336話 色無し竜騎士の実力
「いや~! 存外にローリカーナが奮闘しましたね! ダブリラさん的には、この戦い、如何だったでしょう?」
「急にどうしたの? 鉄っち。」
「いえ、彼女が回復するまで場を繋ぐ為に、感想戦的な総括でもと。」
ちらりと、ローリカーナが倒れている方を見やる。
意識が無い彼女に回復ポーションが施され、少しでも体力の低下を抑える為に、おバカ侍女が中心となって魔力で覆って保護されているみたい。
さながら野戦病院の簡易集中治療室の様な有り様だ。
強引な攻めを敢行した結果、籠手型魔導具は全損。水の結界に触れて傷ついた右腕を生け贄に攻撃魔法を発動した為、肘から先が消失し、他にも右半身を中心に大火傷、と相当な重症を負っている。
完全に自爆とは言え、よくもここまで大怪我したものだ。
まあ、奴ならしばらく時間を掛ければ動けるまでに回復するだろう。
「鉄っち、まだ戦わせる気なんだ~♪ 『鬼畜生』だね♪」夢魔族より魔族っぽいー♪
「いや、そもそも言い出したのはローリカーナの方ですし、あの人のしつこさはご存知でしょう? どうせまたすぐ模擬戦模擬戦って騒ぐに決まってますもん。」
その為に奴を好き放題攻撃できる人員を集めたと言うのに。どこまでも面倒なローリちゃんだ。
クラゲ頭の方を見れば、魚水は消して澄ました顔で草原の上に佇んでいる。
水エルフの従者が側に寄って何事か言葉を交わしている様だが、目を閉じて腕を組んだまま周りを気にする素振りは無い。
「余力が有りそうですし、ミャーマレース選手に何かしてもらいましょうかね。
どなたか、あの水結界をぶち破ってみたい!と言う挑戦者は居られるでしょうか!」
「水氏族をw 余興扱いとかww」お腹痛いーw
風の拡声魔法を通じて周囲に提案を呼び掛けるが、反応はイマイチと言った感じ。興味が有りそうな雰囲気の人もちらほら居るっぽいが、高位のエルフとの戦闘は気が引けるのかな?
まあ、クラゲ頭の抑え役である魔法騎士の方なんかは参加する訳にいかないけれど。
「かのエルフ様は攻撃魔法を封印して出場しています。人間やエルフ相手に怪我をさせることはできないので、軽い気持ちでご参加いただければ──」
「──では私が出ましょう。」
凜とした声が響き、周囲のざわめきがピタリと消えた。
回復ポーションを回収し終えて微笑みながら歩いてくるのは、青みがかった白い長髪の、優男。
「あー、えっと? フーガノン様が、自ら参戦、なされるので…?」
「はい。」にっこり…
白い竜騎士が笑みを貼り付けたまま、顔をクラゲ頭へと向ける。
「ミャーマレース殿もあの様な戦いでご不満でしょう。ローリカーナが戻るまでの間、私と模擬戦を致しませんか?」にっこり…
「…、」無言のまま目を開く…
な、なんか変な迫力を感じるのは気のせい、かな…?
フーガノン様は、ここ最近町を留守にしていた。
ベフタス様の名代として、春の大攻勢を掛ける周辺領地への呼び掛けを行っていたからだ。
確か、その一環で、クラゲ頭が駐留していた最北の町にも赴き、顔を合わせているはず。
そして、その後、あの水エルフがこの町にやって来てシリュウさんとガチバトルになり、例の大乱闘になった…、って訳で。
色々と思うところが有る感じか…?
「くふっ♪ なんか面白いことになりそうだね~♪ いいよいいよ、やっちゃおう!」
「えっと、大丈夫でしょうか…?」なんか不安…
「…、私は、問題有りませんわ。」
「では。」一礼…
──────────
そうして始まったミャーマレース対フーガノン様の戦いは、穏やかな様相を見せていた。
クラゲ頭はワンパターンの水膜結界を展開。
ただ、膜の上に「水の紋様」が浮かんでいるから、より強度は高めているみたい。
目を閉じることもなく、対戦相手を注視している。
対するフーガノン様は、徒手空拳でのヒット&アウェイ。
全身に白い魔力を纏い、結界の周りを駆けながら、時に拳から魔力弾を発し、時に鋭い蹴りを叩き込む。
「果敢に攻めるフーガノン様! しかし、結界はびくともしない! ミャーマレースは棒立ちのままです! やはり水氏族の名は伊達では無いのか!」
「鉄っち。なんであの男には『様』付けしてるの?」
「尊敬できるからです!
おっとぉ! 白い蹴りが弾かれたぁ! しかし、その脚に傷は有りません! 距離をとって魔力弾を連射ぁ!」
「普通、水の氏族の方が偉いんだけどなぁ~。」
結界の強度を確かめつつ、隙を窺っている様子のフーガノン様。
その姿に興味が無いのか、ダブリラさんが無駄雑談を続けてくる。
「あ、もしかして鉄っち、彼に気が有ったり?♪」
「いえ、全然!」
「即否定とか怪しい~♪ ああ言う見た目貴族で中身野獣な男が好きとか、良い趣味してる~♪」
「そっすか。
ここで水結界が更なる高速回転!? 猛攻に耐えきれなくなってきたか!」
「え~? 荒々しい攻めを受けたいって願望持ちな感じ──?」
「解説。しましょっか。」ジャキン!!と鉄針4本ガチ構え…
「…、ほ~い…。」なんで本気の激怒…?? こわ…
ケラケラ笑いを止めたので、私も鉄針を収納する。
「…、いや~、それにしても『色無し』の竜騎士とか、面白い存在が居たもんだね~。」
「フーガノン様は、無属性魔法の使い手です。その上で、白い角恐竜のロザリーさんと契約を交わした竜騎士でも有ります! その実力はこの町でも上位だとか!」
フーガノン様を揶揄する様な言葉に、正当な評価を加えて補足する。
「魔力量とか制御力はそこそこだけど~。あれじゃどれだけやっても結界を抜くのは無理かな~。」
「フーガノン様には相棒たるドラゴンが居ます。彼女を召喚して2人がかりで攻めれば、可能なのではないでしょうか?」
召喚体の大きさを自在に変えられるロザリーさんだから、巨体で踏み潰すなり、小型で走りまわって荷電粒子砲を撃ちまくるなりすれば突破可能な気がするのだが。
「それはしないんじゃない~?」
「? できない、じゃなくて、『しない』んですか?」
「鉄っち、レースちゃんの誓約のこと忘れてるでしょ~?♪
『竜』相手なら攻撃できるんだよ~?」ケラケラケラ~♪
「でも、ドラゴンって生物は、エルフにとって相性が悪いから有利に立てる──」
「だからこそ。
出てきた瞬間、全力攻撃するよ? レースちゃんは♪」にんま~り♪
「そちらの夢魔族の方が言う通りです。」
距離を取り攻撃の手を止めたフーガノン様が、こちらを見ながら返答した。それなり離れているが、向こうも拡声の魔法を使っているらしく会話に問題は無いみたい。
「ロザリーの鱗ではミャーマレース殿に押し負けるでしょう。
あの方は『泉の氏族』。水の氏族の中でも、魔力生成量が飛び抜けて高い一派です。それが一度攻撃に転ずれば、『洪水』を前にするも同じ。」
「あっれぇ~?♪ もしかして降参宣言かな~?♪」
「いえいえ、まさか。」
見ていて不安になるほどに綺麗な笑顔で、爽やかに答えるフーガノン様。
「私も、竜騎士の端くれ。そして、ベフタス様に指導を頂いた、この町の守り手。
ここからは全力を出すとしましょう。」スッ…
そう言って右腕を前に出し、手のひらを上に向けた。
すると、その手の中から白い光を纏った「球」が出現する。
あれは、竜の宝珠だ。契約竜を召喚する為の特殊な魔導具。
やはりロザリーさんを出すのかな…? お2人が連携すればあるいは──
「──ロザリー。『憑依召喚』。」
カッ──!!
小さな呟きの後、強く真っ白な光が立ち昇った。
次回は21日予定です。




