34話 提案
けっこう悩んでみたが答えは出ない。
シリュウさんのパーティ、かぁ。
でもいい加減に着地点は見つけよう。
「シリュウさん。提案があるんですけど、よろしいです?」
「…。ああ。」
「しばらく、パーティ候補で、とりあえず活動してみるってのはどうでしょう…?」
「…。候補? 意味あるか? それ。」
「いや、まあ、私がシリュウさんの願望に応えられなくて、結局要らない子になる未来を考慮したと言うか…。それに近くに居て、シリュウさんに不運が増える可能性もあるかもですし?」
「後ろ向きが過ぎるな…。」
「まあ、だから、お試し期間と言うか見極め時間と言う感じです…。それにほらシリュウさんは良くても他のパーティの方に拒絶されたり──」
「他の奴は居ない。俺1人のパーティだ。」
「あ、そうですか。ワンマンパーティの冒険者とか凄いですね。お1人で色々できるってことですもんね。」
「…。」
渋い顔してる。触れたくない話題か。
「あの、こちらからお願いが、1つ。」
「何だ?」
「えっと、シリュウさんが私に触れるのは無しでお願いしたいです。物理的な意味で…。」
「…。額に手刀は止めろ、ってことか?」
「あ、それは大丈夫です。私がバカなことして叱る行為でしょう? むしろウェルカムです!」
「…。…まあいい。じゃあ何がダメなんだ?」
「まあ、つまり性的な意味での、話で。」
「だからしないって言ってるだろ…。」
「いや、そうなんですけどね? 一応私の危険ポイントって言うか、呪いが強く反応する話なんでお願いしておきたく…。この〈呪怨〉が初めて発動した時が、男性に色々された時でして…。その時のことを思い出すようなことをされると、条件満たして強制発動しちゃうんで…。」
「…。自分を傷付ける奴に認定される、ってことか。具体的には?」
「具体的…、酒場で『酒の酌ぐらいしろよ!』とか言いながら胸触られた時は、相手の両腕が針山になりましたね~。」
「…。」
「あとは、山賊達に捕まって、違法奴隷で売られる前に味見をしようと触れられた時は、結局山賊全員が鉄オブジェ──人型の鉄塊になりましたね。」
「…。」
「私の〈呪怨〉って血を鉄にする時に、体内魔力流を一緒に破壊してるらしくて、回復を無効化するんですよ。まあ、『自分の形』ってやつが壊れて修復がかなり難しくなるんです。だから、シリュウさんにも、気を付けて貰う方が良いでしょう?」
「…。改めて聞くと恐ろしいな…。
安心しろ、俺はそんなことより食事が重要だ。」
よっぽどだなぁ…この人。
「いえ、それは痛感したんで分かってます。…ぶっちゃけると、シリュウさん、呪いが半分反応してる可能性があるので伝えておかないとなぁ…、とも思ってまして。」
「…。何もした記憶無いが?」
「シリュウさん、私を助けてくれた時に服着替えさせたでしょう? その時に裸見てますよね? 胸を、見てますよね?」
「…。」明後日の方向を見る…
あ、目を逸らした。罪悪感はあると。
そして、意識もしてたと?
「…。確かに悪いことをしたことになるか。」
「いえ、助けて貰ったのは本当に有り難いことで、感謝してます。ブラジャー…胸に付けてた布を取ったのも、血とか鉄とかでダメになったからだろう、ってことも理解はしてます。ただ嫌悪感が生まれたのも事実でして…。」
「呪いの条件を満たした、と。」
「いえ、ぎりぎりセーフです。満たしてたら鉄の針が自動必中して、鉄が体内からこんにちはしてたはずですから。パンツまで外してたらアウトでしたね! 良かったです。」
「…。テイラの鉄から危険を感じる訳だ…。」
「シリュウさんから離れようとしたのも、ふとしたことで呪いが発動する可能性が高かったからです。恩を仇で返すことになるな、と…。」
「なるほどな。」
「…こんな、面倒臭い私ですけど、そばに置きます…?」
「…。そうだな。むしろ、…丁度良いかも知れないな。」
「丁度良い、ですか?」
「俺も魔力を暴走させてやらかしたことはある。だが、テイラの鉄なら防げるだろう? なんなら俺の体にダメージを与えることまでできる。稀有な存在だ。」
「まあ、〈呪怨〉ですからね。」
「その、〈呪怨〉に負けず、自分をしっかり保ててる。凄い、ことだよ…。」
なんか、すごい透明な笑顔だな。
まるで、自分が負けたことがある、みたいな…。
触れない方が良いか。
「なら、とりあえずパーティ候補でしばらくお願いしますね。」
「…。ああ、頼む。」
「じゃあ、そう言うことで。もう1回、寝れたら寝ますね…。お休みなさい。」
「ああ。」
外に意識を向けると、どうやら雨は止んだようだ。
明日は晴れる、かな?




