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331話 爆心地と予定崩壊

「シリュウさーん? 大丈夫ですかー?」ゴンゴン、ゴンゴン…!

「…、返事無いね。」


 シリュウさんが要塞寝室に入って、20分は経っただろうか。一向に出てくる気配がない。

 予定では、魔力の漏れが無いかを確認したら出てくるはずなのだが。


 離れた場所で状態観察をしてくれているラーシさんやゼギンさんからは、「鉄の家の中に入った時点で、竜喰いさんの魔力反応が途絶。」「こちらで分かるのは、建物が発する火と土属性の魔力のみでござる。」との報告が上がっている。


 ダリアさんも、家の周りを歩いて観察してくれていたが、異常は感知できていないそう。

 シリュウさんが告知なく角兜(抑制装置)を付け直していない限りは、部屋を構成する魔鉄が上手く働いていると見て良いだろう。


 つまりは、居座る理由が無いのである。

 なので、家の中に入り、寝室のドアをノックするが何の反応も無い。


 多分、音が届いてない。

 壁が、ぶ厚過ぎるもんなぁ。内側との通信装置的な物が必要だったか。


 内線電話とかは絶対無理だけど、「手術中」みたいな外に向けてのパネル表示とかなら…。こう、魔鉄を赤熱させて点灯…? まあ、後で考えるとしよう。



「中で、ご飯でも食べてるんですかね…?」

「反応くらい返すだろ。

 やっぱり『寝て』んじゃないかい?」

「ん~? どうでしょう…。」


 シリュウさん、かなり渋々と言うか要塞寝室の能力を疑ってたから、眠れないと思うんだけども…?



「暗い室内ですっ転んで、呪怨(わたし)の鉄に頭ぶつけて気絶してる、とか…?」

「…、流石にねぇだろ…。」


 と言いつつも、ダリアさんの表情は半信半疑って感じだ。

 微妙に可能性が有るもんね。



「まあ、ちょっと中の様子見ますかね。」

「それしかないねぇ。」外の連中に念話通信…


 とりあえず、直接中に入って確認するしかない。本当にトラブルに陥ってるかもだし。



「すみませ~ん! シリュウさん、開けますよ~!」


 聞こえてないかもだが一応の声掛けをして、ドアの取っ手に手を掛ける。



(おっも)っい…! って…!」キュラ… キュラ…


 くそぅ! 身体強化全力でも! ちょっとずつしか! 動か! ない! しっ!


 シリュウさん個人が使う物だからと、基準を合わせ過ぎたか…! 頑丈なのもっ! 考えもの──



「──閉めなっ!!」バッ!!

「へ?」

「扉を閉めるんだよっ!」ガッ!!


 私の手ごと、ダリアさんが取っ手を押す。

 見上げると、切羽詰まったダリアさんの顔がそこに有った。



 ──キュラキュラガチン…



 扉を元通りにし安堵の溜め息を吐いているダリアさんに向き直る。



「いったい、何が有ったんです…?」きょとん…

「本気で何も感じなかったのかい…?」


 マジもんの(さげす)みジト目をいただいた。会ったばかりの頃を思い出すね。あの時と違って殺意とか害意は()もってなさそうだけど。



「ごめんなさい、全く分かりません。」


 特に異音もしてなかったし、異変も感じなかったけどな…?



『──「溶岩君(ようがんくん)」の魔力が噴き出してたんだよ。』ぽよん!

「アクア?」


 私の腰から器用に飛び上がって、アクアが肩に乗ってきた。



「分霊様の言う通りだよ。」

「シリュウさんの魔力? そりゃ中に居てるんだから当然じゃ?」

「量がヤバいんだよ。」

『魔力密度が桁違いなのさ。』


 鉄巻き貝の中で寝てたはずのアクアですら気づく程の、強烈な魔力放出だったんだとか。



『そうだね、卑屈娘にも分かる様に説明するなら。

 普段の彼を「建物の火災」、抑圧が無い状態を「山火事」と同等とすると、部屋(そこ)から出てきた魔力波動は「隕石落下の爆心地」と言ったところだね。』


隕石(いんせき)っ!?」


 世界崩壊(ワールドエンド)クラスの災害ってこと!?



『流石に惑星規模の被害が出るほどではないけどね。垂れ流せば、町1つは軽く滅ぼせるかな?

 そこの土風エルフ君でも数分浴び続ければ、肌が焼け(ただ)れるだろうね。』

「…、1分も持ちませんよ、分霊様…。」

「ええぇ~…?」困惑…


溶岩君(かれ)が本格的な眠りに入っているのは確定だ。下手に刺激せず、見守るのが無難だろうね。

 ──眠れる「虎」は、起こさない方が身のためだよ?』




 ──────────




「──と言う話だったのじゃ…。」もぐもぐ!

「………、」げんなり…


 異世界モンブランをつまみながら、ウルリにここまでの顛末を語って聞かせている。


 今日も極美味甘味がサイコー! 甘い物でも食べないとやってらんねぇぜー!



「ねぇ、なんでそんな恐いこと、私に言うの…? (あと、『のじゃ』って何…。)」非難の眼差し…

「ん? いや、『赤の疾風』の皆さんに迷惑かけるし、優秀な斥候(スカウト)職のウルリにも伝えておかないとなぁ、って?

 あとは、タブリラさんとエギィさんに用事が有るから?」


 重大な案件は周知を徹底するのがベターだからね。

 特に事情をある程度知ってて顔も広く、他の人と立ち位置が異なるウルリに共有しておけば安心安全だし。


 ダブリラさんには緊急時の防衛ライン(セーフティ)を打診するつもりだ。


 半日ほど様子を見たが、魔鉄部屋は今のところ壊れる気配は無い。しかし、いつまで持つかは不明なので、崩壊した時に備えて抑え込めるシステムの構築は必須である。

 〈汚染(おせん)〉の呪いで魔力を惑わし乱すことができるあの人は、この状況には最適だろう。


 まあ、アクアとその下僕(クラゲ頭)の2人がかりによる水属性封印魔法が最有力候補なので、気分屋の彼女は予備(バックアップ)要員なのだけど。不機嫌シリュウさんを警戒して遠巻きにしてたけど、これからはどう行動に出るか分からないしねぇ。



「エギィに何する気…。最近、テイラを怖がり過ぎて、私まで避けられてるんだからね…。」


 エギィさんはウルリと同期の冒険者で、彼女の故郷で異世界味噌を作っている為に仲介役をしてくれている。



「あー、それはごめん。ほら、異世界味噌──じゃなくて。ドロドロ豆の調味料の話でね?

 今陸路でこっちに運ばれて来ているはずのそれを、シリュウさんと一緒に様子を見に行くつもりだったのよ。その予定が崩れたから、お詫びと言うか報告と言うか、一言伝えておこうと思って。」


 魔鉄家が完成したら、人力車で出発する予定だったのになぁ…。

 やっぱり魔力の影響を無視してでも、ウカイさんに空輸してもらうべきだったかも。


 でも、あの人も大概忙しそうだし、シリュウさんの安眠の方が優先だし、このまま待つ他無いんだけど。



「人生、って…、ままならないことだらけだよね~…。」もぐもぐおいしー…

「…、ホントにね。」よくここまで色んな騒ぎを起こせるよね…


次回は16日予定です。

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