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338話 敗北は評価低下に直結しない

「──ここまで、です。残念ですが私の負けですね。」シュウウ…!


 構えを解いて姿勢を正したフーガノン様が、敗北を宣言した。

 全身から、無属性魔力なのか蒸気なのか判別できない白い煙がもうもうと上がっており、頭に有った白いロザリーさんの角も消え去っていく。



「」あぐっごぼほ、あがっ…!


 対してミャーマレースは、水の結界ドームの中で崩れ落ちていた。四つん這いになり、文字通り血反吐を吐いている。

 結構重体なのかも知れない。


 周りを見れば、ほとんどの人が硬直したままだ。

 あの白いか○はめ波の衝撃は相当だったのだろう。特に魔力を感じとれる人達には。



「えー…! ダブリラさんっ! 勝敗は、この場合どうなりますでしょう!?」悩んだら無茶ぶり!

「…、えー…? ん~…。レースちゃんの勝ち、かな~。

 色男君は魔力切れ。半日はまともに魔法も使えない。

 レースちゃんは重傷だけど、まあ数分経てば動けるし。水結界も即座に再構成してるから守りは元通り。

 流れはひっくり返らないね~…。」


 なるほどなるほど。ではそういうことで。


 風魔法使い(フーミーン)さんが硬直から復帰しているのを確認し、拡声魔法が使えることを確かめる。



「協議の結果、勝者ミャーマレース! しぶとさ(生存力)無駄魔力(高魔力)が決め手になりました!

 しかし、フーガノン様の奮戦は大変素晴らしいものでした! 正しく竜騎士(ドラゴンライダー)極致(きょくち)! 皆さん、惜しみない拍手をっ!!」パチパチパチ!


 私の言葉が辺り一帯に広がると、にわかに歓声が上がった。

 付き添いで来ていた兵士達は大興奮で快哉(かいさい)を叫び、騎士達は胸に手を当てて礼をしている。通りすがりらしき野次馬冒険者達まで、大声で称賛の言葉を口にしていた。



「ミャーマレース殿、対戦ありがとうございました。

 ──この春に我々は、森林魔境・アトリーピューツへの大探索を行います。腕に覚えの有る冒険者の方々は、是非とも彼女と共に──」


 フーガノン様がクラゲ頭を持ち上げつつ、春の大攻勢についての宣伝を始めた。フミさんがそれを補助する為に拡声魔法の入力先を変更したらしく、その間にこちらは一息入れる。



「鉄っち、目論見通りってところ~?」

「はい? 何がですか?」あー、水美味し…


 何かダブリラさんがニヤニヤ話し掛けてきた。またウザ絡みか。



「レースちゃんの勝利とは言ったけどさ~、認めないよね~、誰も。

 属性無し劣等竜騎士の評価を上げて、暴走した迷惑なエルフの信頼を下げる。初めっから狙ってたんでしょ~?」

「いえ、別に…? そんな面倒なこといちいち考えませんよ。」

「ええ~? 本当に~?」

「私が今回何か企んでいたとしたら、この騒動でシリュウさんが起きないかなぁ~? くらいのもんですよ?

 まあ、無理だったみたいですけど。」


 実は、あの白い必殺技が鉄の家の脇を通り抜ける進路で放たれていた。

 町や街道の側には人も居て危ないし、家を置いた場所は元から何も無いから他に被害が出ないと言うことだろう。


 あれほどの衝撃なら、直撃でなくとも多少は内部にも響いてそうだが、出てくる様子も皆目無い。天岩戸(アマノイワト)作戦は失敗と見ていいかな。



「…、ねぇ、鉄っち…? 平然と狂った言葉(こと)言うの、止めてくれない…?」怯え…

「? 何の話ですか?」

「だから。なんでシリュウくんを叩き起こすつもりなの? 彼の寝床(ねどこ)を用意したの鉄っちでしょ…?」

「使い心地を確かめるだけの予定だったのに爆睡してるんですもん。最初は、やっと睡眠取れて良かったなぁって思ってましたけど。10日以上も寝られると、ちょっとなんだかなぁって気分にもなりまして。

 まあ、そこまで本気でやろうとは思ってませんよ。叩き起こすなら直接、鉄ハリセンしに行きますし?」

「…、(…うん。これ以上踏み込まないでおこう…。)」無言のお手上げ…




 ──────────




「ハッ! 存外やるではないか、ベフタスの犬風情が!」尊大態度…

「こちらの言葉ですよ、ローリカーナ。あの結界を破らんとした貴女の奮戦、なかなかのものでしたよ。」涼しげ態度…

「ほざけ!」嫌みか!?


 さっきまで集中治療を受けていたとは思えない赤髪バカ貴族(ローリカーナ)が、偉そうに戻ってきた。

 腕は元通りになり、服も着替えたらしく見た目に問題は無い。魔導具の籠手も予備の物を装着しており、完全復活である。早速とばかりにフーガノン様に噛み付いている。


 とっとと持ち場に戻れこの面倒女。



「さあ! ローリカーナが復活したところで、『おバカ貴族を全力で殴って泣かそう大会』! 再開しましょうか!!」フルボッコだ、ドン!

「ひwどwいwなwまwえw」急にやめて~!ww


「キサマアァ!! どこまでも私を愚弄(ぐろう)するかあ!?」憤慨!!

「他の騎士や兵士が見てますのよ! 恥を知りなさい!」この呪怨青髪!


 そう言うセリフは真面目に騎士の(つと)めを果たしてから言ってくださいますか? あなた方の周りからの評価は、とっくに恥じる余地の無い最底辺なんすよ。特に、何も貢献してないおバカ侍女(バンザーネ)



「では! 『聞き分けの無いローリカーナちゃんの相手をしてあげまちょうね~、の会』! 堂々再開! です!」言い替えてみた!


「「」」ギャアギャアギャア!!


 とりあえずうるさいのは無視してサクサク行こう。

 適当に体を動かせれば満足してコロッと態度を変える単純(こども)頭なローリちゃんだ。まともに相手をするだけ無駄なのである。


 と言う訳で、スタンバってくれている挑戦者(殴り要員)をお呼びする。



「マボアの町にこの人、()り! 上級冒険者の1人にして! 流麗なる爆炎の魔法使い! ラーシエンッ!!」


「…、」すたすた…


 ぷるぷる震えながら水魚に乗って退()いたクラゲ頭に代わり、歩いてきたのはラーシさんだ。

 セミロングの赤い髪を(なび)かせて対戦位置に向かい、ローリカーナの方を見る。



「──春の足音が近き厳冬に相見(あいまみ)えたこと、光栄でございます。私の胸が一足早く温もりで満たされる思いです。」非攻撃の礼…


 向き合ったと思った途端、ラーシさんが晩冬期の貴族挨拶をした。草原なので膝を突く格好こそしていないが、魔法の起点たる手のひらを斜め後ろに向ける仕草は、目上に対する非敵対の意思表示だ。


 流石は元貴族。位が高いとは言えあんな奴に頭を下げることができるとは…。



「…、礼儀を受け取ろう。これより礼節を(はい)することを許す。」

「ありがとうございます。」やんわりとポーズ解除…


 うわぁ、ローリカーナがまともに貴族やろうとしてる…。鳥肌が立つんだけど…。



「ふん。だが、所詮は下賤(げせん)の者だな。私の誘いは断って、端女(あやつ)の側に付くとは。」

「現在の私は野蛮な冒険者でございますから。(とうと)き方の力添えなどできるはずもなく。」


 ラーシさんにこの話を持ち掛けた時にこう言っていた。「竜騎士の大家たるイグアレファイトの女から、執拗(しつよう)に勧誘されたことが有る。」と。

 私達がこの町に来る前にローリちゃんがやっていた迷惑行為。今回ラーシさんがこんな企画に応えてくれてのも、その時の鬱憤を晴らす目的が有るとか何とか。


 単純に、曲がりなりにも炎の精霊の力を使う相手との魔法戦にワクワクしていた様にも見えたが。



「まあ、良い。ひねり潰してくれる。」籠手をワキワキ…!

「こちらも魔法戦で手加減などしませんので。」杖構え…


 ま、どんな理由が有るにせよ、参加してくれるだけありがたい。

 火属性魔法使いとして、格の違いってやつを見せつけてやってほしい。



一種技だけ(ワンパターン)炎精霊もどき、対! 変幻自在火炎魔法の専門家(エキスパート)! ここに試合開始ですっ!」


「意味の分からん()(ごと)を…!」不愉快…!

「…、(無駄に(あお)るの、止めてくれないかしら…。)」やっぱり断るべきだったかも…


次回は8月4日予定です。

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