表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

320/406

320話 夢魔の思考と小さな一撃

(魔力消費量は相当なものにはなってんだけどなぁ~。

 やっぱり、「世界樹の欠片」の魔力生成量が狂ってるよね~。)


 灰色肌の夢魔ダブリラが、ふよふよと空中に浮きながら戦場を見渡す。


 自身の〈汚染(おせん)〉による紋様構築阻害、「砂塵」のダリアの砂嵐、テイラの謎鉄での魔法霧散。

 さらに、離れた場所に居るシリュウを封印拘束する為に莫大な魔力を使った上で、これらの攻撃を捌き続けている水氏族のエルフ(ミャーマレース)は面倒極まりない。


 しかしダブリラは、事態を楽観視していた。

 ミャーマレースの思考(かんじょう)は、激憤や使命感──見当違いの「見栄」とも言う──を上回って、恐怖と焦りで塗り潰されかけている。


 直に均衡が崩れ、封印拘束を脱したシリュウが即座に飛んでくるだろう。

 溶岩大精霊(かれ)が加われば、この「()かん(ぼう)」を生きたまま制圧することは容易い。


 むしろ、怒り狂っているだろう彼が、ちゃんと手加減(・・・)してくれるかどうか。

 不安はそちらだった。



(レースちゃんが死んだら、色々面倒臭いよね~…。でも無罪放免ってのもなぁ~。

 どうにか、あの短杖を機能停止させ(止め)られれば一番楽だけど。鉄っちの鉄で囲えば、いけるかな~?♪)


 ちら、とテイラ(鉄っち)の方を見る。


 何やら真剣な顔で、謎鉄を謎弓(本当に弓かなぁ?)で射出しまくりだした、青髪の人間。

 己よりも遥かに年下の呪い娘が、今何を考えているのか。まるで分からない(・・・・・・・・)


 彼女の頭──恐らく普段着けている「髪留め」──から(ほとばし)る、非常に強力な『風魔力』のせいだ。

 平時であれば、漏れ出る感情ぐらいなら難なく読み取れるのに、現状では直視することすら困難だった。



(いやぁ、本当に、何なんだろうね~…?)げんなり…


 呪怨鉄を生み出す呪い娘が、何故ゆえ、〈汚染(おせん)〉の「邪眼」に完全抵抗する馬鹿げた魔力(かぜ)を放っているのか。


 内心で乾いた笑いを浮かべるダブリラは、飛んでくる魔法を〈汚染〉で迎撃しつつ頭の片隅で思考を続ける。



(まあ、レースちゃんが固執している「風氏族のお姫様」(がら)みなんだろうな~。

 シリュウくんの魔力を「鉄化」させた能力の応用、って考えれば、筋道は通るし?)


 詳細な話を聞けるかは不明だが、テイラを無事に帰すことこそが今この場での最大目標。

 シリュウとの関係悪化を防ぐ為にも、冒険者ギルドの技術発展の為にも、夢魔の食事提供者(きょうりょくしゃ)を保護すると言う名目でも、とても重要だった。


 それを()すには、今この場に居る3人目の救援者(・・・・・・・)にそろそろ動いてもらうべきかと考えていたダブリラは。


 彼女(・・)が行動に出ようとしていることに、気づくのが遅れた。



「──!? 待った! ウルリん!」




 ──────────




 闇属性の特性『隠蔽(いんぺい)』を独自展開し、姿と気配を消していた魔猫族の雨瑠璃(ウルリ)

 実はダリア・ダブリラと共に水のドームに侵入しており、それ以降、魔法を一切使わずに彼女らの背後で息を潜めていたのだ。


 ウルリは、荒れ狂う戦場の中でひたすらに様子を窺っていた。


 テイラの鉄矢がドームに接触し(ミャーマレース)の気が再び()れ、攻防の末ダリアの棍棒が大きく弾かれたのを見とめた瞬間。


 好機(チャンス)はここだと、一気に動き出した。


 素の脚力のみで飛び上がり、テイラの巨大鉄盾の(へり)に足を掛け大きく跳躍。

 空中で動きを止めたダリアの棍棒表面に軽やかに着地。

 武器が纏う風魔力を隠れ蓑に、最小限の風魔法で棍棒を蹴り、水エルフへと全力で飛んだ。


 狙うは、敵が握る小さな杖。

 目にするだけで魔猫(おのれ)の本能が悲鳴をあげるほど、絶大な魔力を放つあれを奪取すれば──



「──()えて、ますのよ。」


 ──ボプン!



 突如生じた水球にウルリの上半身が捕らえられ、動きが止められた。

 混乱しつつも、半ば無意識に抵抗を選択。


 右足後方に風魔法を噴出させ、強制的に体を捻り下段から回し蹴りを放つ。

 猫のしなやかさを兼ね備える肉体が(きし)みをあげるほどの勢いで、(すね)がミャーマレースの腕を強打──したかにみえたが、水の障壁が展開され防がれた。


 反撃を食らうよりはマシだろうとダリアが放った砂礫が2人諸とも襲うものの、やはり水魔法で到達を阻まれる。



(こ、のっ…!)


 息を止め、ウルリは必死にもがき、考える。


 敵は自分を()めている。

 化け物じみた3人の攻撃を防ぐので手一杯だからこそ、即死レベルの攻撃ではなくただの水球で動きを封じたのだ。


 しかし、内包する魔力が高過ぎて己の風魔法では突破できない。

 このままではただ放置され、数分後には溺れて意識を失い、最悪、死ぬだろう。


 死にたくはないが、それ以上に。

 大恩人たるテイラの危機に、無理を言って付いてきたのに、何もできずに終わるなんて、嫌、だった。



(今、できる、ことを…!!)


 ウルリは、何の意味も無いとしてもやれることを全うしようと、身体強化が掛かっていない(・・・)左足を我武者羅(がむしゃら)に蹴り上げた。


 ミャーマレースはそれを認識しつつも、放置。他の攻撃に意識(リソース)を回す。


 結果、少女の非力な左足は、短杖を握る水エルフの腕に(わず)かに接触し──




 ──フォン!

 ──バシ…!



 水エルフの手から、青き短杖が零れ落ちた。



「────は…?」


 ウルリの、魔力回路が破壊された左足の内部。

 骨髄(こつずい)の中に(かす)かに残る、テイラの呪怨鉄(・・・)の欠片が、ミャーマレースの腕に掛かる強化魔法を霧散させたのだ。


 魔力の高さに甘え肉体を鍛えたこともない箱入り水エルフと、上級冒険者として自立している少女とでは、素の膂力(りょりょく)に違いが出るのは当然だった。


次回は31日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ