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328話 労いマッサージと報酬の大樽

 ごぴゅん、ごぴゅん、ごぴゅん、ごぴゅん…



「………ねぇ、大丈夫なの、アクア?」もーみもーみ…

『良い感じだよ。』ぽよふ~り…


 あ、さいですか…。


 現在、私はアクアを(ねぎら)う会を開いている。


 クラゲ頭とのいざこざを止めて角が立たないように収めてくれたMVPである彼女──声の感じが女だから女性扱いで良いはず…──に、ささやかな恩返しをしているところだ。


 私の〈鉄血(てっけつ)〉を遠隔で、しかも他者が発動させるなんて荒業を成したアクアさんだが、それ相応に消耗していたらしい。

 消耗と言ってもそんなに重いものではないらしく、『君風(きみふう)に言えば、半日駆け足(ジョギング)した様なものかな?』と軽い運動したわ~、的な雰囲気だった。


 いや、それ、めちゃくちゃ疲れるやつじゃん…。

 問題は無いって言ってたから許可出したのに、申し訳が無いんですけど…。

 と、落ち込んでいたら『なら、労っておくれ。』とお疲れ様会を開催した訳だ。



『ほら、余計なことを考えてないで。手が止まってるよ。』ごぴゅごぴゅ…

「あ、はーい…。」もみっ…もみっ…もみっ…


 呼び掛けに意識を現実に戻し、触腕で飲み物をごくごく飲んでいるアクアの、体を揉み込む作業を再開する。


 しかし、このぷるぷる水スライムボディをマッサージすることに、意味は有るんだろうか??


 体を()んで固くなった所を(ほぐ)せば、疲労回復に効果が有るのは当然なんだけど、特段、()りとか感じないんだよね…。

 普通にぷるぷるとした感触しか、指先に感じない。

 気分は完全に、ホウ砂で作るジェル粘土(スライム)で遊んでいるだけである。



「ねぇ、マッサージ(これ)、本当に意味有るの…?」もっちょん… もっちょん…

『有るとも。君を奉仕させていると実感できるだろう?』


「…それって、つまり。凝りを解すとかじゃなくて、使役されてる私を見て(えつ)に浸ってる…、ってこと…??」もっちょもっちょもっちょ…

『端的に言えばそうだね。』


 アクアさんが変に鬼畜(きちく)なんですけど…(泣)

 どうしてこうなった…。



宿主(きみ)に似たんじゃないかな?』

「私のどこが鬼畜なのよ…。」もちょもちょも~ちょ…

『敵対者に容赦ないじゃないか。男子(こども)でも平気で殴り飛ばして笑える精神性は、なかなかだと思うよ?』

「…うぅ…。」


 鋭い指摘に言葉が出ない。

 やはり私は社会のゴミか…。周りに迷惑掛けるだけのトラブルメーカーだよね…。ハハっ…。



『君も、私の体に触るのは心地良いだろう? 無心で()でたまえよ。』

「まあ、そうだけどさぁ~。」もっちょんぷよん…

『少なくとも卑屈娘(きみ)は、あの水エルフなんぞよりよほど価値が有る。気ままにやりたいことをやれば良いさ。』ごっぷんごっぷん…ずずずっ…


 心を抉る内容の後に優しい言葉を掛けるとか、クソDV男かな??

 なんて考えていると触腕が突っ込まれている大きな木樽から異音がした。どうやら中身を飲み干したらしい。



『ほら、卑屈娘。おかわりを持ってきておくれ。』

「まだ飲むの…? 流石にもう止めておいた方が良くない…?」

『私が貰った報酬はまだまだ有るのだろう? 止める理由が有るのかい?』

「だって、もう2樽(・・)だよ? しかもこんな大きなサイズの…。」

『ふむ、それで?』

「いや、だから…。アクアの体に悪そう、って言うか…。」

『私は精霊だよ? 生物構造的な害など無いさ。』

「ならなんで、お酒(・・)を飲んでるのよ…。酔えないでしょ?」


 そう、マッサージを受けながらアクアさんがごぷごぷと触腕で(すす)っていたのは「アルコール」である。

 しかもこの大樽に入っていたのは、顧問さんが生産に成功した「蒸留酒」。ただでさえ度数が高い酒が、10樽なんて量で置いてある。


 これは、あのクラゲ頭を枷を付けて生かしつつ世界樹管理者レベルにまで力を復活させた功績に対する、お礼の品なのだ。



『もちろん酔えないとも。

 だが、捧げられた供物(くもつ)を頂かないのは“勿体ない(モッタイナイ)”と言うものだろう?』

「供物て。」


 いやまあ、これを譲渡してくれた時の顧問さん、アクアに対してめちゃくちゃにへりくだっていたけども。

 完全に崇拝者(すうはいしゃ)の姿だったけども。


 なんでも、アクアの本体たる激流蛇って大精霊が大の酒好きらしく、その力を取り戻したアクアにもその嗜好が有るのではないかと気を利かせてくれた訳だ。


 シリュウさんへの食料とか私の生活の場とかでお世話になりっぱなしなのに、有り難い話である。



『存在規模を修復する前だったなら数年単位で眠り続けただろうけれど、今の私ならこうして酒精を取り込めば十分に回復できるんだ。良いことじゃないか。』


 適合食材が蒸留酒っすか…。味覚すら人間と違うだろうに贅沢なことで…。

 そんでもって、あのリボン付き魔鉄棒が、大樽のアルコールと等価、かぁ…。


 笑えばいいのか、嘆けばいいのか、これもう分かんねぇな…。



『きびきびと運べば良いと思うよ。』

「…はぁ~い…。」


 まあ、アクア本人(本精霊?)が満足するなら別に良いんだけどね。


 私は、いそいそと身体強化を発動させて重い大樽をアクアの側へと転がす作業に移るのだった。



 さて、この後は、シリュウさんの機嫌を直すのと、異世界お味噌問題を解決したいところだなぁ…。


 頼れる我らがアクア様、色々と手伝ってね?


次回は26日予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] アクアも中々に癖のある性格してますねぇ…w
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