33話 勧誘
見た目未成年のキャラによる飲酒描写がありますが、中身は成人以上の年齢であり、異世界の慣習上問題無い行為です。
現実の未成年の飲酒は止めましょう。
「旨い料理が食えるなら、他はなんとでもする。料理を作ってくれないか。」
子どもみたいなキラキラした目で何を言ってるんだ、この角兜は…。
見た目どころか、言動も子どもか?
もしかして見た目通りの年齢なのか実は?
最年少特級冒険者とか、なろう主人公か?
いや、落ち着け私?
「えーと…?」
「黒袋の中の食材はほとんど乾燥して食べづらくなったものばかりでな。そのアリガみたいに美味くする方法があるなら、教えてくれ。俺には、特級ポーションよりもよほど価値がある情報だ。」
「いや、無いでしょう。1000万に届くくらいですよね? 特級ポーションの値段。料理のレシピごときが釣り合う訳無いじゃないですか…。」
「何言ってんだ。ポーションは俺には必要無いし本部のギルドに申請すれば供給してくれるが、黒袋の中身を料理しようとした奴も、実際に美味く調理した奴も初めてだ。余程希少価値が高いだろう?」
「ええぇぇ…?」
下級に昇進した冒険者が下級ポーションを支給される感覚と、同列で語るなよ…。
今まで誰も料理しようしてこなかったとかそんなこと──ある、な。
このシリュウさんだもんね…。食べ物に近づく奴は絶対睨み倒してただろうね…。
「あの、私、〈呪怨〉持ちでギルドに連行される感じだったんじゃ? 料理作るのと矛盾してません?」
「些末だ。問題無い。」
切って捨てた!?
「〈呪怨〉で世の中に被害を出すなら潰すが、テイラは生きてくのに利用してるだけだろ? 本当に問題は無い。あっても潰す。
そうだ…! 俺のパーティーに入れ! それなら特級に近い扱いもできるし、色々面倒も見れる!」
ぐいぐい来る…!めっちゃ推して来る…!!
アームを2本追加、計4本で威嚇。
これ以上来るなら本気で針千本部屋にしてやる。
「ストップ!ストップです! とりあえず一旦止まって!! お願いだから!!」
夜の雨の中、何してんだろ私…。
──────────
「何が不満なんだよ。テイラに必要なものは揃ってると思うが?」
4本のアームを揺らす。
「とりあえず近づくのは止めてください。マジ呪いますよ。」
「…分かった…。」
はぁ…。やっと落ち着いてくれた。
食に関してアグレッシブ過ぎるよ、この人。
やっぱり強い魔力持ちは変人奇人の集まりだな。我が強くて意味不明な行動し過ぎ。
とりあえず水飲も。
「アクア、シリュウさんにも水…、」
「いや、いい。こっちで飲む。」
シリュウさんが例の革袋から木の樽を取り出した。
今度は樽かあ。これまた一抱えくらいの大きさでやんの。
あの革袋、どうなってんだ…って、ええ?
その樽を抱えて、直接口付けて飲み出した…。
ごくごくとラッパ飲み、いやこの場合は普通に樽飲み? 豪快だな…。
ってこの匂い、酒!?
マジか…。マジで自棄酒しやがった…。そして、飲み過ぎ…。
「ふぅー…。」
「そ、そんなにお酒? 飲んで、大丈夫ですか?」
「何がだよ? 問題無いだろ。」
酔って襲って来ないかな…。
「と言うか、お酒は乾燥劣化しないんです…?」
「ああ。このマジックバッグは俺の魔力を吸って動いてる。普通の食材じゃ俺の魔力に負けて乾燥していくが、それに抵抗できるくらいの魔力を保有していれば乾燥しづらいんだ。この酒は魔力が多いやつだが、蒸発しないようにかなり意識して流れる魔力を調整してる。」
ふむ、普通に喋ってるな。顔色もほとんど変わってない。
「へぇー。なら、お酒の中にお肉沈めれば乾燥せずに保存できるんじゃ?」
「…。…!?」
なんだその「その手があったか!?」って顔。
このくらい思い付けよ。
バッと動いたシリュウさんは革袋から何かを取り出した。
いや、何? 木の皿に乗った…「板」?
色味的にもしかしてビーフジャーキー的な成れの果て?
そして、そのパリッパリになってる板を、酒樽の中にドボンと沈めた。
…。
「すでに乾燥してるものは、元には戻らないでしょう…?」
「…。」無表情…
この人バカだな?
つーか、やっぱり酔ってるのか?
──────────
酒樽から肉の板を引き上げた後、「酒の味がするのも悪くない。」とかバカなことを言いながら硬いままの板を噛み千切って食べていくシリュウさん。
そんなバカを眺めながら、考える。
昼寝をがっつりして眠くならないな…。
違う。
この後のことだ。
正直なところ、この人のパーティーに入るのは相当魅力的だ。
豊富な魔力で魔導具もたくさん使えて楽だろうし、特級の人脈は様々なことを可能にするはず。
それに食料を提供してくれるのは大きい。
普段でさえ動物を害することができなくて狩りは無理だし、収入が無いから食べ物を満足に買うこともできない。
さらに今は腕は萎びて動かせず、肩から金属腕が生えた奇っ怪な姿だ。市場に買い物など無理である。
何より〈呪怨〉持ちの私に普通に接してくれるのは、涙が出そうになるくらい有り難い。
もしこれが演技なら…、
いや、それは流石に無いな。まあ、何か騙されてるなら、どのみち呪えば良いだけだ。
薬や食材の恩を、料理で返せるって言うのも助かる。
日本に居た時は女として並みくらいには料理してたし、お昼番組とかで海外の料理を見た記憶もあるから、できることは多少はあるはず。
乾燥食材ばかりってのがかなり不安だが…。
う~ん、夜の相手をさせる気が無いって言ってたけど、本当かなぁ…。失礼なことだと思うけど…、健康な少年の姿してるから色々あると思うんだよなぁ…。
でも、高い魔力のエルフは、パートナーを作る気が全体的に薄くて子どもがかなり少なくなってた。自分達が長く生きるから次の世代を作る欲求が低いって言ってたな。
シリュウさんもそんな感じなのかなぁ…。心配しなくても大丈夫かなぁ。
どーするかなぁ…。
作品のジャンルを間違っていたので小説情報を修正しました。
なんだ「異世界(恋愛)」って…。この作者に恋愛話が書ける訳がない。
この作品はずっと異世界のまま話が進みます。ので「ハイファンタジー」が恐らく適正です。
絶無でしょうが、恋愛要素を期待されてた読者様にはお詫びします。




