら。いや、そんな能力だったからこんな性格なった、が正しいのか?
「そんな彼女に魔導具をあげたの、鉄っちでしょ~?」
「私は提案を出しただけですよ。」
「提案が原因じゃ~ん♪ 変な所で間抜けだよねぇ、鉄っち♪」
「だからこうして、相手してあげてるんじゃないですか。」
「うんうん、不気味に変人だよね~♪
で? 次の対戦相手はどうするの~?」
現状、奴に戦いを挑む人間が居なくなった。血の気が多い野郎どもはさっきで打ち止めらしい。
協力してくれている上級冒険者達からはこれ以上の参戦を断られている。
二刀流の魔法剣士ゼギンさんは、実力差が有り過ぎて侍魂に反する…、とか何とか。
フミさんは実況支援を続けてもらう必要があるし、本人も特段乗り気ではない。
ウルリはパーティー活動休止中だし、お店番でそもそもここには来てないし。
他のメンバーの方は、単騎では奴と戦いたくないって感想の人が多い。
探索で活躍する、斥候や魔物使いでは戦いづらいし、弓使いや盾使いでは模擬戦闘が成立しない。ローリカーナ側が手加減しないしね。
なので、このまま一般参加者が居ないなら、ここで模擬戦闘大会は終了となる。
の、だが。
「ふっふっふっふっ…。」悪い笑み…
私の知り合いには、もう1人、上級冒険者が居るのだ。
それも、とびっきり強く、美しい人が。
「ではここで! スペシャルゲストの登場と参りましょうー!」
「ん? 特別な、お客~?」
「彼女はっ! マボアの町の伝説的存在! 魔猪から町を救う為にその身を削り、病に伏せっていた上級冒険者!!」バッ!
そう叫びながら、傍らの空間に向かって腕を向ける。
すると、そこに薄ぼんやりと鎮座していた塊が、石に絵の具を塗りたくっていくかの様に「色」が付いていき、姿を現す。
「──『金竹の花美人』! 紅蕾さんの復活だぁーー!!」
「あらぁ~、恥ずかしいわぁ~…。」のほほん…
植木鉢車椅子に座って、ほや~っと微笑む紅蕾さん。
その見た目の特徴からか、周囲から静かなどよめきが起こる。
「…、鉄っち? …何あれ?」
「説明しましょう! 彼女は花美人族! 植物の力を持った夢魔の一派です! その力を使い、その辺の雑草の様に気配を消して、ずっと待機してもらってましたっ! 彼女が本日最後の挑戦者ですっ!」
「いや、紅ちゃんが、そこで闇魔法使いながら『日向ぼっこ』してるのは知ってたから。」
ダブリラさんが珍しく、小声の真面目トーンで詰め寄ってきた。
「そうじゃなくて、顔。
──紅ちゃんの顔のシミ、なんで消えてるの?」
そう、今、紅蕾さんは素顔を晒している。
最近はずっと身に付けていた黒のヴェールも長手袋もなく、緑色の肌と艶の有る緑髪、そして頭の上の大きな赤い五分咲きの蕾、それらが全てが惜し気もなく開放され、光を浴びていた。
緊張なのか戸惑いの色は多少有るが、朗らかですっきりとした笑顔がとても良い。
「シリュウさんが寝てるんで、こっそりチョチョっとやりました。」小声で胸を張る…
「シミは呪印でこそないけど、呪いで変質したもの。ポーションとか回復魔法程度で弄れる訳が無いでしょ。」
「そこを、アクアに頑張ってもらったんですよ。」
「…、えぇ…。」ゲンナリ困惑…
そう、いつぞや考えていた紅蕾さん復活計画。
それを、注意してくるだろう保護者が居ない今、再始動させたのだ。
まあ、アクアがやってくれたのは、顔や腕に出てた茶色の斑点を消して、肉体表面での光合成が可能になるところまでだが。
紅蕾さんの他人の感情を食べる夢魔的な性質は消失したままなので、実は完全復活にはほど遠い。流石にそこは精霊の回復魔法でも管轄外らしく、どうしようもなかった。
もちろん、この状態になっただけで十分だけど。
普段より多少深く寝ているアクアを鉄巻き貝の上から撫でて、再度心の中でお礼を言っておく。
「…、まぁ~~~ったまた、おかしなことを、した訳ね…。」もういいや…
ダブリラさんが何かを諦めたので内緒話を打ち切り、預けていた魔鉄湯たんぽを受け取りに紅蕾さんに近づく。
「寒い中、長時間お待たせしました。」
「いえ~、久しぶりにお外で日光浴ができましたわぁ~。
若い子達の戦う姿もたくさん見れましたしぃ、ありがとうございますぅ~。」
「いえいえ。体調は本当に大丈夫ですか?」
「はい~。それじゃあ、行ってきますねぇ~。」カラカラカラ…
車椅子の車輪が手も触れずに回りだし、試合会場の草原を進んでいく。
「ハッ! 植物の亜じ──んぐぅっ!
ちっ!
たかが植物女なんぞ! 焼いてくれるわ!」
契約で禁じられた亜人の単語を言いかけて苦しんでいるバカが、無駄に吠えている。
まあ、ほのおタイプにくさタイプで挑むのは愚かなことなので、侮る気持ちが湧くのも無理はない。
だがここは、ポ○モンの世界ではなく、剣と魔法の世界。
タイプ相性や種族値で全てが決まるシステムではないのだ。
「お手柔らかにお願いしますわぁ~。」ふわ~…
「それでは、花美人・紅蕾、対! 炎の野犬・ローリカーナ! 試合、開始ぃ!!」
「私が野犬だとお!?」憤慨っ!!
次回は25日予定です。




