333話 バトルしようぜ! ポ○モンで!
「今日こそ決着を着けてやる! 覚悟しろっ!」
「…。」はぁ~~~…
寒々しい草原に、傲慢勘違い女貴族の声が響く。
いつものことながら、本当に面倒臭い。
シリュウさんの睡眠を見守って数日、またまたローリちゃんが怒鳴り込んできたのだ。
なんでも「キサマが『精霊憑き』だったとはな!! キサマの前にその精霊を下してやるわ! 『不死鳥』を宿した、この私がなっ!」と言う短絡的思考で突撃してきた模様。
なので今回は、精霊バトル。
こちらは、見た目が水っぽいスライムのアクアさん。
対するあちら様は、精霊そのものと融合しているって理由で自ら出てきたローリカーナ。
フィールドは鉄の家の手前、町に近い側。
色々と忙しい司令所の皆さんの手を煩わせることなく、そして鉄の家の異変をすぐさま察知できる様に配慮した形だ。
あわよくば、この騒ぎでシリュウさんが起きないかと期待してるけど、まあ弱々雑魚騎士相手では諸々力不足かな~…。
「腑抜け大伯父から許可は出ている! 完膚なきまでに打ちのめしてやるからな!」
「キャー…。」哀れみの目…
上空に控えてくれている召喚竜のカミュさんから、溜め息の様な声が聞こえてきた。きっと呆れているのだろう。
ベフタス様はクラゲ頭の関連で、アクアが大精霊に関係する存在だと知っている。その強さが水氏族エルフを超えていることも理解されている訳で。
ローリカーナが勝てる見込みは無いと踏んで、「1つ揉んでやってくれ。」と念話越しにお願いされたのだ。
まあ、シリュウさんはぐーすか寝てるし、異世界味噌は未だ届かないし、ダブリラさんは合間合間に微妙に絡んでくるし。
色々溜まった鬱憤をこのバカ貴族様にぶつけてやろう。
気持ちを強引に切り替え、ローリカーナを見据える。
今の私は、精霊使いだ!
「行って! アクア!
──君に決めた!!」指差しビシィッ!
──ぽよん!
私の掛け声と共に腰から飛び出したアクアが、背中・肩を伝って私の頭の上に着地する。
ふっ、相変わらず絶妙に体重を掛けるのが上手いぜ。(謎肯定) 体幹を身体強化、っと。
「ハッ! 頭に乗られるなど躾がなっていないな!」
「珍妙な姿ですこと。青髪端女にお似合いですわね!」
ローリカーナとその従者からからかいの言葉が投げ掛けられる。
こんなバカどもの前にアクアを曝すのは気が引けたけど、アクア本人が体を動かすことに存外積極的だったから今回の対戦は成立した。
なんでも『1度まともに魔力回路を稼働させてみたいからね。何をしても良い「人間」は貴重だろう?』とのこと。
つー訳で、ボッコボコにしてやんよ?
「食らうがいい! 『ドラゴンクロー』ォ!!」ゴオオゥ!
ローリちゃんの籠手型魔導具から5本指の火炎塊が放たれ、こちらに向かってくる。
炎タイプが水タイプに歯向かう愚かさ、とくと味わってけ。
「アクア! 『ハ○ドロポンプ』!!」
『良いだろう。』ドッ…ゴバアア!!
私の眼前に大きな水の塊が出現した。と思った次の瞬間には、その塊が破裂する様な勢いで前方に膨らみ、極太の青いビームの如くローリカーナに向かって伸びていった。
ジュッと言う小さな音を立て火炎塊を呑み込み、あっと言う間に赤髪貴族ちゃんに直撃する。
「…っご!? こばっ!?」ほごごご…!?
そして、ローリカーナが巨大水塊の中に沈む。
どうやら、放った水を操作して檻の様に閉じ込めたらしい。
あの様子じゃあ泳いでの脱出も無理そうだな。
不死鳥の回復力とやらでも、もうどうにもならないだろう。そも自我の無い雛鳥的な状態らしいし。
魔力も結構籠められてるだろうし、そもそも厚み数メートルの水が纏わりついて迫ってくるとか普通に恐怖。ポ○モンの技よりも凶悪だね。
勝ったな。(確信)
──────────
「」ちーん…!
おめでとう! ローリカーナは 水死体に進化した!!
アクアは 2の経験値を 手に入れた! 所持金が 0増えた!
「ローリカーナ様ぁ!?!?」ダッ!
バカ侍女がローリカーナを救おうと、岩の壁盾を出現させながら駆け寄って、岩の槍で水塊を掘削しはじめた。バシャバシャと鋭い岩を突き立てるも、水塊はすぐに元の形に戻ってしまう。
あら、乱入者、いや次の対戦相手かな?(すっとぼけ) なら相手してあげないとね!
「アクア! 『み○でっぽう』!!」ビシィ!
『こうかな?』チュイイン!!
細くまとめられた水の束が岩盾に直撃し──貫通した。
「ヒッ!?」何ですの!?
『』チュンッ…!
そのまま薙ぎ払う様に斜めにスライドすると、岩の槍も盾がまとめて真っ二つに切断され崩れ落ちる。バカ侍女も尻もちを着いて戦慄いていた。
うっわぁ…、断面がめちゃくちゃ綺麗に平面だ…。
「水で岩を切った…。どれだけ魔力籠めたの、アクア…。」
『君の科学を利用したまでさ。「ウォーターカッター」ってやつだよ。』ぽよぽよ~…
ウォーターカッターとは、字面の如く水流で岩や金属を切断する技術だ。圧縮放出した水の物理力だけでは足りないので、水流中に研磨剤として細かい粒子を混ぜ込むことで対象物を抉り削げる仕組み。
確か、ダイヤモンドの粉末なんかが使われるんだったか…?
思い返してみたらあの直線水流も、何か黒く濁っていたっぽかった? 砂粒でも混ぜてたのかな?
『いや、君の呪鉄だよ。それを粘土粒子程に細かく分解して一緒に放出してみたんだ。「水の鉄砲」らしいだろう?』
「…。エグくない…?」
魔法構成物に特攻効果が増し増しですね…?
『ふむ? 君は、あの土属性持ちの侍女とやらを嫌悪していると感じていたんだが。やり過ぎたかな?』
「ん~、ま! それもそうか!」オールオッケー!
その後、適当なところで巨大水球を解除してあげて、ローリカーナを解放した。
そのまま放置してるとゴホッ!と水を吐いて自力で呼吸を再開したのは、流石の生命力だったね。まあ、起き上がれないくらいには衰弱してたけど。
そのままバカ侍女の岩塊に乗せられ、逃げる様に退散していったのだった。
ふっ…。アクアを舐めるからこうなる。
魔王の娘すら手玉に取る、四大精霊の一角様だぞ。分かったら猛省して出直してこい。
いや、出直さなくていいや。
そのまま己の無力を噛み締めて余生を過ごしてくださりませ~。
『その私を「従魔獣」扱いしている君も、軽薄さではあの娘と似た様なものだけどね?』
「…。ジムバッジが足りないか…。」反抗されとる…
『足りてないのは「良識」じゃないかな?』やれやれ…
次回は30日予定です。




